画像1: © 2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions- und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg

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 ベルリンの壁が崩壊する以前の旧東ドイツで活躍する一人のミュージシャンがいた。名前はゲアハルト・グンダーマン(1955~1998)。彼は炭鉱で働くいっぽう、秘密警察に協力していた。間もなく公開される映画『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』で描かれる彼の生き様は、資本主義社会に生きる日本人にはちょっと理解できない面があるに違いない。ベルリンの壁が存在していたのは1961年~1989年の期間、秘密警察は東ドイツ国家保安省のことで「シュタージ」と呼ばれていた。
 ここではこの映画を監督したアンドレアス・ドレーゼン氏に映画にまつまる話を尋ねた。

画像: アンドレアス・ドレーゼン監督

アンドレアス・ドレーゼン監督

―現代の日本の生活では想像もできないのですが、映画ではグンダーマンの葛藤が全編で描かれています。ベルリンの壁崩壊前、あなた自身も体制に対する反抗心や葛藤を抱いていたのですか。

アンドレアス・ドレーゼン監督 私に限った話ではないと思うのですが、東ドイツ出身の人達は資本主義社会にけっして憧れていた訳ではありません。ある日突然、ベルリンの壁が崩壊し、資本主義体制の国でやむなく生きていくことになりました。グンダーマンも、東ドイツ出身の人達もその意味では似たような葛藤を抱いていたと思います。ただし、グンダーマンの場合は非公式にシュタージに協力していたので、道徳的・倫理的にもより深い葛藤を抱いていたと思うのです。

―映画製作に10年を費やしたとのことですが、一番苦労されたことは何ですか? いっぽう、楽しかったことも教えてください。

アンドレアス・ドレーゼン監督 私は仕事が大好きなので、長年取り組んでいた映画の企画を実現し、創れたことが本当に嬉しかったですね。苦労は二つあります。一つ目はグンダーマンという一人の人生を二時間という尺にまとめること、編集することでした。脚本のライラ・シュティーラーとどうまとめていくべきなのか、とても迷ったのです。二つ目は製作資金の調達です。ドイツでは助成金を申請するため組織に相談するのですが、そこのスタッフは大半が西ドイツ出身でした。映画の脚本を見てもらうのですが、東ドイツ出身のグンダーマンの存在は知られておらず、なかなか予算が集まらなかったのです。

画像2: © 2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions- und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg

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―いまの多くの日本人にはなかなか理解できないのですが、シュタージは東西ドイツの人々にとってどのような存在だったのですか? シュタージを作品で描くに際して、配慮されたことはありますか?

アンドレアス・ドレーゼン監督 映画の中で描かれているシュタージは確かに特殊なのかも知れませんが、日本や他の国でもスパイ・秘密警察に近いものは常に存在していたと思います。東ドイツではグンダーマンのように非公式にシュタージ関係者としてスターリン主義に協力していても、日和見的に考える人達が多く、グンダーマンのように悩み・苦しんだ人はあまり多くなかったかも知れません。ただ、映画館というのは素晴らしい空間で、東ドイツのスターリン主義を現実的には経験していない人達・世代もそれに興味を抱き、関心を持ってくれる面があります。

―映画の中では炭鉱を引きで撮影したシーンが印象的でした。おそらくベルリンから少し距離が離れていることも示されています。特に炭鉱シーンは殺伐としていて、記憶に残りました。炭鉱場面を描く際、意識されたことは何ですか。

アンドレアス・ドレーゼン監督 グンダーマンはミュージシャンとして知られるようになった後も独自の考えがあり、褐炭工としてずっと働いていました。労働者として働き・生きていくことで、音楽業界の中でも独自のスタイルを貫いていたのです。グンダーマンが働いていた炭鉱はすでに閉鎖されていますが、当時から彼を知るファン達からの情報を手掛かりに現在も残っている炭鉱で撮影に協力してもらうことができました。

 何より印象深いのはグンダーマンが褐炭工として働いている中で、地球の自然を壊しているという思いを常に意識していたことがあります。彼は自然を壊している現実に向き合いながら、詩(ポエム)を思い描いていたのです。映画の中では月が光り輝いている炭鉱の場面がありますが、グンダーマンも生前、職場である炭鉱にある種のロマンを抱いていたと思います。彼は自然主義者であり、自然保護をテーマにした曲(詩)を多く書いているのです。

画像3: © 2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions- und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg

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―映画の中では、壁に貼られているチェ・ゲバラのポスターがとても象徴的でした。フォークやパンク・ロックがテーマの映画では必ずチェ・ゲバラのポスターが登場します。当方の知識不足もあって気付かなかったのですが、チェ・ゲバラのようなシンボルを他に映画の中で意識的に登場させたものはありますか。

アンドレアス・ドレーゼン監督 グンダーマンはチェ・ゲバラを尊敬していました。他に象徴的なものというと、映画冒頭の場面で彼が自宅のダイニングでフルーツ皿を探していますが、フルーツ皿はシュタージで功績のある工作員に贈られるものなのです。友人の家でも、同じようにフルーツ皿を登場させています。
 後半の場面において、人形使いの友人がグンダーマンそっくりの人形を操っているのも、社会変革を夢みるグンダーマンの生き様を象徴しているのです。ハムレットの劇の中で彼に似た人形を登場させることで、彼の苦悩を描いているのも象徴といえるかも知れません。映画の中では他にもたくさんのシンボルを散りばめています。

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―あなたの音楽ルーツは何ですか? 初めて購入されたレコードを教えてください。

アンドレアス・ドレーゼン監督 私が若い頃、東ドイツ以外の音楽をレコードで入手するのはとても困難なことでした。両親が集めていたクラシック音楽のレコードには親しんでいました。東ドイツのロック・バンドではプディーズ(Puhdys、1969年に結成)の音楽をよく聞いていたのです。プディーズの活動歴は長く、21世紀になってからも演奏を続けるほどです。本当は東ドイツにはない音楽を聞きたかったのですが、先にも述べたように諸外国のレコードは本当に手に入りませんでした。
 友人からはレコードをダビングしたカセット・テープを借りて、ビートルズの音楽を楽しんでいました。西洋の文化や音楽にはずっと憧れを抱いていたのです。

―映画はすでに幾つもの映画賞に輝いています。本国で映画公開をした当初の反応はどのようなものでしたか?

アンドレアス・ドレーゼン監督 映画の創り手として、お客様の反応はいつもとても気になります。ワクワクするというよりは、いつも心配な面が多いのですが……。この映画は特にシュタージがテーマでもあるので、映画の公開後、どのような反応があるのか正直なところ半信半疑でした。
 実際は作品を観てくれた方々から熱心な手紙がいくつも届いたのです。それもシリアスな、東西ドイツの統一が意味することを改めて考えるきっかけになったという趣旨の手紙を多数もらったことが印象的で、とても嬉しく思いました。

画像5: © 2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions- und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg

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―日本ではドイツの録音スタジオというとデヴィッド・ボウイが録音したことでも有名なベルリンの「ハンザトン・スタジオ」、あるいはクラフトワークの録音で知られる「コニー・プランク・スタジオ」が知られています。
 グンダーマンが録音に使用していたスタジオはどんなところだったのでしょうか。

アンドレアス・ドレーゼン監督 いま名前の挙がった「ハンザトン・スタジオ」や「コニー・プランク・スタジオ」は旧西ドイツのスタジオだったので、グンダーマンがそうした録音スタジオを使うことはありませんでした。グンダーマンは初期の頃、東ドイツの国営レーベル「AMIGA」からレコードをリリースしていたので比較的立派な大きな録音スタジオを使っていたと思います。
 中期以降、彼はレーベルを移籍し、ロック・バンドのシリ―(Silly、1977年に結成)とコラボをするようになり、小規模な録音スタジオで収録していました。

―東ドイツというと、ムジークエレクトロニク・ガイザイン(1960年創立、1980年からスピーカーを開発)というスピーカーブランドが日本でも知られていますが、監督はご存知でしょうか。

アンドレアス・ドレーゼン監督 もちろん、知っています。ガイザインのスピーカーシステムはとてもいい製品です。私自身も愛用者の一人ですし、映画でグンダーマンを演じてもらったアレクサンダー・シェーアがグンダーマンの曲を歌うときのライヴでも必ずガイザインのスピーカーシステムを使っています。ガイザインのスピーカーシステムはドイツの中で、いえ世界で一番素晴らしい音がする製品だと思いますよ。
ー今回はありがとうございました。
(通訳:山根恵子)

『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』

5月15日(土)より渋谷ユーロスペース他全国順次公開

監督:アンドレアス・ドレーゼン
脚本:ライラ・シュティーラー 
音楽:イェンス・クヴァント
出演:アレクサンダー・シェーア『ソニア ナチスの女スパイ』/アンナ・ウンターベルガー
提供:太秦/マクザム/シンカ
後援:ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都
配給・宣伝:太秦  原題:GUNDERMANN  字幕・資料監修:山根恵子
【2018年/HD/シネマスコープ/5.1ch/128分/ドイツ】
公式HP
https://gundermann.jp/

画像: 5月15日(土)より渋谷ユーロスペース他全国順次公開

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