首にかけるだけで様々なコンテンツを楽しめる、ネックスピーカーが注目を集めている。耳を塞がずにすむので、家族から話しかけられても大丈夫だし、耳に近いぶんボリュウムを抑えることができ、近所迷惑の心配もない。

 そんなネックスピーカーに、また注目モデルが登場した。ソニーの新製品「SRS-NS7」は同社のテレビ、BRAVIA XR(ブラビアXR)シリーズとの組み合わせでドルビーアトモスの再生が可能。パーソナルな空間で立体音響を楽しめるのだ。ネックスピーカーという小さなボディでどうやってドルビーアトモスの再生を可能にしたのか? 音質にはどんな配慮をしているのか? 今回はSRS-NS7の開発陣にお話を聞いてみた。(StereoSound ONLINE)

ワイヤレスネックバンドスピーカー:SRS-NS7 市場想定価格¥33,000前後(税込)

画像1: 首にかけるスピーカーで、ドルビーアトモスの立体音場をパーソナルに楽しむ。SRS-NS7は、ウェアラブルスピーカーの新しい方向性を感じる:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート65

<本体>
●使用ユニット:約32×33mmフルレンジ
●エンクロージャー:パッシブラジエーター型
●Bluetoothコーデック:SBC、AAC、LDAC
●伝送帯域(A2DP):20Hz〜20kHz(44.1kHzサンプリング時)
●マイク形式:Electret Capacitor
●接続端子:USB Type-C
●電源:リチウムイオンバッテリー
●連続使用時間:約12時間
●寸法/質量:W244×H53×D185mm/約318g

<トランスミッター>
●入力端子:光デジタル音声入力(fs=48kHzのPCMに限る)×1
●寸法/質量:約Φ58×23mm/約29g
※単売時の型番と価格:WLA-NS7 市場想定価格¥7,000前後(税込)

麻倉 今日は10月末に発売されたネックバンドスピーカー「SRS-NS7」について、その特長と製品作りのこだわりをうかがいたいと思っています。早速ですが、 “ネックバンドスピーカー” という呼称はソニー独自のように思いますが?

島田 商品企画部の島田です。確かにネックスピーカーの方が一般的かもしれませんね(笑)。弊社としては、ヘッドバンドに当たる部分を含めてネックバンドという呼び方をしています。

 ネックバンドスピーカーのラインナップは現在3モデルです。まず、2017年秋に「SRS-WS1」を発売しました。SRS-WS1は独自の低遅延通信を搭載しており、ゲームユーザーに人気の商品です。その後、今年7月に「SRS-NB10」という小型モデルを出しました。こちらは長時間使える点と、ふたつのマイクを搭載していることから、リモートワークなどにご愛用いただいています。

 最新モデルがSRS-NS7で、同梱のトランスミッター「WLA-NS7」を弊社のBRAVIA XRシリーズと組み合わせることで、ドルビーアトモスなどの立体音響を楽しむことができます。しかも肩に乗せるだけで映画館のような包囲感をお楽しみいただけますので、とても簡単です。

画像2: 首にかけるスピーカーで、ドルビーアトモスの立体音場をパーソナルに楽しむ。SRS-NS7は、ウェアラブルスピーカーの新しい方向性を感じる:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート65

麻倉 その機能はBRAVIA XR専用なんですね。

島田 BRAVIA XRシリーズとトランスミッターWLA-NS7を光デジタルケーブルでつないでお使いいただくことになります。またSRS-NS7の特長として、アプリを使って個人に最適化した立体音場を楽しんでいただくことができます。

 またWLA-NS7は単体でも販売しており、これをBRAVIA XRと組み合わせてSRS-NS7以外のソニー製対応ヘッドホンとつなぐことで、ドルビーアトモスをお楽しみいただけます。

麻倉 その組み合わせで、DTS:XやAuro-3Dなども楽しめますか?

島田 サラウンドフォーマットとしてはドルビーアトモスのみの対応です。またSRS-NS7は360立体音響技術を搭載していますので、弊社のウォークマンやスマートフォンとの組み合わせで360 Reality Audioを楽しんでいただけます。

麻倉 SRS-NS7は、360立体音響技術を使ってドルビーアトモスを再生するという理解でよろしいのでしょうか?

画像: 今回はソニー社内の視聴室にお邪魔して、SRS-NS7の音を体験させてもらった。BRAVIA XRとの組み合わせで、ドルビーアトモス収録のUHDブルーレイを再生している

今回はソニー社内の視聴室にお邪魔して、SRS-NS7の音を体験させてもらった。BRAVIA XRとの組み合わせで、ドルビーアトモス収録のUHDブルーレイを再生している

 ホーム商品技術部の関です。360立体音響技術の中には複数の技術が含まれます。その組み合わせによってどのフォーマットに対応するかといったことが変わっていきます。

麻倉 BRAVIA XRからの信号の流れはどうなっているのでしょう?

 BRAVIA XR内部でドルビーアトモスのデコードを行い、さらに360 SpatialSound Personalizerで信号処理した後にトランスミッター経由でSRS-NS7に送っています。

麻倉 つまり、ドルビーアトモスのビットストリームそのものではなく、ソニー独自の信号に変換しているということですか?

 SRS-NS7や対応ヘッドホンで立体音響を再生できる信号に変換して、ドルビーアトモス再生を実現しています。なおテレビの場合は、2chコンテンツも多くありますので、そのような場合でも360立体音響技術でアップミックスできます。

麻倉 SRS-NS7の細かい仕様も教えて下さい。

画像: SRS-NS7は、楕円形のフルレンジユニットとパッシブラジエーター2基をL/Rそれぞれに搭載している

SRS-NS7は、楕円形のフルレンジユニットとパッシブラジエーター2基をL/Rそれぞれに搭載している

岩見 ホーム商品技術部の岩見です。音響技術としては3つポイントがあります。

 まず、SRS-NS7はX-Balanced Speaker Unit(エックスバランスドスピーカーユニット)を搭載しています。このユニットは非円形振動板を採用し、分割振動の抑制と、少ない面積でも振動板面積を大きくできるという特徴があります。それによって音圧アップにもつながりました。

 またこのユニットでは、Magnetic FluidSpeaker(マグネティックフルーイドスピーカー)を採用しています。この方式では、ボイスコイルをダンパーの代わりに磁性流体と呼ばれる粘性のある油のような物質で保持しています。これによりボイスコイルの位置を保ちながら磁力のアップを実現しました。X-Balanced Speaker Unitに磁性流体を使ったのはSRS-NS7が初めてです。

麻倉 このふたつの技術を同時に採用した理由は何だったのでしょう?

岩見 サイズ、音質の両面で最適と判断しました。またMagneticFluid Speakerにすることで、ユニットの厚みを抑えられるというメリットもあります。それにより本体の薄型化、小型化が実現でき、装着性も改善されました。

 3つめはデュアル・パッシブラジエーター方式の採用です。本体左右にパッシブラジエーターをそれぞれ2基配置し、合計で4基搭載しているので、豊かな低音をお楽しみいただけます。耳の近くなので、ブローノイズも防ぐことができます。

画像: 左のフルレンジユニットは、X-Balanced Speaker UnitとMagnetic Fluid Speakerというふたつの独自技術を採用している。右はパッシブラジエーターの振動板

左のフルレンジユニットは、X-Balanced Speaker UnitとMagnetic Fluid Speakerというふたつの独自技術を採用している。右はパッシブラジエーターの振動板

村田 ホーム機構設計部の村田です。メカ設計を担当しました。音質改善に加えて、SRS-NS7では装着性の向上にこだわって設計しました。内部構造は、本体先端部に基板とバッテリー、その後にスピーカーユニット、パッシブラジエーターという順番で並んでいます。

 また首にかけた際に、体への接地面積を最大化することで単位面積あたりの加重を減らし、体への負荷を軽減する工夫も行っています。SRS-NS7はウェアラブル商品ですので、開発初期段階から装着性評価を行ない、形状をブラッシュアップしてきました。

 ネックバンド部分には、樹脂とシリコンを組み合わせた柔軟性のある素材を使いました。これにより、自然な動きで着脱ができるようになっています。

 では、実際にSRS-NS7の効果を体験いただきたいと思います。まずはドルビーアトモスのトレーラーから「AMAZE」「LEAF」を再生します。

麻倉 実際に装着すると、ボリュウムも大きく感じますね。サウンドバーであれば隣に音が響いてしまうかもしれないレベルですが、隣で聴いている人がそこまでうるさく感じないのは、嬉しい。

画像: 取材に協力いただいた方々。左からソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホーム機構設計部の村田守弘さんとホーム商品技術部の関 英木さん。麻倉さんの右がホーム商品技術部の岩見純宏さんで、右端が商品企画部門HAV商品企画部の島田 泉さん

取材に協力いただいた方々。左からソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホーム機構設計部の村田守弘さんとホーム商品技術部の関 英木さん。麻倉さんの右がホーム商品技術部の岩見純宏さんで、右端が商品企画部門HAV商品企画部の島田 泉さん

 続いて麻倉さんに最適化した音を聴いていただきます。専用アプリの「Headphones Connect」や「360 Spatial SoundPersonalizer」を使って耳の形を撮影し、その画像データから聴感特性を解析して、音場を最適化します。

麻倉 このアプリ自体は以前からリリースされているものと同じですが、SRS-NS7の場合はヘッドホンとは違う最適化処理を行っていると考えていいのですか?

 処理内容はSRS-NS7専用です。アプリで耳の写真を撮影したら、ブラビアの設定画面から「リモコンとアクセサリ」に入ります。そこで「3Dサラウンドネックバンドスピーカー/ヘッドホン」という項目を選ぶと、聴感特性データを選ぶことができます。

 最初はスタンダードになっていますが、クラウド経由(今回はGoogleアカウントを利用、他にも様々なアカウントが利用可能)で測定結果が自動ダウンロードされますので、その中からご自分のデータを選んでもらえれば、最適化した状態でお使いいただけます。データは5人までメモリー可能です。

麻倉 聴き比べてみると、確かに違いは明瞭です。最適化した方が音像表現や移動感再現が向上し、解像度も上がっています。これまでヘッドホンで最適化アプリを試したこともありましたが、今回が一番効果的かもしれません。その意味でも、ウェアラブルスピーカーの新しい方向性を示した製品として、SRS-NS7は注目されることでしょう。

着けていることを忘れてしまったほどの快適さで、スケールの大きな音場再現を楽しめる。
個人最適化の効果もかなり大きい。(麻倉怜士)

 今回SRS-NS7でドルビーアトモス収録の映画コンテンツを視聴しました。まず、ネックスピーカーとして以前より確実に進化しています。

 初代機のSRS-WS1はゲーム用を意識した比較的派手な音作りでしたが、SRS-NS7は音場感志向で、素直な方向性を備えています。帯域も伸びているし、頭上や後方にもちゃんと音場が広がります。

 さらに、個人最適化をすると断然よくなります。私はこのアプリを何回か試していますが、SRS-NS7が一番結果がよかった。まず音場の解像感があがります。また楽器などの位置が正確に再現され、移動の軌跡もはっきり出てきます。音場的には前方からの声がきちんと前に定位して、空間の正確な位置性が再現できるようになりました。

画像: 専用アプリを使って麻倉さんの耳を撮影し、個人最適化も試した。その効果はかなり大きかった

専用アプリを使って麻倉さんの耳を撮影し、個人最適化も試した。その効果はかなり大きかった

 UHDブルーレイ『グレイテスト・ショーマン』のチャプター11、ジェニー・リンドの歌唱シーンは、横方向に広がりのある演出がされていますが、彼女の歌声が会場全体に響いていく様、アンビエントがよく再現できていました。

 また彼女が歌い終わったシーンでも、無音の中で前方から拍手が沸いてきて後方まで広がっていく。そんな音場のダイナミックな動きがとてもよく再現できていたと思います。

 SRS-NS7は音場のスケールが大きいですね。サウンドバーでのバーチャルサラウンド再現ではどこか不自然な印象は拭えませんが、SRS-NS7は圧倒的に音場が広いし、深くて、移動性もいい。そんな要素のすべてが際立っていました。

 少し気になったのは、肩に乗せる位置にかなりシビアだということ。耳への距離が近い分、体を傾けるだけで音の印象が変化します。また低音感、切れ味、高域の伸びといった要素はもう少し頑張って欲しいと感じました。

 操作性、装着性はさすがこだわっただけあり、とても快適です。荷重分散もよくでていて、視聴中も着けていることを忘れてしまいました(笑)。

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