ホアキン・フェニックスが大ヒット映画『ジョーカー』(アカデミー賞・主演男優賞を受賞)の次に選んだ作品、というだけで鑑賞意欲が倍増する。『カモン カモン』は、心臓に衝撃が来るような内容だったあちらとは対照的で、観ているうちに心が暖まってくる。モノクロの画面、落ち着いた音響(“ザ・ナショナル”の双子兄弟、アーロン・デスナーとブライス・デスナーが担当する音楽も含めて)、クスッと笑わずにはいられない会話の数々などなど、実に穏やかだ。『ジョーカー』にはニューヨークを模したのであろう都市が登場していたが、こちらには実際のニューヨークも登場する。

画像1: 伯父と甥が“人間対人間”として心を開き合う。穏やかで暖かな、ホアキン・フェニックス主演作品『カモン カモン』

 ホアキン扮するジョニーはニューヨークを拠点とするラジオ・ジャーナリスト。日本ではあまり聞きなれない言葉だが、ラジオ番組の制作・司会・取材などを一手に担当している感じか。ロサンゼルスに住む妹がしばらく家を離れることになったので、その間、彼女の息子(ジョニーにとっては甥)・ジェシーのケアを、まずはロサンゼルスですることになった。

 ウディ・ノーマン扮するジェシーは9歳。「なぜ」「どうして」の嵐に包まれている年頃だ。独身で、姉(ジェシーの母)との関係も決して良好とはいえないジョニーへのツッコミも容赦ない。慌てたり、どう説明していいものかと悩むジョニー。彼は数多くのインタビューをこなしてきたかもしれないが、そういう職種の者は、自分のことを聞かれる機会が極端に少ない――というのが、似たような仕事についている筆者の印象である。

 ジョニーはジェシーを連れて、アメリカを取材旅行する(ニューオリンズの風景もさわやかだ)。ジェシーにとってアメリカの広さを体感する機会はこれが初めてだったのではないだろうか。このとき、彼は9歳にして、これまで自分のまわりにあった世界がほんの小さなものだったと体感したはずだ。叔父と甥がいかに心を通わせていくか、じっくり見届けてほしい。

画像2: 伯父と甥が“人間対人間”として心を開き合う。穏やかで暖かな、ホアキン・フェニックス主演作品『カモン カモン』

 劇中には、「ラジオ番組の取材シーン」のシーンもある。マイクを向けられているのは9~14歳の子供たち。有色人種にとっては毎日が闘いであろう。だが彼らは希望を捨てず、真摯だ。この子供たちから得たインスピレーションも、ジェシーを成長させたに違いない。監督・脚本はマイク・ミルズ、撮影監督は2018年のコメディ映画『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞の候補となったロビー・ライアン。4月22日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。

映画『カモン カモン』

4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー

【STORY】
NYでラジオ・ジャーナリストとして1人で暮らすジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることに。LAの妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……。

出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト

監督・脚本:マイク・ミルズ
音楽:アーロン・デスナー、ブライス・デスナー(ザ・ナショナル)
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
2021年/アメリカ/108分/ビスタ/5.1ch/モノクロ/原題:C’MON C’MON/日本語字幕:松浦美奈
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