オーロラサウンドを主宰する唐木志延夫氏は、楽器を創る職人のように素子と回路にこだわってデザインする人物。オール半導体プリアンプのPREDA(プレダ)は、新設計の3世代目となるPREDAⅢへと進化した。300B真空管をプッシュプルで駆動するPADA300B(2019年)が奏でる美音が、唐木氏に新型プリアンプの開発を促したに違いない。
PREDAⅢでは音量調整にアルプス製の最高級品を奢った。しかも、フルバランス伝送のために最大規模の4連構成を採用。この真鍮削り出しの大型可変抵抗器は、音質の良さとともに操作感の好ましさで世界的に定評がある。ちなみに、本誌リファレンスのエアータイトATC5は同型の2連タイプを搭載。PREDAⅢは、その前段に独自設計のAurora AMP-2モジュールを配置している。
トロイダル型の電源トランスから完全な左右独立のデュアルモノーラル構成に徹しているのも特徴。2基の電源トランスは重ね合わせており、オーディオプレシジョン製の計測器で測りながら、漏洩磁束の影響が最小になるよう角度が調整されている。本機はフルバランス伝送であると述べたが、シングルエンド入力はアッテネーターを経由してからの回路で逆相(コールド)信号を生成し出力用のバッファーアンプに導かれる。入出力の回路にはDCカット用コンデンサーが挿入される。
PREDAⅢは本誌試聴室で聴いている。送り出しはアキュフェーズDP950とDC950の組合せでバランス出力とした。パワーアンプはエアータイトATM3とオーロラサウンドのPADA300Bを用意。
最初はATM3とのシングルエンド接続である。独ストックフィッシュのSACDで聴く女性ヴォーカルのサラ・K「スターズ」は、声色の生々しさと色付けを感じさせない素性の良さが感じられ、有機的と形容したくなる濃密さと柔らかさが同居している音だ。ビッグ・ファット・バンドのCD「ゴーディアン・ノット」は、ブラス楽器の響きが複雑に重なり合うところでも解像感が保たれている。ベースとドラムスによるリズムの低域も明瞭で、音場空間の拡がりも特筆できる。SACDで聴くユロフスキ指揮「くるみ割り人形」の繊細な音色の描写も申し分ない。実に生き生きとした、テンポの良い演奏なのである。
PADA300Bとはバランス接続で聴いた。これは純正組合せであるが、自分が抱いていたパワーアンプ単体の印象を裏切るような積極的で緻密な音世界に驚かされた。低音域は厚みだけでなく躍動感をじゅうぶん備えており、音が痩せることなく実在感を際立たせている。直熱3極管らしい鮮度の高さと上品かつ滑らかな音の感触は、心から音楽が愉しめる美的な配慮といえよう。
電源と絶対位相の反転スイッチは底面の前方センターにある。PREDAⅢは管球式アンプ愛好家に一聴していただきたい、魅力的なプリアンプだ。