またひとつ、ハイエンドオーディオ界を彩る新星が、英国から登場した。2007年にロンドンで設立されたWestminsterLab(ウェストミンスターラボ)だ。

 音質を吟味したUSBケーブルの開発・販売でスタートした同社は、2016年のドイツ・ミュンヘンの「ハイエンドショー」でAB級のモノーラル・パワーアンプ「UNUM(ウーヌム)」を発表、その高評価を経て、2019年にA級モノーラル・パワーアンプの「Rei(レイ)」を、2020年にプリアンプの「Quest(クエスト)」を登場させている。

 今般わが国で最初に発売されるのは、プリアンプのQuestだ。価格は300万円(税別)。オプションでカーボンファイバー素材で要所をシールドしたヴァージョンの購入が可能で、その仕様で注文するとプラス30万円(税別)となる。

WestminsterLab Quest
¥3,000,000(税別、WestminsterLab 1.5m電源ケーブル付属)

画像: WestminsterLab「Quest」の音に心奪われた。2021年のハイエンドオーディオ界を彩る、おそるべき実力を備えたプリアンプの登場だ

●歪み率:<0.0001% @ 1kHz
●S/N:>120dB, unweighted
●接続端子:バランス入力3系統(XLR)、バランス出力2系統(XLR)、オプション2系統拡張可能
●入力インピーダンス:51kΩ
●入力電圧:6Vrms
●周波数特性:2Hz〜100kHz、0.1dB
●チャンネルセパレーション:>120dB
●ゲイン:6.5dB
●ボリュームコントロール範囲:0〜-63dB /ミュート
●寸法/質量:W470×H110×D392mm/13.2kg
※オプション:拡張カーボンファイバーオプション¥300,000(税別)、RCA入力カード¥200,000(税別)

画像: 「Quest」の入出力はすべてXLRバランス端子(2番HOT)となっている。2系統の出力端子からは同じ信号が再生されているので、2台のパワーアンプをつないでマルチアンプドライブ用としても使える

「Quest」の入出力はすべてXLRバランス端子(2番HOT)となっている。2系統の出力端子からは同じ信号が再生されているので、2台のパワーアンプをつないでマルチアンプドライブ用としても使える

 まずは写真を見ていただきたい。フロントパネルにボリュウムノブも入力切替え用スイッチも見当たらないスクエアなデザインが目に新しい。入力切替え、音量調整はすべて付属リモコンで行なう仕様なのである。

 フロントパネルの右側にはドット状の孔が開けられ、有機ELディスプレイによって大きな数字で入力端子の番号と音量が表示される。なお、WestminsterLabのロゴの右隣に見える5つのドットは、五線譜上の音符を模した同社のシンボルマーク。音楽と再生機器を結ぶというメッセージが込められているそうだ。

 筐体はアルミの引き抜き材で構成されるが、外来ノイズに対処するためだろう、トップパネルのみカーボンファイバー素材が採用されている。底板を支えるフットは3点支持。フット素材は無垢の真鍮で、酸化防止コーティングが施されている。

 回路は、入力段、ボリュウム、出力段に至るまでデュアルモノ構成のフルバランス・デザイン。出力インピーダンスは47Ω。リアパネルには3系統のXLRバランス入力と2系統の同出力が用意されるが、その左側にはオプション入力ボードがスロットインできる枠があり、RCAアンバランス入力カード(20万円、税別)と開発中のフォノカードを買い足すことができるという。

画像: 内部回路はひじょうに綺麗に仕上げられており、ワイアリングひとつにまで気を遣っていることがうかがえる。写真はオプションのカーボンファイバーシールドを取り付けたバージョンで、今回の試聴ではこのセットを使った。この場合の価格は¥3,300,000(税別)

内部回路はひじょうに綺麗に仕上げられており、ワイアリングひとつにまで気を遣っていることがうかがえる。写真はオプションのカーボンファイバーシールドを取り付けたバージョンで、今回の試聴ではこのセットを使った。この場合の価格は¥3,300,000(税別)

 電源部はトロイダルトランスを積んだリニア電源回路。内部をのぞくと大小2基のトランスが採用されているのがわかる。大きい方はオーディオ回路用に、小さい方は制御系に、と分けられている。なお、この独自設計のトランスは一般的なものに比べて鉄芯の構造が異なり、より効率が高く、クリーンでハイスピードな電力を供給できるとしている。

 いずれにしても、内部コンストラクションは整然と美しく、手配線とおぼしきワイヤリングのカーブまで統一されていて、その佇まいに繊細な美意識が宿っていることがわかる。

 ボリュウムは、音質を吟味したシャント・タイプの4連64ステップの高精度抵抗が奢られ、超低ノイズリレーともども専用のレギュレーターが充てられている。

 興味深いのは2通りのグラウンド方式が採用されていることで、正面下部手前にトグルスイッチがあり、アースの落とし方が異なる「モード1」と「モード2」の切替えが可能だ。

 ひじょうに清新な外観デザインが採用されてはいるが、高級パーツをふんだんに奢ってオーソドックスな手法で音質を磨き上げたプリアンプであることがおわかりいただけただろうか。

画像: 付属のリモコンも重量感のあるしっかりした仕上げ。入力切り替えやボリュウム調整はリモコンで行う

付属のリモコンも重量感のあるしっかりした仕上げ。入力切り替えやボリュウム調整はリモコンで行う

 StereoSound ONLINE試聴室にて同リファレンス・システムに本機のカーボンファイバーシールデッド・ヴァージョンを組み込み、その音を聴いた(スピーカーはJBL K2 S9900)。今回のテストでは、D/Aコンバーターのアキュフェーズ「DC-950」と本機の間に同社製超高級XLRバランスケーブル「ULTRA」シリーズを用いた(1mで80万円、税別)。

 330万円という価格がアタマにあるので、かなり厳しい耳で本機の音に向き合ったが、聴き慣れた愛聴曲のどれを聴いても「あ、この演奏・録音にはこんな面白さ、凄さがあったか……」と気づかせてくれるすばらしい音が満喫できた。おそるべき実力を備えたプリアンプの新星と言っていいだろう。

 ひと言でいえば、情報量がきわめて多い高解像度サウンドということになるが、音の粒子がきめ細かく磨き込まれていて、再生空間はきわめて広く、音像の彫りは深い。また、ヴォーカルや各楽器の音色に濃やかな艶が乗り、とても味わい深いのである。

画像: フロントパネルの中央下部にグラウンドモードの切り替えスイッチが備わっている。このスイッチを正面からみて右側にすると「モード1」、左側では「モード2」になる。「モード1」は音のアグレッシブさは減るが、ノイズ成分等を抑える方向で、「モード2」は情報やスピード感は出てくるが、ノイズが出てくる場合もあるという

フロントパネルの中央下部にグラウンドモードの切り替えスイッチが備わっている。このスイッチを正面からみて右側にすると「モード1」、左側では「モード2」になる。「モード1」は音のアグレッシブさは減るが、ノイズ成分等を抑える方向で、「モード2」は情報やスピード感は出てくるが、ノイズが出てくる場合もあるという

 2通りのグラウンド方式の音の違いを聴き比べてみた。ぼくの好みは「モード2」。より情報量が多く、音の芯がしっかりしていて厚みのある中低域を訴求しながら、音のヌケがきわめてよい。比較すると「モード1」は、より滑らかでスムーズな音調だが、音を少し整理して聴かせる印象となる。

 ただし「モード2」で、広大なダイナミックレンジを誇る192kHz/24ビット/FLACファイル『ハイドン:天地創造』(リンレコーズ)を大きめの音量設定で演奏すると、弱音部でわずかにハムノイズが乗っていることが確認できた。「モード1」に切り替えると、そのノイズは完全に消える。音質がより好ましかったのは「モード2」だが、再生環境によってはハムノイズが気になるかもしれず、その場合は「モード1」を選択すればよいだろう。

 Questの魅力に心を奪われた試聴曲をいくつかご紹介しよう。まず女性ジャズ・シンガーSHANTIの「グッドナイト・マイ・エンジェル」(192kHz/24ビット/FLAC)。ピアノとのデュオ曲で、SHANTIのヴォーカルがじつに艶っぽく、ピアノの実体感に満ちた鳴りっぷりも好ましい。ピアノの弱音部の描写も鮮明で、ピアニストがフットペダルから足を離した際に生じるノイズがとても生々しい。これほどローレベルの精妙な描写を得意とするプリアンプは珍しい。

画像: 左は「Quest」付属の1.5m電源ケーブルで、右は別売のWestminsterLab製XLRバランスケーブル「ULTRA」シリーズ。バランスケーブルは近日発売予定

左は「Quest」付属の1.5m電源ケーブルで、右は別売のWestminsterLab製XLRバランスケーブル「ULTRA」シリーズ。バランスケーブルは近日発売予定

 フラット・トランスファーを謳ったザ・ローリング・ストーンズのSACD『スティッキー・フィンガーズ』。その中からサザン・ソウル風味のバラード「アイ・ガッタ・ブルース」を聴いたが、イントロでキース・リチャーズが奏でるエレキギターのアルペジオが、広いスタジオに鳴り響くさまが手に取るようにわかり、固唾をのんだ。描写されるエアーとスペースが途方もなく広大なのである。これまたQuestのかけがえのない魅力だろう。黒人音楽に憧れる1970年当時のミック・ジャガーのヴォーカルの生々しさにも心を奪われた。

 イリーナ・メジューエワのCD『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』から「悲愴 第一楽章」。1922年製のヴィンテージ・スタインウェイを意のままに鳴らしきるメジューエワの剛毅なタッチをこのプリアンプは克明に描写する。音の立ち上がりが鮮明で、あいまいさやモタつきがまったくない。トランジェント特性が抜群によいプリアンプなのである。

 ノルウェーのジャズ・ベーシスト、スタイナー・ラクネスのCD『チェーシング・ザ・リアル・シング』からグラム・パーソンズ作の「ア・ソング・フォー・ユー」を聴いたが、このパフォーマンスもすばらしかった。ラクネスはこのアルバムでウッドベースを弾きながら、渋い声でアメリカーナを歌うが、ヴォーカルの表情がじつに豊かで、ヴェールを1枚剥がしたかのような、超高解像度レンズで捉えた8K映像のような、思わずギョッとさせられる鮮明さで迫ってきて心に沁みた。

 さて、いかがだっただろうか。2021年初頭に出会って大きな感動を与えてくれた超高性能プリアンプQuest。まもなくペアとなるパワーアンプReiも日本上陸とのことで、両者を組み合わせた音もぜひ体験してみたい。ハイエンドオーディオの世界をいっそう充実したものにしてくれそうなWestminsterLabにぜひご注目いただきたいと思う。

画像: 今回はStereoSound試聴室の常設機器に「Quest」を組み合わせて取材を行った。SACD/CDトランスポートはアキュフェーズ「DP-950」でDACが「DC-950」、パワーアンプは「A-250」というもの。スピーカーにはJBL「K2 S9900」を使っている

今回はStereoSound試聴室の常設機器に「Quest」を組み合わせて取材を行った。SACD/CDトランスポートはアキュフェーズ「DP-950」でDACが「DC-950」、パワーアンプは「A-250」というもの。スピーカーにはJBL「K2 S9900」を使っている

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