世界で唯一、RGB印刷方式の有機ELパネルを量産している株式会社JOLED。同社の有機ELパネルは色の忠実さ、色域の広さが評価され、多くのモニターディスプレイメーカーの編集用や医療用機器に搭載されている。これまではB to B用途が中心だったが、先日、自社ブランド初の家庭用インテリアモニター「glancy」(グランシー)を発表、クラウドファンディングをスタートした。
今回の連載では、デバイスメーカーであるJOLEDが家庭用ディスプレイを発売することになったいきさつについて、開発担当者にインタビューした。対応いただいたのは、株式会社JOLED 製品事業本部 事業開発推進部 部長の小野雅行さん、同マーケティング部 担当部長の永濱幸裕さん、同事業開発推進部の板倉俊輔さんと、本開発をコンサルティング企業として支援した株式会社シグマクシス アシスタントマネージャーの林 詢蔵さんだ。(編集部)
麻倉 今日はJOLEDの次世代インテリアモニター「glancy」について、詳しいお話をうかがいたいと思っています。
そもそもJOLEDは、有機ELパネルを製造するデバイスメーカーです。しかし今回は家庭用モデルを発売するということで、私も意外でした。パネルメーカーがディスプレイを販売するというのは、これまでにない方向性で、画期的です。
小野 弊社製品に興味を持っていただき、ありがとうございます。JOLEDは、デバイスメーカーとして印刷方式の有機ELパネルを供給してきました。
4K有機ELパネルとしては、2017年12月に21.6インチを製品化、2021年3月には27(26.9)インチと32(31.5)インチパネルの量産化を開始しました。
これらのパネルはセットメーカーさんにもお使いいただいていますが、新しい市場を切り拓いていきたい、そのためには我々自身も使い方を発信していかなくては駄目だろうと考えたのです。
麻倉 セットメーカー任せではなく、自分達でもパネルの価値を高めていこうということですね。当然、glancyも自社製パネルを使っている。
小野 はい、27インチの印刷方式4K有機ELパネルです。表示デバイスとしてのポテンシャルは高いと思っていますので、そこに何を映すとお客様に一番喜んでもらえるかと考えました。
有機ELパネルの、薄くて軽いというメリットを活かそうと思った時に、通常のテレビではなく、リビングの壁に簡単に掛けて楽しめる製品にしたいと考えました。そこで、アートを楽しむディスプレイとして提案しよう、と。
板倉 企画自体は3年ぐらい前に立ち上げ、この一年は社内で具体的な仕様を詰めていきました。どんな機能が必要かとか、デザインをどうするかといった点でブレストを繰り返していたのです。
麻倉 海外ブランドのテレビでは絵画表示機能を搭載した製品を見たことがありますが、日本のテレビメーカーではほとんどこういった発想はなかったと思います。その意味ではglancyが目指すのは新しい分野であり、ニーズもあると考えたわけですね。
板倉 その通りです。弊社としてはこれまでにないパネルの使い方というアプローチで考えました。
麻倉 有機ELパネルなら自発光で視野角も広いから、壁掛け設置でもちゃんとした色、しっかりとした映像が楽しめる。四方八方から見ることができるという価値は大きいですね。一方で有機ELパネルには焼き付きなどの心配があると思いますが、その対策はどうなっているのでしょう?
板倉 有機ELのモジュールに、同じセルに同じ画像が出ないように、一定期間でちょっとずつずらしていくという機能が入っています。
またアート作品用ですので、通常のテレビよりも輝度を低めにして、焼き付きにくく、目に優しくて表現がちゃんとできるような画質モードに設定しています。
麻倉 glancyはとてもスマートなデザインですが、音はどうなっているのでしょう?
小野 スピーカーは内蔵していませんが、Bluetooth送信機能を持っているので、別途Bluetoothスピーカーを準備いただければテレビ的にもお使いいただけます。薄さにこだわって、かついい音となると内蔵スピーカーでは難しい面もありますので、ある程度割り切って考えました。
麻倉 HDMI端子はありますか?
永濱 HDMIを2系統搭載していますので、単体チューナーをつなげば放送も観られますし、PCモニターとしてお使いいただくこともできます。
麻倉 glancyは、リリース写真でも、今日のデモ機も縦置きで設置されていますが、この使い方が基本なのでしょうか?
永濱 パネルの角度を自動検出しますので、縦でも、横配置でも使用可能です。縦配置を打ち出しているのは、テレビと差別化したいという思いもあります。
麻倉 有機ELらしい色階調の豊かさ、しっかりとした画質がベースにあるので、絵画もとてもリアルです。ところで、アート鑑賞用といっても、コンテンツはどうやって入手したらいいのでしょう?
永濱 今回は「J-GARO」という専用アプリも提供します。glancyのユーザーさんにスマホ上で好きな作品を選んでもらい、クラウド上にあるデータをglancyのメモリーにダウンロードしてご覧いただきます。
基本はサブスクリプションサービスで、古典絵画や風景映像などを楽しんでいただける月額¥980のスタンダードプランと、それに加えてオリジナルコンテンツを入手できる月額¥2,980のプレミアムプランを考えています。
プレミアムプランでは、弊社がアーティストさんから直接作品を入手しますので、他では見られない作品を楽しんでいただけますし、コンテンツも徐々に増やしていく予定です。風景画像は4Kの動画で提供されるものもあります。
麻倉 glancyでは、どのような画調を狙ったのでしょう。油絵や水彩画といった様々な素材にも対応でき、でもインプレッシブじゃないといけないし、有機ELらしさも必要となると、絵づくりはかなり難しいはずです。
板倉 弊社としてはglancyという無地のキャンパスを用意しますという姿勢です。もちろんいくつかの映像モードは搭載していますが、アート作品の場合はベーシックな「ノーマル」モードをお使いいただきたいと思っています。
小野 コンテンツについては、調達したデータをそのまま使うのではなく、有機ELの発色性やコントラストが活きるように手を加えています。
麻倉 なるほど、コンテンツ側で有機ELパネルに適したトーンに調整しているということですね。glancyはRGB印刷方式なので理想的な発光ができるし、アート作品の見え方や色の再現性にメリットもありそうです。
板倉 弊社の有機ELパネルは、色再現範囲が広いのが特長です。今回は、入力された信号をそのまま出せるように意識しました。
林 コンテンツについては、アーティストの方にglancyで自分の作品を見てもらいながら、色あいの調整や映り具合を確認していただいています。
その際にアーティストさんから、自分が本当に表現したかった色だったり、光沢を持たせたいといった、これまでのディスプレイではできなかった部分がglancyで実現できたというお話をいただきました。作品作りという点でも、有機ELパネルが魅力的だというコメントをいただいています。
麻倉 それは面白い。有機ELパネルで作るアート作品という新しい発想ですね。
林 アーティストさんからはふたつの指摘をいただきました。ひとつは先ほどお話しした色や光沢の再現です。
もうひとつはデザインで、これまでデジタル作品を展示する時は手頃な液晶モニターなどを使うことが多かったのですが、それだと作品とそぐわなかったそうです。glancyなら作品展示にもぴったりなので、自分の個展で使ってみたいと言っていただきました。
小野 今回はシルバー仕上げですが、ウッディなモデルも欲しいというお声もいただいています。
麻倉 コンテンツについてうかがいますが、スタンダードコースの場合はどれくらいの数の作品が準備されるのでしょう。
小野 スタート時点では古典名作が500素材ぐらいで、風景映像が300〜400の予定です。プレミアムコースは、スタンダードコースの他に現代アーティストの作品が縦横含め150 前後用意できると思います。
林 20名の作家さんに制作をお願いしていますが、いずれも有名な絵画ブランドとコラボしていたり、美術館で個展を開催するような方々で、新しい取り組みとして協力いただいています。それらの作品は、glancyに合うように色味や画角を調整していただいています。
麻倉 ということは、glancyで見て初めて、作家さんのインテンションがダイレクトに伝わるわけですね。作り手の意向にふさわしい内容を届けてくれるコンテンツサービスという発想はとても重要です。表示端末のglancyが素材を素直に表現してくれるのであれば、クリエイターとしても自分の狙いを間違いなく伝達できるわけですから。
林 そのためにも、実際に使う場合にはglancyがリビングに溶け込んでることがすごく大事だと思っています。
麻倉 glancyは色々な分野での活用が期待できると思いますが、JOLEDとしてはアート以外にどんな展開を考えているのでしょう。
小野 スタートはアートに軸を置いていますが、芸能事務所にもプレゼンをしたことがあります(笑)。そういったエンタメ系のコンテンツも検討したいと思っています。
麻倉 アイドルのファンに向けて、本人が気に入っている映像を届けるといったサービスもできそうですね。ライブパフォーマンスも相当リアルに楽しめるだろうし、ファンも感動するでしょう。
小野 カメラ愛好家も多いので、写真鑑賞用としても提案していきたいですね。デジカメやスマホに撮りだめている写真を綺麗に表示できますので。
林 スマホの写真は縦画角が多いので、glancyにぴったりです。最近のスマホのカメラは高画質ですから、有機ELパネルとの親和性も高いのではないでしょうか。
麻倉 glancyを壁一面に取り付けたら、面白い写真アートが作れそうです。そう考えるとものすごい発展性を感じます。
小野 最近はデジタルアートのNFT(Non Fungible Token)も注目されていますが、それを楽しむいい端末がないという話も聞いています。そこに対してアーティストさんから、glancyとアート作品をセットで販売するといったアイデアもいただいています。
麻倉 クリエイターが最終の表示品質まで担保しているとなると、NFTの価値もさらに高くなりますから、それはいい発想です。
ところで、コンテンツは本体メモリーに保存するとのことでしたが、容量がいっぱいになったらどうするのですか?
小野 データはUSBメモリーに保存します。最初は256Gバイトのメモリーが付属していますので、足りなくなったら大容量のUSBメモリーを追加、または差し替えていただければ大丈夫です。また、家庭内ネットワークにつなげば、NASから無線経由でデータを受け取って表示できます。
麻倉 さて、glancyはクラウドファンディングで販売をスタートしているそうですが、その詳細も教えてください。
小野 2月11日〜3月21日の期間でラウドファンディングを実施していますが、お陰様で目標額をクリアーしました。現在は¥159,000で支援を受け付けていますが、半年分のJ-GAROプレミアムプランも付いていますので、かなりお得だと思います。商品版は税込¥183,700で発売する予定です。
麻倉 印刷方式の4K有機ELパネルを搭載して15〜18万円はお買い得です。AVファン的にはglancyを使った超高画質デスクトップシアターも気になりますね。製品版が完成したら、ぜひチェックさせてください。