オリンピカ・ノヴァⅤが「HiViグランプリ2020」で〈スピーカーシステム部門賞〉を受賞するなど、ソナス・ファーベルの好調が続いている。同シリーズの完成度の高さについては、HiVi2020年7月号に記したが、それに引き続いて登場したのが、ここにご紹介する「Lumina(ルミナ)」シリーズだ。
ここでは同社エントリー・ラインに位置づけられる本シリーズから小型2ウェイ機の「ルミナⅠ」、3ウェイ4ドライバー構成のトールボーイ機「ルミナⅢ」を聴き、同時発売された横置き仕様のセンタースピーカー「ルミナセンター」を加えた5.1ch再生も試してみたが、まさに価格の枠を超えたすばらしいパフォーマンスを示し、同社の好調ぶりに改めて感服させられた次第。
ソナス・ファベールは、1980年代半ばにイタリア・ヴィチェンツァの地で創設された。創業者の故フランコ・セルブリンが2005年に同社を去るまでは、寄せ木細工を思わせる工芸品のような美しいスピーカーを小規模生産する工房だったが、その後大きな資本が入り、フランコの薫陶を受けたパオロ・テッツォン(1976年生れ)がその衣鉢を継いだ。それからは、幅広い価格帯のラインナップが形成され、世界中でいっそう高い評価を受けるようになったのはご承知の通りだ。
実際セールスも好調のようで、我が国の高級スピーカー市場はしばらく英国B&Wの天下だったが、何人かのオーディオ流通業者に話を聞くと、ソナス・ファベールがその地位を脅かすところまで来ているという。ソナス・ファベールの成功は、優れた才能に投資して初めて大きなリターンが得られるという恰好の事例かもしれない。
さて、LUMINAというシリーズ名だが、資料によるとラテン語で「光」を意味する。また「LU」はLUXURY、「MI」はMINIMAL、「NA」はNATURALのアタマ2文字を取ってつないだものでもあるそうだ。
エントリーモデルでも細部に抜かりなし
ルミナⅠはペア約10万円という手頃なプライスタグが付けられているが、仕上げはとても美しくゴージャスだ(外観デザインを担当するのは1980年生れのリヴィオ・ククッツァ)。トゥイーターの周囲は同社伝統のブラックレザー貼りで、フロントバッフルには薄い木板を7層貼り合わせたプライウッドが採用され、表面のツキ板間の接合部にはメープル材が挟み込まれている。
この美しい仕上げはもちろん音響的に吟味されたもので、不要振動や共振をダンプする役割を果たしている。仕上げはウォルナット、ウェンゲ、ピアノブラックの3種類。白基調の明るいリビングルームにはウォルナットが、暗めに調色されたシアタールームにはウェンゲとピアノブラックが映えるだろう。
ユニットを保護するサランネットは、マグネット着脱式でバッフルにネジ穴が切られていないのも仕上げの美しさに一役買っている。ちなみにソナス・ファベールは数年前に中国生産を終え、この3モデルもイタリア、ヴィチェンツァの地で生産されている。
3モデルともにバスレフポートは底面に配置されていて、ルミナⅢはポートからの低域成分を360度方向に放射し、ルミナⅠとルミナセンターはボトムポートからの低域成分を前方に放射するように設計されている。
ルミナⅠはセルロースパルプに天然繊維を混ぜ合わせた120mmウーファーと29mmソフトドーム・トゥイーターを組み合わせた2ウェイ構成。トゥイーターは素直な超高域特性を得るために頭頂部をダンプした同社お馴染みの「アローポイントDAD」テクノロジーが採用されている。
ルミナⅢは、パルプに数種類の天然繊維をブレンドした150mmウーファー2基と同口径の振動板の中心にフェーズプラグを配置したミッドレンジ・ドライバー、ルミナⅠと同じシルクドーム・トゥイーターによる3ウェイ4スピーカー構成。ルミナセンターは同トゥイーターの両サイドにルミナⅠと同じ120mmウーファーが2基配置されている。3モデルともにスピーカー端子は2系統あり、バイワイヤリング接続が可能だ。
オーディオマニア心をくすぐるⅠ、貫禄のある鳴りっぷりのⅢ
まずルミナⅠをHiVi視聴室常備の鉄製スタンドに載せて2チャンネル再生してみる(ドライブするアンプはデノンPMA-SX1リミテッド)。よくできた2ウェイ機ならではの音のまとまりのよさで、どんな音楽を再生しても間然するところのない見事なサウンドを奏でる。広々とした音場感表現、シャープな音像定位、コクのあるヴォーカル、適度な量感を伴ないながらキレのある低音、これが約10万円のスピーカーだと信じるのは難しい。
しかし、大貫妙子のCD『ブックル ドレイユ』を聴いていて気になったのが、弦楽四重奏のヴァイオリンが少しカン付くこと。何か付帯音が乗っている感じなのである。原因は2系統のスピーカー端子をつないでいる付属のメタルバーだった。これをはずしてバイワイヤリング接続に変更すると、なめらかでスムースな音色が得られ、ヴォーカルにもいっそうの艶が増した。
いずれにしても、ルミナⅠは使いこなしに敏感に反応するタイプで、安価なモデルながらアンプの実力をモロにそのパフォーマンスに反映するスポーツカー・タイプのスピーカーと言っていいだろう(公称インピーダンスは4Ω、感度は84dB/W/mとともに低い)。
ルミナⅠと比べると、ルミナⅢは上質なサルーンカーを思わせる余裕のある鳴りっぷり(バイワイヤリング接続で試聴)。イリーナ・メジューエワの弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタなど左手(低音部)のスケール感が増し、いっそうダイナミックな表現に。ルミナⅢは、比較的大きな部屋で大編成のオーケストラやビッグ・バンド・ジャズなどを聴きたいという向きにお勧めしたい。
音量を上げたときに気になったのが、底面のバスレフポートからの低音。深く伸びたキックドラムを再生したときに床反射によって低音が後れて聞こえる違和感があった。ポートに吸音材を詰めるなどの処理でその違和感を抑えることができるだろう。
意外に思われるかもしれないが、価格の高いルミナⅢのほうが音楽ファン向けで、安価なルミナⅠのほうがオーディオマニア向けだと思う。ルミナⅠはセッティングに敏感で、いろいろ手をかけることで音質向上がリアルに実感でき、立体的な音場表現などオーディオ的なスリルを楽しむことができるからだ。
サラウンドは、ウーファーの口径を揃えるのがコツ
最後にルミナセンターを加えて5.1ch再生を試してみた。フロントL/RにルミナⅢを、サラウンドL/RにルミナⅠを充て、サブウーファーはHiVi視聴室のリファレンスであるイクリプスTD725SWMK2を用いた。
まずルミナセンターの下にウッドブロックを積み上げて、スクリーン下端ぎりぎりまで持ち上げた。言うまでもなく、声が下から聞こえてくる違和感を少なくするためだ。以前にも記したが、リスニングポイントから見てL/Rスピーカーとセンタースピーカーのトゥイーターの高さの差を10度以内に抑えられれば、違和感は少なくなるはずだ。
UHDブルーレイ『1917 命をかけた伝令』などを観たが、音色はよく揃っているものの、15cmウーファーのルミナⅢと12cmウーファーのルミナセンターでは低域のエネルギー感がまるで違う。音量を上げていくと、ルミナセンターが先に音が飽和していく印象で、なんとももどかしい。AVセンターのデノンAVC-X8500Hのベースマネージメント機能を用いてセンターを「スモール」設定してもその印象は同様だった。
そこで「センターなし」設定に切り替え、4.1ch再生で『1917~』を観たが、このほうが安心して音量が上げられ、より立体的なサラウンドサウンドを楽しむことができた。
リビングルームで複数人が横並びで映画を観るのでセンタースピーカーをぜひ使いたいという向きには、ルミナⅠを4本購入して5本すべてのウーファー口径を揃えて聴くことをお勧めしたい。良質なサブウーファーをお持ちなら全チャンネルを「スモール」設定にして再生してみるのも面白いかもしれない。ことほどさようにセンタースピーカーをシステムに加えるのは難しいのである。
いずれにしても、ソナス・ファベールの新エントリー・ライン「ルミナ」の魅力と使いこなしの面白さを堪能、充実した気分でHiVi視聴室を後にしたのだった。
SPEAKER SYSTEM
Sonus faber
Lumina Ⅰ
¥99,000(ペア)+税
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、120mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:2kHz
●出力音圧レベル:84dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W148×H280×D220mm/4.5kg
●問合せ先:(株)ノア TEL.03(6902)0941
Lumina Ⅲ
¥250,000(ペア)+税
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、150mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:350Hz/3.5kHz
●出力音圧レベル:89dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W229×H985×D278mm/16kg
Lumina Center
¥85,000(1本)+税
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、120mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:2kHz
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W524×H169×D213mm/7.6kg