注目のベーシックモデル、情報量がすこぶる豊富でエネルギッシュ
リン(LINN)のLP12というと、最近は全面的なデジタル信号処理によるフォノイコライザーを搭載してハイレゾシステムとの接続性を確保するなど新時代を迎えている。その一方でMAJIKシリーズは、伝統的な24極ACシンクロナスモーターを使用し、ショートスケールのトーンアーム、MMカートリッジを搭載したベーシックモデルも維持している。
今回のMAJIK LP12は伝統的な外観のベーシックモデルになっている。ただしトーンアームはKraneに変わっている。MM型カートリッジはAdickt(アディクト)。本体部分で変わったのはターンテーブルの回転軸を受けるベアリングシステムが第3世代のKarousel(回転台、回転木馬に由来)になったことだ。1993年にCirkusになったので27年ぶりの基幹部品のグレードアップということになる。
この新しい軸受け部品(ベアリングハウジング)の意義については、各世代の比較写真を見れば一目瞭然。材質が肉厚であり径が大きくなっているし、シャーシへ固定するロックナットの頑丈さも見て取れる。内部はどうだろうか。まず、スピンドルの先端を一点支持するスラストパッドはダイアモンド状カーボンコーティングを施したものとなり、摩耗が極小となり回転の静粛性と耐久性を向上させている。また、上部のロックナットだけでなく、底部のターンテーブルの重量と回転精度を支える部分も強度の高いステンレススチールで仕上げることで、たわみや共振を減じていることも重要だ。
この新しい軸受け部品は、多くの既成LP12においてLINNジャパン預かりにて換装が可能だ。筆者も自宅用を最近換装したばかりで、S/Nや音場の展望、そして引き締まった低音の躍動感などの改善効果を確認している。
新装のトーンアームは、インサイドフォースキャンセラーが磁気反発式なのが特徴。調整ねじ付近に磁性体を近づけるとたしかに磁力を感じる。
まずは、往年のモノーラル録音のビッグバンドジャズやステレオサウンド扱いの『ザ・ピーナッツ』から「可愛い花」(モノーラル)を聴く。ジャズはあまりピンポイントなモノーラル定位にならず、おおらかに各パートが吹きまくっているのが結構。重厚さはともかく繊細な描写力であり歌心が十分ある。ザ・ピーナッツはややバタ臭いというか、歌謡曲らしいこぶしやエグ味はおとなしい。クラシック寄りの音質傾向のようであり、ケルテス指揮の「ハーリ・ヤーノシュ」など分離がよく音場の見通しがいい。重厚感はもうひとつだがS/Nが高く繊細な情報がよく析出される。
そして、カートリッジをリファレンス機のMC型、フェーズメーションPP-2000に換装すると一変する。情報量がすこぶる豊富でエネルギッシュ。歌謡曲の少し突っ張ったこぶしの感覚がよく再現されるし音像が実体的だ。大編成の重厚感やスケール感、音場を見たす高密度な描写能力など、高性能カートリッジの威力はあきらかだ。このベーシックモデルのLP12において、音楽のダイナミクスを支える基本特性の向上は隠れもない。