オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。(編集部)
アーティストと監督、それぞれの“角松敏生”を感じてください。
最新ライヴBDにこめられたこだわりとは
BD(ブルーレイ・ディスク)というメディアを得て、角松敏生さんの映像作品が俄然面白くなってきていることは既に読者の方々もご存知の通り。本誌10月号でも視聴リポートをお届けした「Citylights Dandy」に続けて、早くも新作の登場だ。今回は、間もなくリリースされる「TOSHIKI KADOMATSU Performance2009」のリポートというわけで、角松さんの待つスタジオにお邪魔してきた。(インタビュアー:酒井俊之)
--まずは、今回のBDの成り立ちについて教えてください。
角松 この作品は昨年の『NO TURNS』ツアーの最終日、NHKホールでのライヴを収録したものです。もちろんDVDだけでなくBDでもリリースするんですが、この作品も従来のように音声フォーマットはリニアPCMの2chと5.1chでの収録になっています。
DVDの方では今回オーサリングを担当してもらったバーニー・グランドマン・マスタリングスタジオに、試しにドルビーデジタルとDTSの両方でマスタリングをお願いして聴き比べてみたんです。音の立ち方とか拍手の臨場感とか、DTSにはDTSなりのよさもあるんだけど、まぁ好みのレベルで選ぶとドルビーデジタルかな、と。
サラウンドについての考え方は、9月にリリースした『Citylights Dandy』とは違って、基本的には会場の臨場感と音のアンビエンス感を全チャンネルを使ってミキシングしているという感じです。客席にいる雰囲気をどう出すか、そういったところがテーマです。
--なるほど。では映像面で特に留意した点はありますか?
角松 今回の場合はサウンド面もさることながら、映像の製作も含めた“監督”として、きっちりと携わったものになっています。そういった関わり方は、前作のライヴ作品『Player’s Pray』とは大きく違うところだと思います。
これまでも映像作品の場合、最終的には僕が編集などもチェックはしていたんですが、本作については全体の作品づくりのコンセプトやそもそもどういった作品に仕上げていくのか、その方向づけなどや現場での仕切りも含めての監督作業でしたので、ライヴの前から撮影監督や各カメラマンと打ち合せてから収録にも臨んでいます。
どういう絵が撮りたいのか、そのためにはカメラ位置はどうするか、どういう撮影機器を使ってどう動かすのか、そういった、以前は撮影監督に任せていた部分も、今回はあらかじめ収録のプランを立てて、各スタッフに伝えていきました。
だからこれまでは自分のライヴであっても“撮られている”という感じだったんですが、この作品は“撮っている”という感覚のほうが強かったですね。当日はライヴが始まっても、ちゃんとカメラが動いているか、ちゃんと考えていたように絵が撮れているか最初のほうはいろんなことを考えながら歌っていました(笑)。
--それは凄いですね。では監督としての演出上のポイントを教えて下さい。
角松 基本的にはライヴの映像作品というのはお客さんの邪魔をしないというのが鉄則になるので、どうしてもカメラワークなどには制限があるんですが、これはライヴを撮るためのライヴなんだと。だから観客の皆さんにも、映像作品になるということを認識してもらったうえで、ライヴに参加していただきました。服装なんかも含めてね(笑)。
でもこういった作品って、観客席側のバイブレーションとかって重要なんですよね。だからあなたも映像作品に参加するんですよ、監督は角松敏生自身ですよと。だから遠慮なく、カメラがどんどんライヴに入ってきちゃう。でもその甲斐あって、これまでになく映像の編集作業はスムーズに進められましたし、イメージしていたものが巧く実現できています。
今回はステージ美術がトリックアート的なデザインになってもいて、そういった部分もしっかりと伝わるように映像を収録していますので、チェックしてみてください。
--BDの中で、ファンにぜひ観て欲しいポイントはどこでしょう?
角松 作品自体はとても格好良くてスマートでクールなものに仕上っているんですが、実はライヴ中には僕がアーティストとしてではなく、映像の監督としてどういった指示をステージから出していたか、お客さんに対してどういった“演出上のお願い”をしていたか、今回はそのあたりのMCを特典映像の『㊙MC集』に集めておきましたので、併せて見ていただくと面白いと思います。
映像づくりのために、その裏側ではいろんなやり取りがライヴの現場ではあったのだということを楽しんでもらえると思います。拍手のタイミングから収録テープのロールチェンジのタイミングまで、すべては監督としての僕の指示で進行していたのだということがわかる仕掛けになっていますから(笑)。
--ここまでこだわり抜いた映像作品を目にするのは、ファンにとっても初めてですね。自宅でチェックするのが楽しみです。
〈特典映像〉㊙M C集、編集用マルチ画面『REMINISCING』『TAKE YOU TO THE SKY HIGH』
〈参加ミュージシャン〉江口信夫(Drums)/松原秀樹(Bass)/今剛(Gtr)/梶原順(Gtr)/小林信吾(Key)/森俊之(Key)/田中倫明(Perc)/チアキ(Cho)/凡子(Cho)
〈収録曲〉Permonition of Summer〜WAY TO THE SHORE/REMINISCING/What Do You Think/もっと/You can go your own way/美しいつながり/鏡の中の二人/A Window on the Shore/LET M<E SAY…/君をこえる日 他