スコットランドのグラスゴー近郊に本拠を構えるスピーカー工房、ファイン・オーディオから登場したコンパクト2ウェイ機がF701だ。ファイン・オーディオは2017年に創設された若い会社だが、中心メンバーの多くは英国スピーカーメーカーの老舗タンノイの出身者たち。タンノイ伝統のポイントソース・ドライバー(同軸ユニット)を進化させ、独自の家庭用高級スピーカーを発表し続けている。
本機F701は、4シリーズ展開のラインナップのなかで準トップエンドとなる700シリーズに位置付けられる小型2ウェイ機。同社が「アイソフレアードライバー」と呼ぶ20cm同軸ユニット1基のみがバッフルに装填されている。「アイソフレアー(ISOFLARE)」とうのは、ウーファーとトゥイーターの音軸中心を共有し、優れた位相特性を実現した状態を指す。具体的には25mmマグネシウムドーム・コンプレッショントゥイーターのホーン形状とウーファーのコーン形状を統合解析して放射角の最適化を図り、高域エネルギーをスムーズに拡散放射する複合曲線を完成させることで実現している。
20cmウーファーの振動板はリジッドなマルチファイバー素材で、溝を成形したエッジが採用されている。単純な湾曲形状の一般的なロールラバーエッジではその材質特有の固有共振が発生、振幅によってコーンが変調を受けるというのが同社の説明で、このエッジ構造(ファインフルート・テクノロジー)を採ることでマルチファイバー・ペーパーコーンが元来持つリニアリティ(直線性)のよさが発揮されるという。
本機でもうひとつ興味深いのが、底部に下向きに配置されたバスレフポートの設計だ。ポート開口部に同社が「ベーストラックス」と呼ぶ亜円錐形状のディフューザーが設けられているのである(エンクロージャーはリジッドなアルミニウム製台座とインシュレーターを介して一体化される)。このディフューザーによってポートから発せられる低音エネルギーの向きを90度変えて360度方向に広がる均一な波面に変換するのである。この設計により、狭い部屋で問題となりがちなバスレフポートから放射される低域エネルギーの壁面からの反射が抑えられるというわけだ。
エンクロージャーはバーチ(樺)材の積層合板。カラーバリエーションはウォルナット、ブラック、ホワイトの3色で、すべてピアノグロス仕上げ。試聴機はウォルナット仕上げだったが、艶やかな光沢がとても美しく、本機をリスニングルームに置けば、高級スピーカーを手に入れたという大きな満足感が得られることは間違いないだろう。
太く力強い音像は、
映画再生にも力を発揮
Hi Vi視聴室で本機を専用スタンド(FS8)に載せ、本誌リファレンスアンプのデノンPMA-SX1リミテッドで鳴らしてみた。
エネルギーバランスがよく整ったオーセンティックな音調というのが、本機のファースト・インプレッション。その音から英国製スピーカーらしいたおやかな品格と気高さが感じ取れる。興味深いのは、ファントムセンター成分がL/Rスピーカーを結んだ線よりも前に出てくるイメージが得られること。昨今主流の「音場型」ではなく「音像型」スピーカーとしての魅力を訴求するのである。音像は太くたくましいが、高さ方向の音場表現は控え目な印象となる。
気になったのは、ヴォーカルの子音やシンバル、ピアノの高音部などが少し耳につくこと。もっともこれはエージングによって改善されるであろう部分で、鳴らし込むことで高域の表情は大きく変化していくと思われる。低域は風のように軽くしなやか。低域端は思いのほか伸びており、解像感も高い。
「オン」な表現を得意とするスピーカーだけに、映画再生などAVユースではきわめて良好なパフォーマンスを示す。厚みとキレのあるダイアローグが楽しめ、観る者の心の襞に染み込む情感が醸成されるのである。ピュアオーディオ再生で気になった高域のクセっぽさもなぜか気にならない。暗騒音も的確に拾い、映画の世界がまるで眼前で繰り広げられる現実のようなイリュージョンが現出する。BD『コールド・ウォー/あの歌、2つの心』でジャズ・コンボをバックにパリのクラブでヒロインが歌うシーンなど、その情感の深い声の再現に心震える思いがした。映画再生用としてぜひ注目したい実力機。
FYNE AUDIO
F701
¥640,000(ペア)+税
●型式:2ウェイ1スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター+ホーン/200mmコーン型ウーファー同軸
●クロスオーバー周波数:1.7kHz ●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m ●インピーダンス:8Ω
●寸法・質量:W278×H465×D390mm/13.6kg ●問合せ先:アクシス(株) TEL. 03(5410)0071
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