声色の自然さは見事、小型機とは思えないほどの臨場感で愉しませる
米国マジコのM3を愛用している私にとって、リーズナブルな価格帯で登場したAシリーズは嬉しい驚きだった。堅牢な完全密閉型エンクロージュアと多層構造の軽量かつ高剛性の振動板、そしてベリリウム振動板のドーム型トゥイーターといった各部の特徴と、解像感に優れた濃密な音の語り口など、いずれもマジコらしい特徴を備えていたからだ。
2ウェイ・ブックシェルフのA1は、製造完了になって久しい高級機Q1と似たようなプロポーションであるが、Q1のようなスタンド固定ではなく、置き方の自由度をアピールしている。本機の試聴にはマジコが推奨する米国サウンド・アンカーズ製のA1専用スタンドを使っており、その高さは約60cmある。
ダストキャップを備えたA1のウーファーはフェライト製の2重マグネットで磁気回路が強化されており、表面にグラフェンを貼った多層構造のグラフェン・ナノテック振動板が特徴。ベリリウム製トゥィーターの口径は28㎜である。-12㏈/oct.のクロスオーバー回路には、独ムンドルフの高価な箔巻きの大型コイルとフィルムコンデンサーを登用。エンクロージュアは6061T6アルミニウム合金製で、同素材の内部補強板も3枚使われている。スピーカー端子はAシリーズ共通の独WBT製である。
マジコA1は本誌試聴室で聴いている。音源はDELAのミュージックライブラリー(オーディオ専用NAS)に格納し、D/AコンバーターのアキュフェーズDC-950とUSB接続してある。プリアンプとパワーアンプは、本誌リファレンスのエアータイトのATC-5とATM-3の組合せである。
手嶌 葵「月のぬくもり」は、私が試聴で必ず使う曲。A1はフォーカスの整った明晰な音を聴かせて、人肌をイメージさせる暖かい温度感を帯びている。一聴してクォリティの高い音という印象であり、奥行き方向に深い音場空間の提示は聴き応えたっぷり。管球式パワーアンプのATM-3は弾力のある低音感を持ち合わせているようで、ハイレゾ音源のカート・エリング「ザ・クエスチョンズ」の冒頭曲「エンドレス・ローンズ」は、革靴でリズムを刻む足音の低音がわずかに膨らんでいる。しかし、声色の自然さは見事というしかなく、丁寧に音を描きながら小型機とは思えないほどの臨場感で濃密に演奏を愉しませる。
ネルソンス指揮「ショスタコーヴィチ交響曲5番」では、まずコントラバスの厚みのある響きに感心。ヴァイオリンとフルートによる弱音部分もきめこまかに奏でるし、ローエンドがストンと切れるようなバスレフレックス型とは異なり、小型機らしからぬスケールの豊かな音が得られているのが好ましい。
A1の公称能率は85㏈なので、それほど音量を上げずに聴くなら300Bシングル機でも不満なく鳴らせるはずだ。現代的な高精細サウンドで、音楽を伸びやかに奏でる魅力的なスピーカーシステムである。