HiViベストバイ2021冬にて、DAC部門とヘッドホンアンプ部門で1位を獲得したブランドがEARMAN(イヤーメン)だ。2019年に始動したこの新進気鋭ブランドはどんな点を評価されたのか。小原由夫さんにその魅力をひもといていただいた。(HiVi編集部)

画像: 左:Tradutto、右:TR-Amp

左:Tradutto、右:TR-Amp

ヘッドホンアンプ部門Ⅰ(20万円未満)第1位
TR-Amp
オープン(実勢価格4万1,800円前後)

●定格出力:2.5V/400mW以上(16Ω)、3.4V/350mW以上(32Ω)
●接続端子:デジタル音声入力1系統(USBタイプC)、アナログ音声出力1系統(RCA)、ヘッドホ出力2系統(6.3mm、3.5mm、同時使用可)、充電用USBタイプC1系統
●最大サンプリング周波数/量子化ビット数:〜384kHz/32ビット(PCM)、〜11.2MHz(DSD)
●寸法/質量:W66×H30×D129mm/240g

D/Aコンバーター部門Ⅰ(20万円未満)第1位
Tradutto
オープン価格(実勢価格9万円前後)

●接続端子:デジタル音声入力3系統(USBタイプB、同軸、光)、アナログ音声出力2系統(RCA、4.4mmバランス)
●最大サンプリング周波数/量子化ビット数:〜768kHz/32ビット(PCM)、〜22.5MHz(DSD)
●対応Bluetoothコーデック:AAC、SBC、aptX、aptX HD、aptX LL、LDAC
●寸法/質量:W150×H30×D150mm/550g
●問合せ先:(株)ユキム Tel.03(5743)6202

 米シカゴ近郊にて2019年に設立された新進メーカーEARMENは、セルビアのハイエンドオーディオメーカーAuris Audioの協力の元、ヨーロッパで設計製造を行なう多国籍メーカー。その堅牢な製品のつくりを見ても、あるいは現物を手にとっても、同社がいかにしっかりとした物づくり体制を敷いているかがわかるというものだ。

 イヤーメンの製品の特色を一言で現すとすれば、私だったら「凝縮」というキーワードを挙げたい。コンパクトなデジタルオーディオ機器を得意としているようだが、チープな印象はまったくなく、リジッドな佇まいを有しているからだ。しかしそれは見た目以上にズシリとした手応えがあり、そのミニマルな筐体の中に高密度に集積された回路がぎっしりと詰まっている感じがする。デスクトップ、あるいは屋外で頼もしい存在感とパフォーマンスを発揮するに違いない。そんな安心感が湧いてくる。

 そのいっぽうで本国のウェブサイトを覗くと、超奴級の真空管式ヘッドホンアンプを数機種ラインナップしていたりと、なかなかユニークな、しかも本格的な製品ラインナップ構成を擁しているのもわかる(日本国内は未発売)。

 今回テストしたのは、PCやDAPとの連携を意識したポータブルDAC/ヘッドホンアンプのTR-Ampと、デスクトップ使用を想定したUSB DACのTradutto(トラデュット)の2機種で、いずれもヨーロッパで生産されているとのこと。

 TR-Ampは、手のひらサイズのアルミ押出し材の筐体にプリアンプ機能を内蔵したUSB DACだ。その内部に384kHz/32ビットPCM、11.2MHz DSD、MQA対応のD/Aセクションが収まっている。その処理を担うのは、ESSテクノロジー社製のDACチップES9038Q2Mだ。アンプ部には、テキサス・インスツルメンツ社製のTPA6120を採用し、最大400mWのヘッドホンアンプとして強力なドライブ力を発揮する。使用パーツも低ESR(等価直列抵抗)のタンタルコンデンサーなど定評のあるもので、それらを4層金メッキ基板に表面実装している。アッセンブルはスイスで行なわれているようだ。

 電源はバッテリー駆動で、連続10時間のポータブル使用が可能。背面パネルには同時使用が可能なデータ用/チャージ用のUSBタイプC端子を個別に装備しており、ホームユースにも万全である。

 トラデュットもコンパクトな筐体に完全バランス構成のアナログ出力回路を内蔵している点が見逃せない(ただし出力には4.4mmバランス出力変換ケーブルが必要)。他にRCAアンバランス出力端子を備える。

 心臓部にはTR-Ampと同様に、ESSテクノロジー社の高性能DACチップES9038Q2Mを搭載し、768kHz/32ビットPCM、22.5MHz DSDに加え、MQAもサポートしている。ブルートゥースのコーデックは、AAC、AptX対応。入力端子は、USBタイプB/同軸/光と万全の構えだ。

 筐体はフルブロック・アルミの削り出し。表面実装の4層基板はスイスでアッセンブルされている。定評のあるWIMAフィルムコンデンサーやMELF型低ノイズ抵抗など、高音質パーツが惜しみなく投入されている点もセールスポイント。オペアンプには、オーディオ性能を追求したテキサス・インスツルメンツ社製SoundPlus OPA1642を採用している。デジタル/アナログ回路はセパレート電源から供給される。

【TR-Amp】ヘッドホンアンプ、DAC、プリアンプの三役を果たす

 では、TR-Ampからインプレッションを記していこう。私が普段愛用しているウルトラゾーンのヘッドホンEdition8 Rutheniumを使用して試聴した。頭内にできあがる音場イメージの何と豊かなことよ! 井筒香奈江のハイレゾ音源「カナリア」では、骨格のしっかりとしたヴォーカル音像が現われ、声に付加されたリヴァーブが明瞭に感じ取れる。エレキベースとウッドベースの各々の低音の伸び、ピッチの克明さもよい。上原ひろみのピアノ・クインテットは、ピアノがワイドに展開する中で弦楽四重奏がピンポイントに定位する様子がよくわかる。マイルス・デイヴィスの「ブルー・イン・グリーン」では、クールなイメージの中にミュート・トランペットがくっきり現われ、Lchのピアノの余韻がとてもニュアンス豊かに響いた。

 ヘッドホンアンプとしてはきわめて優秀な実力機とわかり、HiVi誌「ベストバイ」の部門1位も頷ける。ではダイレクトモードを選択して、固定出力のUSB DACとして使った場合はどうか。これがまたなかなかのものだった。

 骨格の確かさはヘッドホンアンプ時と同様。その上で、こうしてステレオスピーカーで鳴らすと、立体的なステレオイメージの再現にも非凡なもの——というよりも、よくぞこの小ささと価格でここまでの表現力を備えているものだと感心させられたのだ。マイルス・デイヴィスでは、左右スピーカーの中央にファントム定位するミュートトランペットが鋭く響く。Lchのコルトレーンのテナーサックスはスピーカーに貼り付くことなく、スーッと分離して定位している。ピアノの音色は実にナチュラルかつ繊細。井筒香奈江では、エレキベースとウッドベースのそれぞれの質感の違いや声のリヴァーブ感がクリアーに再現された。ピアノが空中に漂うような感じもいい。

 いっぽうで本機は、プリアンプとしても使える(可変出力のモード)。こちらはUSB DACモードと比べてS/N面で若干劣るが、確かな密度感は変わらず。井筒ではヴォーカルのリヴァーブが細やかに聴き取れる。ピアノのフワッとした漂いもよい。上原ひろみでは、ピアノと弦楽隊がメロディを取る際に入れ替わる様がリアルに伝わってくる。アクティブ型デストクップスピーカーなどと組み合わせてもおもしろそうだ。

TR-AmpのPoint
ヘッドホン/スピーカーを簡単に切り替え

画像: イヤーメンのHiVi冬のベストバイ1位の2モデル、ヘッドホンアンプ「TR-Amp」、D/Aコンバーター「Tradutto」の音像に迫る

本機はヘッドホンアンプのほか、DACやプリアンプとしても機能する。使い方は2通りあり、ひとつめは背面のトグルスイッチを「ダイレクトモード」に切り替え、デノンPMA-SX1 Limitedにアンバランス接続して単体DACのように使用する方法。もうひとつは「プリアウトモード」(ボリュウム可変)に切り替えて、プリアンプとして使い、パワーアンプと接続する方法だ。ヘッドホンとスピーカーの試聴をシームレスに行なえるのが強みだ。(HiVi編集部)

画像: TR-Ampの背面。デジタル音声入力はUSBタイプCで、別に充電用のポートも備えている。充電式のバッテリーは連続10時間の再生が可能で、ポータブルのヘッドホンアンプとしても活用できる

TR-Ampの背面。デジタル音声入力はUSBタイプCで、別に充電用のポートも備えている。充電式のバッテリーは連続10時間の再生が可能で、ポータブルのヘッドホンアンプとしても活用できる

【Tradutto】4パターンの入出力を検証。音質はバランス接続が優位

 では続いてトラデュット。こちらは純粋なD/Aコンバーターなので、光とUSBタイプB端子から音声信号を入力し、デノンのプリメインアンプPMA–SX1リミテッドに接続した。結線はバランス接続である(前述の通り、本機にバランス接続ケーブルは付属しない。出力端子がDAPなどで採用例の多い4.4mmということを考えると、現状は汎用品が少ない変換ケーブルは同梱すべきと強く進言したい。今回は輸入元が用意した市販品を使用した)。なお、使用したPCはMacBook Proで、プレーヤーソフトはAudirvana。

 まず試したのはCDプレーヤーからの光入力。力強くて濃密な音は、TR-Ampと共通している。パトリシア・バーバーの歌唱は子音の発音やアクセントを鮮明に描写し、分解能の高さを実感する。ベースの重み、キックドラムの力感、テナーサックスの迫り出しなど、実に聴き応えの濃いサウンドである。ヒラリー・ハーンのヴァィオリンによる「ショーソン/詩曲」では、オーケストラが織り成す分厚いハーモニーと立体的なステージの中央に、ヴァイオリンがスクッと屹立している様子がホログラムのように浮かび上がった。ヴァイオリンの旋律の実に細やかなこと。精巧かつ濃密な独奏部にも引き付けられた。

 次に、USBタイプB入力にてアンバランス(RCA出力)接続とバランス接続(4.4mm出力)の比較をしてみた。バランス接続は、定位の克明さとS/Nのよさが第一印象だ。マイルスの「ブルー・イン・グリーン」では、Lchのピアノが実にリリカルに響くし、テナーサックスの太い響きがいい。Rchのドラムのブラシの質感も実に細やかだ。センターにまさに君臨するように立つマイルスのトランペットは、タンギングの様子も克明に聴かせる。

 アンバランス出力は、定位の明瞭さやステレオイメージの見通しのよさはバランス出力と同様だが、若干ナローレンジな印象で、力感についても少し引けを取る。「ブルー・イン・グリーン」のテナーサックスの太さなどにそれを感じるし、上原ひろみのピアノ・クインテットでは、リズムを取る左手の鍵盤が力強く響く。チェロの存在感もはっきりと出るし、重心の低さもあり、安定感でもバランス出力が勝る印象だ。

 特殊な変換ケーブルを別途用意しなければならない煩わしさはあるが、できることならトラデュットはバランス接続で使いたい。力強さと濃密さがこのサイズのプロダクトから享受できることに大いに感心させられたからだ。内部回路はもちろん、この削り出しのシャーシもサウンドパフォーマンスに大きく貢献していることは間違いない。

TraduttoのPoint
豊富な入力と出力

画像: トラデュットの背面。PCとUSB、CDプレーヤーと同軸、BDプレーヤーと光、スマホとBluetoothなど、複数の再生機器を同時に接続してアンプに送り出す2ch環境を構築できる

トラデュットの背面。PCとUSB、CDプレーヤーと同軸、BDプレーヤーと光、スマホとBluetoothなど、複数の再生機器を同時に接続してアンプに送り出す2ch環境を構築できる

画像: 4.4mm5極バランス端子とXLRメス端子の変換ケーブルを使用し、デノンPMA-SX1 Limitedと接続して試聴した

4.4mm5極バランス端子とXLRメス端子の変換ケーブルを使用し、デノンPMA-SX1 Limitedと接続して試聴した

トラデュットの入力はUSB、同軸、光の3種。USB入力時はPCMで768kHz/32ビット、DSDで22.5MHzまでのハイレゾ音源が再生できる。加えてaptX HDやLDACなど高品位なBluetoothコーデックにも対応する強力なDACだ。アナログ音声出力はRCAと4.4mmバランスで、後者は現在「4.4mm XLR」とウェブで検索すると対応の変換ケーブルがいくつか確認できる。(HiVi編集部)

画像: デノンDCD-SX1 LimitedとMac Book Proをプレーヤーに、プリメインアンプにデノンPMA-SX1 Limitedを使用した

デノンDCD-SX1 LimitedとMac Book Proをプレーヤーに、プリメインアンプにデノンPMA-SX1 Limitedを使用した

画像: 前面パネルには現在の入力と、再生中の楽曲レゾリューションが表示される。右のボタンあるいは専用リモコンで入力を切り替える

前面パネルには現在の入力と、再生中の楽曲レゾリューションが表示される。右のボタンあるいは専用リモコンで入力を切り替える

 コンパクトなモデルから輸入が始まったイヤーメン、どうしてどうして、その実力は侮れない。今後の展開が大いに楽しみだ。

【 本記事の掲載号はHiVi1月号 】

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