映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第43回をお送りします。今回取り上げるのは、31もの名曲をバックに繰り広げられる青春ムービー『WAVES/ウェイブス』。斬新なカメラワークとともに、登場人物たちの心情に寄り添う楽曲を、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

画像1: 【コレミヨ映画館vol.43】 『WAVES/ウェイブス』音と色の華やかな饗宴! 注目の新進スタジオ、A24が放つ美しく悲痛な青春ドラマ

 2012年、ニューヨークで設立された独立系映画配給会社のA24。2017年には、貧困地区で育ったゲイの黒人青年のアイデンティティを見つめた『ムーンライト』がアカデミー作品、助演男優、脚色賞を受賞。新進気鋭のプロダクションとして一躍映画ファンの注目を集めた。

 7年間監禁されていた母子の運命を描くスリラー『ルーム』、ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のシアーシャ・ローナン主演の思春期ドラマ『レディ・バード』、ディズニー・ワールドのすぐそばで暮らす6歳の少女の成長をスケッチした『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、落ちぶれたスター最後の輝きに寄り添うバート・レイノルズ主演の『ラスト・ムービースター』など、その配給作品はどれも記憶に新しい。

 A24にとりわけ気合が入るのは、リスクを背負ってもこの物語を世に出したいと考えた製作兼任作品で、前述の『ムーンライト』のほかには、アリ・アスター監督の総毛立ち系ホラー『ヘレディタリー 継承』と『ミッドサマー』、SNS世代の少女のどん詰まりの青春を描く『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』、不気味少年の接近で崩れてゆく家族を描く不条理ドラマ『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』などがあった。クセが強く、ピュアな輝きをまとった傑作ばかり。どれも世界を眺める新しい窓だった。

 この『WAVES/ウェイブス』もA24の製作&配給作品。期待を裏切らない。

 エンディングにグラミー賞受賞バンド、アラバマ・シェイクスのドリーミーな曲「サウンド&カラー」が流れるけれど、文字通り美しい「音」と「色」で全体がコーティングされた青春映画だ。

 ほかにもR&Bシンガーのフランク・オーシャン、ラッパーの域を飛び越えたケンドリック・ラマー、レディオヘッドの名曲「トゥルー・ラヴ・ウェイツ」、360度パンするカメラワークにヤラれそうなオープニング・シーンを飾るノイズ・ポップ・バンドのアニマル・コレクティヴなど、40曲近い楽曲がSpotifyのプレイリストのように流れつづける。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.43】 『WAVES/ウェイブス』音と色の華やかな饗宴! 注目の新進スタジオ、A24が放つ美しく悲痛な青春ドラマ

 フロリダで暮らす兄と妹の物語。新人トレイ・エドワード・シュルツ監督が脚本執筆と同時に選曲を考え抜いた作品で、出だしは享楽的でハッピーな物語だが、やがて世界は沈んでゆく。翳りがあたりを覆ってゆく。そのなかにも信じられるものがある。後悔と希望も漂っている。テクニックに溺れる美麗映画のように見えて、案外骨がしっかりとしたドラマなのだ。自身の痛みや喜びが活かされているのだろう。

 「人間ってバカばかりだ。ほっとけ。知るかよ」。悩んだときにこういう言葉をかけてもらえれば、ひとは救われるはず。若いときは特に。映写と音のいい劇場に出かけたい。A24がまた珠玉の一本を放った。

『WAVES/ウェイブス』

7月10日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
出演:ケルヴィン・ハリソン・ジュニア、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、ルーカス・ヘッジズ
原題:WAVES
配給:ファントム・フィルム
2019年/アメリカ/2時間15分/ビスタサイズ
(C)2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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