現在ネットワークトランスポートのラインナップを鋭意刷新中のオーレンダー。フラッグシップモデルのW20SEをはじめ、ACS10やASC100が既に高評価を得ているが、さらに同社としては初となるDAC内蔵型メディアサーバーのAシリーズも登場している。
AシリーズはA10とA30の2モデルをラインナップ、今回我が国に紹介されたのは上位モデルのA30である。
MUSIC SERVER/STREAMER
Aurender
A30
¥2,618,000(税込)
●型式:DAC内蔵メディアサーバー
●HDD容量:10TB ●接続端子:デジタル音声入力5系統(同軸×2、光×2、USBタイプA×1)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、LAN1系統 ●最大サンプリング周波数/量子化ビット数:〜768kHz/36ビット(PCM)、〜22.5MHz(DSD)
●寸法/質量:W430×H141×D355mm/約17kg
●問合せ先:(株)エミライ https://www.aurender.jp/
AシリーズをDAC内蔵型メディアサーバーと書いたが、要するにオールインワンのネットワークプレーヤーということである。これまでネットワークプレーヤーは、ストレージを内蔵しない製品がほとんどだったが、Aシリーズはオーレンダーの製品らしく内部に大容量HDDを備えたうえでさらにDACを内蔵、同社としては新しいタイプの製品と言うことができる。
A30は大容量HDDストレージ(10Tバイト)の装備に加えて、再生キャッシュ用として480GバイトのSSDを内蔵している。従ってデータ再生はSSDにキャッシュされたデータから行なわれ、メインのHDDはスリープ状態のままとなることでHDDの消耗は最小限となり、さらに再生時のディスクの回転や各種電気ノイズ、音響ノイズ等も排除されるのである。
CDリッピング機能や、バランス出力対応高性能ヘッドホンアンプの搭載に加えて、本機は超ワイドカラー液晶ディスプレイを装備、MQAもフルデコード対応と至れり尽くせりだ。初搭載のDAC部は、旭化成エレクトロニクスのDACチップAK4497をデュアルモノ構成として、PCMは768kHz/32ビット、DSDも内部DAC使用時は22.5MHzネイティブ再生となる。さらに電源部も超低雑音リニア電源の採用で、4基のトロイダルトランスがサーバーシステム、デジタル出力、デュアルDAC部にそれぞれ独立して電源を供給する。クロック回路についても、同社が世界クラスのジッター低減と胸を張る、FPAGAベースの高精度クロック回路を搭載している。
リッピングもストリーミングも音源を横断して選曲できる
試聴に際しては、まず本機の設定を確認して、ダイレクト出力を「オン」(つまり可変ボリュウム機能をオフ)とし、クリティカルリスニングモード(再生時、CDリッピング機能やディスプレイ、ボタンの照明等をすべて無効にしてS/Nの向上を図る)は「オン」とした。本機はデジタルフィルターとアナログフィルターのパラメーターの設定変更も可能で、今回は両フィルター共に変更せずデフォルト値のまま試聴した。
事前に本機のリッピング機能を使ってデータとして保存した、ビル・フリゼールのCD『グッド・ドッグ・ハッピー・マン』から「シェナンドー」は、ギターの弦の1本1本が見えるようで、音数がきわめて多く高精細。ギターやペダルスチールから立ち昇るオーバートーンの滞空時間もたいそう長く感じられた。HDDに保存したハイレゾファイルから、ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビイ』(192KHz/24ビットWAV)を選んで「ポーギー」を聴くと、透明感に優れ客席のざわめきや濃密な空気感も存分に感じられる美音である。
ここで内蔵ボリュウムを使った再生も試してみる(本機のプリアウトをデノンSX1リミテッドのパワーアンプ部にアンバランスで入力)。これは単体のパワーアンプ、あるいはパワードスピーカーを使用する人には有用な機能だが、ジャズクラブ内の観客のざわめきや濃密な空気感がやや減じた感じとなったのはやむを得ないところか。本機の高音質を味わうには、できるだけダイレクト出力で使用したい。
ダイレクト出力に戻して、ホルスト『惑星』(DSD11.2MHz)から「土星」を聴くと、鮮明で見通しがよく、パイプオルガンの厚みと伸びも申し分なしだ。もう一曲DSD11.2MHzのアンセルメ指揮『くるみ割り人形』から「行進曲」も、傾向としては明るく艶やかで澄み切った美音。ホセ・ジェイムス『リーン・オン・ミー』(44.1KHz/24ビットFLAC)では力強い歌声と共に、リムショットがきわめて鮮烈に飛び出してきた。
ストリーミング再生は、CDクォリティとハイレゾMQAの聴き比べができる「TIDAL」を選んで、アンブローズ・アキンムシーレ『オリガミ・ハーベスト』を再生したが、明快で彫琢に優れるCDクォリティの音と、なめらかで聴きやすいフルデコードMQAの音という違いとなった。ここは各人の好みで選ばれればよいだろう。
価格も立派だが、高音質と各種機能の充実ぶりには目を見張るA30、使いこなし甲斐のある逸品と言える。