ステレオサウンドが『中森明菜:歌姫 -Stereo Sound Selection- Vol.2』をリリースした。好評だったVol.1に続いての第二弾だ。

 これはステレオサウンドの選曲によるアナログレコード。第一弾が荒井由実や竹内まりやなどニューミュージック系を中心とした選曲だったのに対して、今回は「神田川」や「旅の宿」など70年代フォークの名曲を中心に9曲が収録されている。録音は2002年から2009年。四十歳をすぎて円熟を迎えた中森明菜の歌唱が聴ける。

 音源はユニバーサルミュージック所蔵のオリジナルマスター(デジタルアーカイヴ)。それを日本コロムビアの武沢茂氏がマスタリング/カッティングした。カッティングの機材はノイマンVMS70カッティングマシーンとSX74カッターヘッドという鉄板の布陣だ。

 Vol.1の音もよかったが、Vol.2もまず音質のよさを実感した。アナログ特有の厚みのある音がクリアーな空間に現れる。レコード針はチリノイズを拾うことなく、曲間ではCDと間違えるほど無音である。正直言ってこれが若い頃に聴いていたレコード盤と同じメディアとはとても思えない。それほど今日のアナログレコードは高音質で悦楽だ。

 もちろんそんなことはオーディオファイルならご承知だろうから、もう少しこのレコードについて書いてみる。

画像: 名盤ソフト 聴きどころ紹介31/『歌姫-Stereo Sound Selection- Vol.2/中森明菜』Stereo Sound REFERENCE RECORD

アナログ・レコードコレクション
『歌姫-Stereo Sound Selection- Vol.2/中森明菜』
(ステレオサウンド/ユニバーサルミュージックSSAR-054)¥8,800(税込)
 ●仕様:180g重量盤33回転アナログレコード
 ●カッティング・エンジニア:武沢茂(日本コロムビア)
 ●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル ☎03(5715)3239
 ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/4571177052759

[Side A]
 1. 神田川(かぐや姫)
 2. 旅の宿(吉田拓郎)
 3. シクラメンのかほり(布施明)
 4. 22才の別れ(風)
 5. 精霊流し(さだまさし)

[Side B]
 1. 心もよう(井上陽水)
 2. 思秋期(岩崎宏美)
 3. 窓(松山千春)
 4. 黄昏のビギン(水原弘)
 ※カッコ内はオリジナルシンガー

「目で見える」ような
圧倒的な〈歌姫〉のヴォーカルに虜になった

 Vol.1もそうだったがVol.2も中森明菜のヴォーカルが圧倒的である。A面1曲目は「神田川」。中森明菜の憂いのあるヴォーカルが大きく現れる。唇の動きが伝わるほどに生々しい音だ。若い頃は特に中森明菜のファンではなかった僕も、Vol.1、Vol.2と聴いてきて完全に中森明菜のファンになった。彼女の歌唱の虜になったと言ってもいい。

 伴奏のアコースティックギターやヴァイオリンも解像度の高い繊細な音である。僕のオーディオシステムはホームシアターの再生も兼ねていて、映画を見る時はプロジェクターで映像を映し、このシステムで音を出す。レコードの再生では映像がないはずなのに、目の前にあたかも、ヴォーカルやギターの音が見えるかのようである。耳だけでなく目もレコードの音を味わっているのがわかる。

 僕はレコードを聴く時は“ながら聴き”はしない。そのため正直、聴いていて手持ちぶさたを感じたり、退屈してしまうレコードがあるのだが、このレコードは片面がまたたく間に終わってしまった。こういう音を聴いていると「我ながらいい音を出すシステムだなあ」と自惚れさえ感じるほどだ。読者の方もこのレコードを再生したら自分のシステムにあらためて惚れ直すのではないか。

 ちなみに僕のシステムは、レコードプレーヤーがガラード301。カートリッジがオルトフォンSPU#1E。プリメインアンプがアキュフェーズE-370、オプションボードにフォノイコライザーを装着している。スピーカーはB&W 804だ。ハイエンドが全盛の今日、まだひよっこという自覚はあるものの、それでもこのレコードでは「いい音で聴いているなあ」というささやかな幸せを感じる。針を落とすのがとても楽しい。

 断っておくと、どんなレコードでも悦楽なわけではない。60年代や70年代の中古レコードを買ってきて聴くと、とてもこのレコードのような再生音は得られない。状態の悪い中古だとプチプチ音にまみれたり、内周は音割れしたりと、昔レコードと格闘していた悪夢が再現される。

 それがこのレコードにはない。高音質なのはもちろん、プチプチという音はほとんど出ないし最内周でもクリアーで厚みのある音をキープ。つまりこれは録音からマスタリング、カッティングを含めて、レコード盤自体がひじょうに高音質に作られていることに他ならない。

 CDとの比較も書いておこう。HiVi編集部が用意してくれたCDのデジタル音源と比べてみたが、やはりアナログレコードとCDの差は大きかった。

 CDの音はやはり硬く耳にあたる。またCDは「すべてをクリアーに」という描き方なのか、ヴォーカルもアコースティックギターも一緒くたに処理している感じだ。この辺りデジタルという機械が正直に働いただけかもしれない。アナログレコードも機械には違いないのだが、アナログの工程にはどこか人間に寄り添う機能が含まれているのだろう。レコードでは中森明菜のヴォーカルは血肉を感じる肌触りを持ち、アコースティックギターはキラキラとした光沢感を帯びる。ベースはくっきりと分離しつも柔らかな重さで曲全体を支えるといった具合。

 最後に曲のことを書くと、70年代フォークソングのカヴァーとは言え、アレンジと演奏は現代的である。曲によって楽器は違うが、最小のリズム隊にヴァイオリンや木管をそっと添えてアクセントをつける感じ。ストリングスを軽く敷く曲もある。どの曲もヴォーカルを邪魔しない大人のアレンジ、音数が少なく余白があるからリファレンスレコードとしても聴けるだろう。なかにはB面1曲目の「心もよう」などフラメンコ調に大胆にアレンジしたり、「思秋期」のようにオーケストラを大きく使った曲もあるが、中森明菜の歌唱力でアルバムはひとつの世界にまとまる。

 B面最後は水原弘の「黄昏のビギン」。この曲だけオリジナルが1959年発売という古い曲なのだが、不思議とこのレコードでは一番モダンな雰囲気を醸し出している。そんな「黄昏のビギン」でアルバムは終わる。秋の夜長にしっとりと聴くのにふさわしいレコードだ。
テキスト:牧野良幸

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