WOWOWがハイレゾ・3Dオーディオのストリーミング再生に対応した「ω(オメガ)プレイヤー」アプリを使った配信実証実験をスタートしている。同社が独自に収録した様々なコンテンツを、AURO-3DやMQA、HPL-MQAといったイマーシブフォーマットで配信、実験に協力するユーザーに自宅でそれらを楽しんでもらうという試みだ。

 さらに前回の連載でお知らせしたように、『ハクジュ寄席』『ピアノデュオpiaNA』といった新しいコンテンツも制作、既にωプレイヤーで試聴可能だ。今回はそれらの収録現場にも立ち会った麻倉怜士さんのご自宅にお邪魔し、ωプレイヤーのコンテンツを、150インチスクリーン+イマーシブオーディオで体験いただいた。(編集部)

画像: Mac用のωプレイヤーを立ち上げると、視聴可能なコンテンツの一覧が表示される。写真は2月上旬のもので、18のコンテンツが準備されていた

Mac用のωプレイヤーを立ち上げると、視聴可能なコンテンツの一覧が表示される。写真は2月上旬のもので、18のコンテンツが準備されていた

 今回は、WOWOWのωプレイヤーを使って、同社が配信したイマーシブコンテンツを私の自宅ホームシアターで視聴しました。

 ωプレイヤーはWOWOW技術局 エグゼクティブ・クリエイター/博士の入交英雄さんが中心になって進めている、イマーシブオーディオ配信実証実験のために開発されたアプリケーションで、昨年末からモニター希望者に配布されました(編集部註:モニター募集は1月25日で終了)。

 入交さんはイマーシブ、立体オーディオの権威として世界的に有名なエンジニアで、これまでも多くの作品を制作されています。ここに来て、急激に時代がイマーシブオーディオに移りつつありますが、今回の実証実験は、そんな中で配信を使ってユーザーに高品位なイマーシブ体験を届けられないかという試みなのです。

 そもそもイマーシブオーディオでは、作り手の意識、姿勢がとても重要です。3D音場の中でどのように音像を定位させ、響きを演出するかを考えなくてはなりませんし、同時に音質にも配慮し、いい音で収録することが大切です。

 さて今回のωプレイヤーですが、まずは再生用アプリまで作ってしまったことが素晴らしい。以前の実証実験ではVLCメディアプレイヤーという無料アプリを使いました。しかし、音はよかったけれど、設定が難しくて、再生側でうまくデコードできないといった問題もあったのです。今回は自社開発アプリということで、そこも解消されています。

画像: 麻倉邸での視聴の様子。コンテンツの再生にはM1チップ搭載のMacBook Airを使い、MQAの再生時には写真左のUSB DAC、メリディアン「PRIMEHEADPHONE AMPLIFIRE」を組み合わせた

麻倉邸での視聴の様子。コンテンツの再生にはM1チップ搭載のMacBook Airを使い、MQAの再生時には写真左のUSB DAC、メリディアン「PRIMEHEADPHONE AMPLIFIRE」を組み合わせた

 ωプレイヤーでは、18のコンテンツが再生できます(2022年2月1日時点)。それらはMQAやHPL(Head PhoneListening)-MQA、AURO-3Dといったフォーマットの音声が準備されており、ユーザーの再生システムに応じて選んでもらう仕組みです。

 アプリ側で各音声をデコードしてPCのヘッドホン等で楽しむこともできますが、わが家にはMQA対応USB DACのメリディアン「PRIMEHEADPHONE AMPLIFIRE」と、AURO-3D対応AVセンター「AV8805A」がありますので、これらにMacBook Airをつないで、それぞれの実力を引き出してみることにしました。

 まずは最新コンテンツから、『ハクジュ寄席』と『ピアノデュオpiaNA』を再生します。これらは今年の1月11日〜12日に東京・富ヶ谷のハクジュホールで収録、リアルタイム配信されたもののアーカイブ版です。私は両日とも会場でMC(解説)を担当しましたので、もちろん現場の音も体験しています。

 MacBook AirのUSB Type-C端子から変換ケーブルでPRIME HEADPHONEAMPLIFIREのUSB mini-B端子につないで、MQAをフルデコードした192kHz/24ビット/2ch音声とHPL-MQA音声を、ファイナルのヘッドホン「D8000」で聴きました。

 『ハクジュ寄席』のMQA 2chでは、私と入交さんとの会話がクリアーで、意外によかったなという感想です(笑)。さらに、林家たけ平さんの声が本当に素晴らしかったですね。綺麗で、凄くよく通るんです。落語家さんは本当に“声の商売”なんだと実感しました。MQA音声がそのニュアンスをしっかり捉えているし、響きがとても美しかったのです。

画像: MacBook AirとUSBケーブルでつないで、ωプレイヤーからMQAのコンテンツを再生すると、DAC側できちんとMQAデコードの表示(写真中央の緑色のLED)が点灯した

MacBook AirとUSBケーブルでつないで、ωプレイヤーからMQAのコンテンツを再生すると、DAC側できちんとMQAデコードの表示(写真中央の緑色のLED)が点灯した

 そもそもハクジュホールはクラシック用の空間で、ホールとしての響きを持っています。今回はそんな場所で寄席をやるということで、ちょっと心配な面もありました。現場で聴いていると声の残響感が多めだったのですが、MQAではそういった不自然な響きはほとんど気になりませんでした。入交さんのマイキングとミキシングの賜物ですね。

 太鼓や三味線の音もよかったです。当日は一番太鼓やハネ太鼓、出囃子などを生演奏してくれましたが、太鼓の撥音、立ち上がり、立ち下がりが俊敏だし、三味線も弦の張りまでわかるようで、とにかくキレがいい。鋭い立ち上がり、キレがしっかり聴けたのは、MQAのフォーマットとしての表現力、再現力の確かさだと思いました。

 次にHPL-MQA音声を聴きました。こちらはヘッドホンでイマーシブオーディオ感を楽しむためのものです。HPLの効果としては、垂直方向に空気感が伸びるというもので、それが効いているなぁと感じました。ただしHPL-MQAでは音のキレ、質感、スピード感は少し甘くなる印象です。その意味では、音質重視ならMQA、音場感重視ならHPL-MQAという二択になるでしょう。

 『ピアノデュオpiaNA』は、西本夏生さんと佐久間あすかさんというふたりのピアニストによる演奏です。彼女たちは昨年7月に、ニコライ・カプースチンというロシアの作曲家の楽曲を演奏したCDを発売しており、今回もそこから選んだ曲を演奏してくれました。

 こちらもMQAではひじょうにクリアーで透明感があり、質感も心地いい。ピアノの音がふわっと広がる感じがよく再現されていて、MQAとしての音のよさ、マイキングの巧みさが活きています。

画像: ωプレイヤーで各コンテンツを視聴する際には、Mac側の設定も必要。「Audio Midi設定」を開くと、左側に接続したデバイス(DACやAVセンター)が表示されるので、ここから使いたい機器を選ぶ。さらにコンテンツに応じて「フォーマット」のサンプリング周波数とビット整数を設定する。MQAをDAC側でデコードする場合は写真のモードに

ωプレイヤーで各コンテンツを視聴する際には、Mac側の設定も必要。「Audio Midi設定」を開くと、左側に接続したデバイス(DACやAVセンター)が表示されるので、ここから使いたい機器を選ぶ。さらにコンテンツに応じて「フォーマット」のサンプリング周波数とビット整数を設定する。MQAをDAC側でデコードする場合は写真のモードに

 HPL-MQAは『ハクジュ寄席』と同様で、垂直方向の演出が明瞭に加わってきました。ヘッドホン試聴なので、音場的な演出という意味ではセンターが弱いのが残念です。ここがもう一歩進化してくれるといいですね。

 次にわが家のスピーカーシステム、JBL「K2 S9500」を使い、MQAをフルデコードした192kHz/24ビット/2ch音声を聴きました。ここではPRIME HEADPHONE AMPLIFIREのRCA出力を、プリアンプのオクターブ「Jubilee Preamp」につないでいます。

 音の感想としては先ほどのヘッドホン試聴と基本的には同じですが、ふたつのスピーカーの間にジャストサイズに音場が広がって、ひじょうに素晴らしい音だなぁと感じました。

 K2S9500は反応のいいスピーカーですが、三味線のテンションの立ち上がり方とか太鼓の衝撃音がダイレクトに飛んでくるという再現性が確認できました。

 たけ平さんの声はもちろん、太鼓も三味線も生々しいし、何より拍手が素晴らしい。2chなので、視聴位置の後ろまで音が広がるわけではありませんが、拍手の立ち上がり感、インパルス応答がとても鮮やかに再現されます。

 ピアノデュオで感心したのは、スタンウェイのフルコンサートが持っている輝かしさ、剛性感がきちんと再現できていたことです。とてもナチュラルだし、作っていない音という印象がありました。ピアノを2台使った演奏では、連弾に比べて音の厚みやスピード感、飛翔感もアップしています。

画像: AURO-3Dコンテンツの再生にはマランツ「AV8805A」を使用。MacBook AirのUSB Type-C端子に変換アダプターをつないでHDMIケーブルをつないでいる。アダプターによってはエラーになったしまうこともあるようなので、注意を

AURO-3Dコンテンツの再生にはマランツ「AV8805A」を使用。MacBook AirのUSB Type-C端子に変換アダプターをつないでHDMIケーブルをつないでいる。アダプターによってはエラーになったしまうこともあるようなので、注意を

 次にAV8805Aを使って、AURO-3Dの再生を試しました。なおωプレイヤーの場合、M1チップ搭載機ではAURO-3D音声は48kHz/24ビットまでしか出力できないそうです(原因は調査中)。コンテンツとしては96kHz/24ビットも用意されていますが、今回はM1チップ搭載機を使ったので、AURO-3D 48kHz/24ビット音声を再生しています。

 AURO-3Dを再生して思ったのは、“音質”と“音場”がしっかりバランスしているということです。音を聴いただけで、ハクジュホールの形、大きさ、壁の材質までわかりました。これはもちろん、入交さんのマイキングが優れている証拠でもあり、いい録音とAURO-3Dの持つ情報量、伝達性がもたらした成果です。

 寄席はとても面白い素材で、そもそも発音源が人の声のみです。だから、人が声を出した時に、それがどのようにホールの中で反射するか、響くかが手に取るようにわかります。

 AURO-3Dでは、声が前から来て、壁にぶつかって、ちょっと間を置いて別のところに響くという軌跡が生々しく録れています。2chではそういう響きがL/Rに織り込まれて、滑らかな、だら下がりになっていくのですが、AURO-3Dではリアルに、まさにその場で聞いている現場感、時間感を与えてくれます。響きや間接音の時間解像度が高いという言い方もできるでしょう。

 ピアノデュオでも、演奏者が登場した時に靴音が奥から手前に来るとか、椅子に座った後の位置を調整した時のきしみといった細かい音が生々しかったですね。

画像: MacBook Airの「サウンド環境設定」の確認もお忘れなく。写真はAV8805Aをつないだ場合で、MQA再生時はここでメリディアンDACを選んでおく必要がある

MacBook Airの「サウンド環境設定」の確認もお忘れなく。写真はAV8805Aをつないだ場合で、MQA再生時はここでメリディアンDACを選んでおく必要がある

 演奏音も、直接音がドーンと出て、間接音も同時に伝わってくる。そのふたつが一体になって届きます。寄席とは響きの持つ意味合い、音楽性の違いが感じられました。またピアノデュオは、音像がもの凄く大きいです。わが家のスクリーンは150インチですが、その画面全体に音像が広がってきました。

 映像は 2K解像度でしたが、画質もよかったですよ。ビクターの4Kプロジェクター「DLA-Z1」で4Kアップコンバートして投写しましたが、コントラストもディテイルも作為がないというか、変に強調していない、ナチュラルな映像が楽しめました。2K/30pなのでコマ落ち感はありましたが、それほど動きがあるコンテンツではないので、問題ありませんでした。

 さてアプリでは『ハクジュ寄席』『ピアノデュオpiaNA』を含めて18のコンテンツが再生できますが、それらの感想もお話ししておきましょう。

 もっとも感動したのは、宗教音楽です。サン・ピエトロ寺院の『バチカン国際音楽祭』、東京ガテドラル聖マリア大聖堂での『名倉誠人/マリンバコンサート』や『ジョスカン・デュ・プレの教会音楽』などは、まさにAURO-3Dの音場と音質の魅力が満喫できるコンテンツでした。

 例えば名倉さんのマリンバコンサートは、2人のマリンビストがバッハの平均律を弾いていますが、これほどの大きな空間、高さのある場所だと、音の体積がぐっと広がって、感動的な音楽に昇華しています。

画像: ωプレイヤーでAURO-3Dコンテンツを再生したところ。AV8805Aの情報表示画面に、しっかり「Auro-3D/PCM」と表示されていた

ωプレイヤーでAURO-3Dコンテンツを再生したところ。AV8805Aの情報表示画面に、しっかり「Auro-3D/PCM」と表示されていた

 デュ・プレの教会音楽は、男声や女声などの様々なメロディが教会の空間でブレンドされてでてくる、その様が本当によく捉えられています。発せられた声が天井まで上って、そこから降りてくるという、教会ならではの臨場感体験がしっかり再現できていると思います。これは必聴です。

 『熱海海上花火大会』も、垂直に打ち上がって、どんと爆発して、少し遅れて音が響いてくる、そんな花火体験が、リスニングルームで再現できました。

 『アームチェア・コンダクター』の「ボレロ」も面白かったですね。指揮者の位置にマイクを立てて、そこの音を聴くという試みで、今回は東京交響楽団の配置を変えて、弦楽器はそのままですが、木管と金管を左右に分け、センターは小太鼓のみという構成で収録しています。

 ラベルのオーケストレーションはそれぞれの楽器を際立たせています。最初の小太鼓のリズムは小さい音でセンターだけから聴こえ、次に第一フルート、さらに第一クラリネットがメロディを奏でるといった順番で様々な楽器が右や左から明瞭に出てくるのです。会場となったミューザ川崎は反響量が多いホールではありませんが、凄く爽やかな響きが感じられます。

 中でもホルンは面白かった。ホルンは向かって左に配置されていますが、なぜか音が右から聴こえるのです。実はホルンは開口部が後を向いているので、その音が背後の壁にぶつかって、壁面を伝わって反対側から鳴っているように感じたのです。これは会場でも気がつかなかったことでした。

画像: MQA試聴時の麻倉さん。ファイナル「D8000」との組み合わせで、192kHz/24ビットデコードとHPL-MQAの違いもチェック

MQA試聴時の麻倉さん。ファイナル「D8000」との組み合わせで、192kHz/24ビットデコードとHPL-MQAの違いもチェック

 イマーシブオーディオは、エンタテインメントとしても、とても楽しいコンテンツです。ただし、そのためには音がいいことが条件で、悪い音ではまったく楽しめません。“いい音”と“豊かな音場”の両方が、これからの音楽体験、配信体験には必要だなということを強く感じました。

 今回特に感じたのは、ωプレイヤーの音がいいことです。配信ではアプリによって音質が変わるわけですが、そういうところもちゃんと配慮されているし、操作性もいいので、ソニーの360 Reality Audioや、BS4K8K放送の22.2chといったイマーシブ音声も聴いてみたくなりました。

 それらを含めて。イマーシブオーディオコンテンツはωプレイヤーですべて楽しめるといったところまで進化して欲しい。また現状はMAC、iOS用ですので、AndroidやWindows用も必要です。さらに言うと、テレビやAVセンターにもプリインストールされるようになっていって欲しい。今回の実証実験に留まらず、ωプレイヤーのさらなる展開を期待します!

This article is a sponsored article by
''.