フェーズメーションは、L/R独立構成に理想を見い出しているのだろう。たとえばMC昇圧トランスのT2000、フォノアンプのEA1000、コントロールアンプのCA1000、さらにモノーラル構成のパワーアンプ群など。このEA2000フォノEQアンプはそのL/R独立思想の集大成といえる。
本機は昇圧トランス、イコライザーアンプ、そして電源部がそれぞれL/Rを完全に独立させた計6筐体のセパレート構成になっている。オーディオラック3段分をフォノアンプだけで占める大作だ。
MC昇圧トランスはT2000を土台として開発されたもので、コア材はスーパーパーマロイではなく、スーパーマロイを採用している。モリブデンを加えた初期透磁率の高い材質であり、微少情報の伝達に有利だという。この材質は、パッシヴアッテネーターCM2000にも採用実績がある。コアの厚みは従来0.2mmだったのを0.1mmにまで薄くして、その優位性を高めているという。
イコライザーアンプ部はLCR型の無帰還アンプ方式だ。アンプ部は双3極管ECC803SによるSRPP構成に双3極管6922(6DJ8の高信頼管)のカソードフォロアー(バッファーアンプ)を直結したユニット構成。無帰還とはいえ広帯域特性なのである。その2つのアンプ部に挟まれたイコライザー素子は、チョークコイル2つとCR素子を組み合わせたLCR型。回路インピーダンスを低く設定できるので、高抵抗値による信号の損失を防げる利点があるという。またイコライザー特性はRIAAの他に、MONO1=デッカ、MONO2=コロンビアのイコライザーカーブが選択できる。
出力段はオートトランス(単巻トランス)によって位相反転を行なう、バランス出力端子を装備。RCA端子のアンバランス出力は、そのホット側(2番ピン)と並列になっている。
昇圧トランスを含む各入出力端子は中央寄りに鏡対称配置されていて、結線によるループ面積を最小にするように工夫。信号の基準電位を確定するべくL/R間をつなぐアースは、イコライザー部の入力側で行なうように指定されている。電源部は直熱整流管5U4Gとチョークコイルで、ノイズの少ない電源を供給する。
カートリッジに同社PP2000を用いて試聴。デクスター・ゴードンの「GO!」など、古びた録音からたちまち清涼の気が漂い、演奏家の熱血も成熟も倦怠もあるがままに放射され、別世界を透視するような気分となる。圧倒的に高い情報密度と精密な音像の彫琢能力。そして奏者の指づかい、息づかいの細部まで実質がともなって演奏の隠された仕掛けが実像としてあばかれる! ケルテス指揮の「ハーリ・ヤーノシュ」は高い分解能と鮮烈なピーク感、よくうごめく重低音を誇示するのは当然として、意外なほど稠密でまろやかなリード楽器の音色に聴き惚れた。「玉置浩二」(SS盤)のライヴ録音は、声音(こわね)の技が博物細密画のように明示され、音韻の消え際、無声部分にも抑揚を与える表現意欲が克明だ。
徹底したL/R独立思想とLCR型イコライザーの優位性は、圧倒的な実在感を伴って現実のものになった。
Phono Equalizer Amp.
フェーズメーション
EA2000
¥3,000,000
[昇圧トランス部EA2000T]
●入力端子:2系統(MC、RCAアンバランス、XLRバランス)●出力端子:1系統(RCAアンバランス)●入力インピーダンス:1.5Ω〜40Ω●寸法/重量:W214×H118×D265mm/4.5kg
[フォノイコライザー部EA2000EQ]
●入力端子:3系統(MM、RCAアンバランス)●出力端子:2系統(RCAアンバランス、XLRバランス)●入力感度/インピーダンス:2mV/47kΩ以下●利得:40dB(MM)●使用真空管:5U4G(JJ Electronic)×2、ECC803S(JJ Electronic)×4、6922EH-GOLD(Electro Harmonix)×2●寸法/重量: W214×H118×D368mm/6.1kg(EA2000EQ)、W214×H118×D352mm/7.8kg(電源部EA2000PS)●備考:写真は左より、EA2000PS、EA2000EQ、EA2000T
●問合せ先:協同電子エンジニアリング(株)TEL. 045(710)0975
フォノイコライザー部、EA2000EQのフロント。ミュートポジションを持つ入力セレクターを中央に、右に再生カーブ切替えスイッチを配す。双3極管ECC803Sの無帰還SRPP増幅回路+6922による超低インピーダンス出力カソードフォロアーをユニットアンプとして採用。再生イコライザーカーブはステレオ用RIAAに加え、MONO1(DECCAレーベル等で使用)、MONO2(コロンビアレーベル等で使用)の3種を搭載する。
EA2000EQのリアパネル。入力端子が接近するようにL/R筐体で左右対称となる端子配置で、3系統の入力端子はそれぞれアース端子を装備。出力はRCAアンバランスとXLRバランスの2系統。フォノイコライザー回路は低インピーダンス化が可能なLCR型とし、自社巻コイルや高音質フィルムコンデンサーを採用する。
昇圧トランス部EA2000Tのリアパネル。単体モデルのT2000をベースにチューニングを施し、自社巻トランスのコアは高透磁率のスーパーマロイ。入力はRCAアンバランスとXLRバランスの2系統でセレクターは装備しない。EA2000EQ同様に入力端子が近接するようにL/R筐体の端子は対称配置される。
電源部EA2000PSのリアパネル。直熱整流管5U4Gとチョークトランス2個並列使用の整流回路を採用。EA2000EQとの接続は専用プラグを持つ付属の6芯ケーブルで行なう。EA2000を構成する各筐体は誘導ハムシールドを施した強靭なシャーシを持ち、底面には不要共振を抑える木製ウォールナット単板と外部振動を遮断するTAOC製の重量級金属インシュレーターを配置する。
試聴に使用したカートリッジ
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