ヤマハは、昨年2月9日に逝去したジャズピアノの巨匠、チック・コリア氏の追悼企画「チック・コリア・トリビュート・ウィーク」を、2月 9日〜13日までヤマハ銀座店で開催した。
これは、チック・コリア氏が、1968年の初来日以来、何度も来日公演をおこなうなど日本の人々と文化を愛していたことと、ヤマハの楽器を長年愛用していたことに感謝し、また同氏が音楽界に残した偉大なるレガシーに敬意を表して、その音楽に浸り功績を振り返るために企画された。
過去の貴重なライブ映像をヤマハ銀座スタジオのスクリーンと音響で上映するフィルム・コンサートや、チック・コリア氏の弾いた演奏を自動演奏ピアノ「Disklavier」で再現するイベントなどを開催。またそこでは、同氏が音源収録時に実際に演奏したピアノの実物も展示された。
そして最終日となった13日(日)には、チック・コリア氏の名盤レコードから選りすぐりの楽曲を、ヤマハの「フラッグシップHiFi5000シリーズ」で届けるレコード・コンサートが開催された。
再生システムは、レコードプレーヤーが「GT-5000」で、これにフェーズメーションのカートリッジ「PP-2000」を組み合わせている。プリアンプは「C-5000」でパワーアンプは「M-5000」、スピーカーが「NS-5000」+専用スタンド「SPS-5000」という同社最上級ハイファイコンポーネントが並んでいる。
なおフォノイコライザーはC-5000の内蔵機を使っており、GT-5000とC-5000はバランスフォノケーブルで、C-5000とM-5000間もバランス接続という、MCヘッドアンプからの完全バランス伝送が実現されている。
イベントのナビゲーターは、エイトアイランズ株式会社 代表取締役・プロデューサーの八島敦子さんが担当。八島さんは、元・東京JAZZのプロデューサーで弊社月刊HiViでもお話をうかがったことがある音楽のプロだ。今回は時代を追って6枚のレコードをチョイス、八島さんの解説と共に、数曲ずつ再生された。
まずはチック・コリア氏の2枚目のリーダーアルバム『Now He Sings Now He Sobs』(1968)から2曲目の「Matrix」と、マイルス・デイヴィスのグループを脱退後に結成したアヴァンギャルド・カルテット、サークルのアルバム『Paris Concert - Circle』(1971)から「No Greater Love」を再生。
NS-5000は、トゥイーター、ミッドレンジ、ウーファーすべての振動板にZYLON(ザイロン)を採用したモデルで、音色と音速を全帯域に渡って統一、3ウェイ機ながらフルレンジのようなつながりのいい音を再現できる点が特長だ。
先述の2曲でも、トランペットやピアノの一体感、ライブ会場の空気感がとても自然に再現されている。一方で、これはレコード制作時の考え方に起因するものと思われるが、やや音がフラットで、もう少し厚みや熱気が欲しいという印象もある。それくらい5000シリーズのシステムがソースの情報を忠実に描き出しているということだろう。
続いてリターン・トゥ・フォーエバーのアルバム『Returnto Forever』から「What Game Shall We Play Today?」と、『Light As a Feather』から「Spain」を聴かせてもらう。この2枚はどちらもひじょうに有名だが、それが1972年という同じ年に発売されていることに改めて驚いた。
そのサウンドはクリーンで、「What Game Shall〜」のエレクトリックピアノとフルートの掛け合い、高域までの素直な伸びなど心地よく再現された。また「Spain」も拍手のリアルさ、リズムのテンポなどもスピード感もありつつ、ミュージシャンの指使いまで見えるような再現で聴かせてくれる。
最後に最新録音から、『The Spanish Heart Band』(2019)の「Armando's Rhumba」と「Prelude to My Spanish Heart」を、さらに2020年の『PLAYS』から「Chick Talks Mozart and Gershwin」「PastimeParadise」「Walts for Debby」を再生。
録音年代が新しいということもあるだろうが、音のクリアネス、実体感が一段と向上する。ラテンの情熱、軽妙なテンポがしっかり再現されるし、高域から低域まで音の質感が揃っているので、気持ちよく演奏に没入できる。ステージの楽器の配置の描写、奥行の再現性も絶妙だ。
今回はチック・コリア氏の代表曲を、年代を追ってアナログレコードで追体験したわけだが、時代ごとの変遷、あるいは録音手法の違いまできちんと再現されていた。もちろんこれは、ヤマハの5000シリーズの実力の高さが大きく影響しているのは間違いない。今回のイベントに参加した方々も、大好きなアーティストの進化をパッケージソフトを通じて楽しむという、オーディオの醍醐味を味わってもらえたのではないだろうか。(取材・文:泉 哲也)