復活が期待されていたヤマハ「GTシリーズ」
かつてのGT-2000がクォーツロックのDD方式だったのに対して、新しいGT-5000はサーボ回路と決別した、ACシンクロナスモーターによるベルトドライブ機として登場。正反対というべき大きな設計の転換は、荘厳かつ高品位な音として結実している。
2重構造の大型プラッターは、慣性モーメント(慣性質量=イナーシャ)が0.92t/㎠、強大な値を実現しているという。それによる安定した回転を維持するために、24極2相の小型ACシンクロナスモーターに供給する交流電源は水晶発振に基づく正確な正弦波で作り出され、回転数を算出して供給電源を制御するサーボ回路は持っていない。いうなれば、無帰還回路で回転させているターンテーブルなのだ。
トーンアームはGT-2000用に限定販売されたYSA2を思い出させる、アンダーハングのストレートなショートタイプ。アナログ盤の再外周と最内周で各10度ほどのトラッキングエラー角が発生するのだが、そのコダワリについては同社HP等で詳細を語ってほしいところ。ちなみに、フィデリックスのトーンアームも同じ思想で設計されている。
パーティクルボード製のキャビネットは適度な内部損失があり、不要共振を抑える効果がある。特別なコイルスプリングを内蔵して防振対策が講じられている優れた4基の脚部だが、個人的にちょっと残念に思えるのは、高さの調整に対応していないこと。オーディオラックなどの設置環境によって微妙に水平が得られていない場合は、脚部の下に紙などを挟んでの対応となる。
GT-5000は本誌試聴室で聴いている。フォノカートリッジには、音の素性を熟知しているVM(MM)型のオーディオテクニカVM760SLCを使用。フォノイコライザーアンプはフェーズメーションのEA1000である。アンプはエアータイトのATC5とATM3。スピーカーはB&W800D3で、RCA接続を中心に聴くことにした。
井筒香奈江のダイレクトカッティング盤は、ヴィブラフォンの音色に盤石の安定感が宿っており、彼女のヴォーカルとピアノも微動だにしない定位で鮮やかに聴かせる。45回転盤のバーンスタイン指揮「スペイン狂詩曲」は、開放感に優れた鮮度の高い音。細部まで鮮やかな描写力が得られており、やはり腰の据わった堂々たる音なのだ。ドナルド・フェイゲン「ザ・ナイト・フライ」のA面最後「マキシン」は冒頭を飾るピアノの打鍵音も響きがしっかりしていて、トラッキングエラー角が大きいことの影響は微塵も感じられない。
本機の特徴であるXLR端子を使ったバランス伝送でも音の印象は特に変わらず、低重心で品位の高い音を聴かせてくれた。完成までに時間を要したGT-5000だが、期待を裏切らない本格派のベルトドライブ機に仕上がっている。専用のアクリル製ダストカバーは別売で春以降に用意される予定だ。