独自の哲学を持つモノづくりに磨きをかけた製品
シンプルでスタイリッシュなスカンジナビア・デザインで話題を集めるプライマーが、新製品のプリアンプとパワーアンプをリリースした。プライマーは1985年にデンマークで生まれたが、その後スウェーデンに拠点を移して積極的に製品開発を行なう先進的なメーカーである。
プリアンプのPRE35とパワーアンプのA35.2は、ともに先に発売されたプリメインアンプのI35にも展開する最新の設計手法を取り入れ、さらに独自の哲学を持つモノづくりに磨きをかけた製品である。
プリアンプPRE35の一番のポイントは、ノイズ特性に優れたフルバランス回路を採用していることだ。構成はシングルエンドだが、4つの独立した回路を搭載し、DCサーボをかけて信号経路からカップリング・コンデンサーを排除し安定した動作を実現している。バランス入力は当然ながらこの回路の恩恵にあずかるが、アンバランス入力も内部でバランス信号へと変換することで、S/Nの高いサウンドを再現する。またシグナルパスを最短化するため、4層基板を用いて信号の純化を図っている。
電源回路にもこだわりを持ち、スタンバイ用のスイッチング電源と増幅回路用のリニア電源を用意し、豊かな音の表現力を求めている。加えて、スタンバイ用のスイッチング電源はメイン回路がオンになると完全にオフになり、信号への不要な影響を与えない心憎い配慮がなされている。
パワーアンプのA35.2は、プライマーのオリジナル技術を用いた高速で動作するUFPD2(ウルトラ・ファスト・パワー・デバイス2)を採用したデジタル増幅のパワーアンプである。回路基板とヒートシンクを直結して信号経路の最短化によりS/Nの改善に務めている。さらにNFB(ネガティブ・フィードバック)量の最適化を行なって安定した動作を獲得した。加えてこのアンプで注目すべきは、APFC(アクティブ・パワーファクター・コントロール)と呼ぶ独自の回路技術を用いた電源回路を搭載していることだ。この回路の特徴は商用電源から正確なサイン波の電源波形を生成し、パワーブロックに供給すること。高調波や電磁波の妨害を低減するとともにリップルも抑えて、クリアーな音の再現を司る。ステレオ使用時は8Ω負荷で200W+200Wの出力を獲得し、ブリッジ接続を行なえば800Wのハイパワーアンプになる実力派である。
程よいぬくもりを持ちながら、スピード感も担保されている
最初にプリアンプのPRE35とパワーアンプのA35.2をバランス・ケーブルで接続して聴いてみた。オーケストラの楽曲では弦楽器のニュアンスがもう少しほしいし、ヴォーカルソフトでは声の表情はそれなりに豊かだが、全体にはソフトというかやや眠たいイメージだった。このままではプリかパワーか、どちらが支配的なのかわからないので、デノンのプリメインアンプPMA-SX1リミテッドをパワーアンプとして使うことで、プリアンプのキャラクターを確認してみた。すると音の深みが増し余韻も綺麗に広がる。ヴォーカルソフトでは声のリアリティが高まるようにも感じられる。アンバランス接続でも試聴してみたが、落ち着きがあり、癖の少ないニュートラルな印象である。
PMA-SX1リミテッドにはプリアウトがないので、逆の組合せはできないが、これで終わってはプライマーの立つ瀬がないと思い、パワーアンプを元に戻して再び同じソフトを試聴すると、粗さが取れて先ほどとは大きくイメージが変わった。どうやらこのパワーアンプは本調子になるまで少し時間がかかるようだ。ユーザーとなった人はメイン電源を切るのではなく、スタンバイ機能を使って常に通電しておくことをお薦めする。コンディションの整った状態では、バランス接続において音のきめが細かくなるし音場も深くなる。デジタルアンプは音の厚みで不利とされているが、マイナス面はいっさい感じられず、アナログ的なふくよかさも感じさせるサウンドである。
ヴォーカルソフトにおける程よい温度感にもアンプの特性が反映されているように思うし、スピード感があるのに薄味にならない点にも好感が持てる。アンバランス接続のほうがいくぶん優しくなる傾向を示すが、どちらの接続方法を選択しても基本的なキャラクターに大きな違いはないと思う。またバランス、アンバランス接続ともに入力感度が揃えてあり、音量が変わらない。こうした部分にもモノづくりの細やかさが偲ばれる。
最後に2チャンネル再生で映画UHDブルーレイ『007 スペクター』を視聴してみたが、中低域が充実していることもあって厚みのあるダイアローグを聴くことが出来るし、スクリーン上にぴったりとフォーカスするので映像との一体感が生まれる。こうした点にもこのモデルの素性のよさが表れている。組み合わせて使ってもいいが、プリアンプ単体でも、パワーアンプ単体でも充分にその持ち味を発揮する製品である。シンプルで美しく、しかも本格的なオーディオを楽しみたいユーザーはぜひともこのサウンドを体験していただきたい。