世界第2位のテレビ生産量を誇る中国の大手家電メーカーTCLが、日本市場に向けて今後積極的に攻勢をかけていく由。今回はトップエンド機55C825を視聴した。
まずは本機のおおまかなアウトラインを見ていこう。55C825は、4Kチューナー内蔵のAndroid TVで、パネル形式は量子ドット技術を採用した、いわゆるQLEDタイプの倍速駆動VAパネルである。技術的な注目点は、ディスプレイ直下の数千個のMini-LEDバックライトをローカルディミングで制御している点だ。HDR/HLG/ドルビービジョン対応と、4Kコンテンツに対する適合力をほぼフルスペックで満たしていながら、実勢価格はなかなかの値頃感。これも自社工場での開発・大量生産による垂直統合という体制が関係していそうだ。
実機は薄く仕上げられており、フレームレスというわけではないが、ベゼルは細い。背面を見ると低音増強用のサブウーファーが搭載されているのがわかる。スピーカー部はオンキヨーとの共同開発だ。
GUIは特に凝ったことはしていないが、メニュー操作はしやすい印象。メニュー項目の名称については、中国メーカー製によくありがちな妙な日本語が散見されるものの、理解に苦しむほどではない。VAパネルゆえ、視野角は垂直/水平とも概して狭い方だ。
白がピーンと伸びた ヌケのよい画調
まずは地デジのオンエア画質をチェック。視聴は標準モードにて。ノイズはていねいに抑えられており、気になるようなクセっぽさはない。アナウンサーの顔の肌色が若干黄色みがかって見えるが……。BS2Kは濃淡がはっきりとした調子で、映画字幕の白がピーンと伸びている。なかなかヌケのよい画調だ。
「標準」での音質の方は、クリアーで聞き取りやすい。アナウンサーの声にも妙に張ったような感じはなく、帯域バランス面でも偏りがない。
肝心の4Kオンエアもまずまず良好だ。ちょうどNHK BS4Kで放送中だった『サイクル・アラウンド・ジャパン/新潟篇』は、スッキリとしたヌケのよさに魅了された。純銅のヤカンを金槌で打ち、鎚目模様に仕上げていく工房の場面では、光の当たり具合によって金属表面の鈍い輝き具合が変化する様子が鮮明に映し出された。
他方、自然の田園風景の描画で、たとえば走行するロードバイクの車体と草木の重なる部分で動き補間にまつわるノイズが見受けられたため、画質調整メニューの「詳細設定」から「動き補正」を選択し、デフォルト値で各々最大(+10)であった『ぼやけ低域補正』と『ジャダー低域補正』をそれぞれ最小値(0)としたところ、そうした不穏な干渉を低減できた。
絶妙な暗部再生が素晴らしい 4Kドルビービジョン再生
次にネットフリックスで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を視聴(4K&SDRフォーマットでの配信)。色合い、色数ともいい按配で、暗部に若干の色の反転が認められるものの、彩度も高く、パネルが持っている色域の広さが活かされている印象だ。ちなみに「映画モード」では、前述の「動き補正」関連の設定はすべてゼロがデフォルトだ。
続いてパッケージメディアを見てみよう。UHDブルーレイ『宮古島』の与那覇前浜ビーチでは、マリンブルーとエメラルドグリーンが重なる海面の様子が眩しい陽光に照らされ、実に鮮やかに再現された。砂浜の粒子やビーチパラソルの骨組みなど、ディテイル再現に少し強調感があり、メリハリがやや強めの傾向は感じるが、裏返せば、とてもパワフルでアピール度の高い画調といっていい。
UHDブルーレイ『オリエント急行殺人事件』のチャプター13、雪の屋外での尋問シーンを「映画」モードで視聴。雪の白ピークは若干抑え気味で、フェイストーンはやや黄色味がかり、ツルンとした印象だ。それでもコートのチェック柄やジャケットの質感等は巧みに表現されており、見栄えがする。
UHDブルーレイ『ジョーカー』は、ドルビービジョンで視聴。「薄暗い動画」モードは、他メーカーでのいわゆる「シアターダーク」に相当すると思われるが、これが思いのほか素晴らしい。暗部は浮かず、かといって沈み過ぎず、良好なグラデーションをキープしている。原色遣いのジョーカーの服装の色合いも際立った。
総括すると、自社開発のQLEDパネルのポテンシャルには相当高いクォリティがある。画質処理エンジンにさらなるチューニングが盛り込められれば、日本市場で充分に戦えると思った次第だ。