いまから約17年前、香港の地で産声を上げたスピーカーブランド・エアパルス。開発チームを牽引するのは、伝説の名スピーカー・アコースティック・エナジーAE-1を手がけたフィル・ジョーンズ氏だ。1954年、英国ロンドン生まれ。みずからベーシストとして活動しつつ、スピーカーエンジニアとしての経験を重ね、1987年にアコースティック・エナジーを設立、AE-1を開発している。
AE-1はザ・ビートルズ、ピンク・フロイドなどのビッグネームが重用したアビー・ロード・スタジオに、ニアフィールドのモニタースピーカーとして導入された小型2ウェイシステムで、当時、世界のオーディオファンから羨望のまなざしが注がれた名スピーカーだ。
AE-1の登場から30年以上の歳月を経て、いま各方面から高い評価を得ているのが AIRPULSE
のA80だ。そのサイズ感といい、小口径のアルミニウムウーファーといい、AE-1を連想させるモデルだが、価格は当時のなんと約3分の1。しかもアンプおよびUSB入力やBluetoothなどに対応した現代的設計で、高価でしかもアンプの選り好みが激しかったAE-1の弱点を見事、払拭している。洗練されたデザイン、量感豊かなサウンド、そして求めやすい価格と、その傑出したパフォーマンスは、瞬く間にオーディオファンの枠を越えて評判を呼び、大ヒットとなった。
Bluetooth SPEAKER SYSTEM
A80
オープン価格(実勢価格7万7,000円前後)
手頃なサイズに強力なユニットとアンプを組合せて大ヒットを記録しているアンプ内蔵スピーカー。濃い茶色のウォールナットのほか、最近、明るい白木系のパインウッド(写真)カラーが追加され、多様なニーズに応えている
さらにこの基本コンセプトを受け継いだ上級モデル、A100 BT5.0やA300 Proも登場、順調に売上げを伸ばしている。またA80についてはベースカラーとなるウォールナットに、白木調のパインウッドが追加され、デザイン面でも選ぶ楽しみを広げている。
レトロなデザインの内部に先進技術を満載させたP100X
そしてこの秋、ラインナップの一員として、強力なモデルが加わった。一体型のBluetoothスピーカー、P100Xだ。「エアブレード・トゥイーター」と命名された楕円型高域ユニット2基と、115mmコーン型ウーファー、さらに大型のパッシブラジエーターを装備したシステムで、昔のラジオを思わせるレトロなデザインがなかなか素敵だ。
Bluetooth SPEAKER SYSTEM
P100X
オープン価格(実勢価格8万9,000円前後)
● 型式:アンプ内蔵Bluetoothスピーカー
● 使用ユニット:エアブレード型トゥイーター×2、115mmコーン型ウーファー、パッシブラジエーター
● アンプ出力:60W(10W×2[トゥイーター用]、40W[ウーファー用])
● 接続端子:アナログ音声入力1系統(RCA)
● Bluetooth対応:V5.1、apt X HD対応
● 寸法/質量:W300×H180×D200mm/5.1kg
● 問合せ先:(株)ユキム ☎︎03(5743)6202
その外観からは想像しにくいが、内容はきわめて先進的だ。まずウーファーだが振動板はアルマイト処理のアルミニウム合金で、30mm径の大型ボイスコイルを介して強力なネオジウム磁気回路によって確実に駆動する。鍛造マグネシウム合金のフレームは、ユニットの動作をしっかりと受け止め、鮮度の高い響きを約束している。
そして楕円型のエアブレード・トゥイーターだが、これは今から約30年前、フィル自身が設計したユニットの発展形だという。ただ100分の1mmの高精度が求められる技術だったため、当時、量産化まで至らず断念。それがようやく今回のP100Xで晴れて実用化に至ったというわけだ。
このトゥイーターの最大の特徴は、水平/垂直方向への指向性がきわめて広いこと。特に水平方向に音が広がる能力には傑出したものがあり、実際にP100Xの真横に座っても高域が鈍らず、声の明瞭度が落ちない。
入力はBluetoothとアナログのみ。Bluetoothについては、ハイレゾ相当の伝送までサポートするaptX HD接続が可能だ。
まずはスマホとBluetooth接続し、ロスレス音楽ストリーミングAmazon Music HDで聴き慣れた楽曲を聴いてみたが、ストレスを感じさせない空間の拡がりが特徴的で、声の明瞭度が高い。ダイアナ・クラールの歌声はザラつくことなく、やさしく、おおらかに包み込む感じ。ピアノのタッチは小気味よく、響きが厚い。目の前の空間が呼吸しているかのように伸縮し、耳にスッとしみこんでくるような聴き心地のいいサウンドだ。
前面の両サイドにあるのが、エアブレードトゥイーター。一体型スピーカーでありながら、音が大きく広がるというP100Xの魅力的なサウンドの根源となる存在だ。中央には硬質アルマイト合金素材によるコーンウーファーを搭載している
スピーカー後方には、楕円形ウーファーを搭載。こちらは「パッシブ・ラジエーター」という磁気回路を持たないユニットで、コンパクトな筐体でありながら、しっかり伸びてしかもキレのある低音を実現する仕組みだ
アンプは写真のデジタルパワーアンプ素子(テキサス・インスツルメンツ製TAS5805SM)を2基搭載、合計60W(ウーファー用40W、エアブレードトゥイーター用10W×2)の出力を備えている。BluetoothはクアルコムのaptX HD対応のV5.1仕様のチップセットを採用している
テレビとBluetooth接続、素材をあるがままに堂々と描き出す
スピーカーとしての素性のよさは分かった。ではテレビと組み合わせての再生はどうか。テレビのイヤホン出力を活用し、アナログ接続することもできるが、最近はBluetooth出力機能を備えたテレビも多く、ワイヤレス接続も可能だ。今回はパナソニックの有機ELテレビTH-65JZ2000とBluetooth接続して、まずNetflixの『Mank/マンク』を再生してみた。ゲイリー・オールドマン演じるマンク、あるいはリリー・コリンズ演じるリタなど、男性、女性を問わず、声のよさはムービーサウンドでも健在だった。その声の質や響きから、体の大きさや年齢、あるいはその人のキャラクターまでもが、鮮明に感じ取れるほどニュアンスが豊かで、情報量が多い。
一体型スピーカーというスタイルを採用するため、車が右から左へと移動するような時の、音像が動くような描写はさすがに難しい。ただ空間の拡がりは実にスムーズで、その場の気配、空気感のようなものまで感じ取れる。視聴位置による音質の変化も少なく、要所、要所で、エアブレードトゥイーターの恩恵を実感することができた。
Amazon Prime Videoの『007/スカイフォール』の再生でも、その印象は変わらない。ダニエル・クレイグの雑味のない引き締まった声は、鍛え抜かれた肉体と見事なまでにフィットし、その背後に拡がる多彩な効果音、音楽が重層的に表現される。天井の方向、奥行きと、空間描写に余裕があり、ヘリのローター音、銃声、爆発音と、大振幅の音源も歪むことなく、しっかりと受け止めて、実に堂々と描き上げて見せた。
派手さこそないが、声、楽器、効果音と、どれも苦手とすることなく、あるがままに描き出す表現力は見事。「ぜひ我が家のリビングに1台欲しい」。取材後の偽らざる私の感想である。
テレビに内蔵しているBluetooth音声送信機能を活用してP100Xと連携してみた。Bluetooth送信機能は、LG、ソニー、シャープ、パナソニックなどの最新モデルに実装されている。非搭載のテレビの場合は、ゼンハイザーBT-T100など、1万円以下で市販されている「光デジタル入力対応のBluetoothトランスミッター」を購入し、それをテレビと光デジタルケーブルでつなぎ、トランスミッターとP100XとをBluetooth接続すればよいだろう
レトロなスタイルのラジオに見えるが中身は本格一体型スピーカー。ウッドケースや前面カバーの質感も高く、満足感の高い製品だろう。音量調整や電源入切りなどができるリモコンも付属している