公称質量36kgのプリメインアンプ。文字どおり見かけどおりの大物で、Eシリーズを代表する新しいフラグシップモデルなのだが、定格出力は控えめな50W×2(8Ω負荷)。4Ωでも100W×2とされていて、たとえば既発売の中堅機E480がもつハイパワー=8Ω負荷時180W×2には遠く及ばない。なのに価格はほとんど2倍。これはどういうことか? 主なその理由は、ファイナル出力段がA級動作だからである。
プッシュプルのA級アンプは電力効率が低い代わりに高音質だとよくいわれる。低効率なのは、出力回路に常時大電流が流れるためで、ちょうどアクセルを踏み込んだまま待機しているクルマみたいなものだ。走らなくてもエンジンは高回転状態。つまりスピーカーへ送り出される電力がゼロの無信号時でも消費電力は減らない。行き場のないそのエネルギーはぜんぶ熱に化けるので、パワーディバイスが猛烈に熱くなり、アンプの熱設計が甘いとあっさり壊れてしまう。動作点の設定や放熱に格別な注意が必要で、結果的にA級アンプの最大出力は小さくなる。それでもなお、低効率の代償は大きくて重い。コストがかさむのは、E800の内部を見れば一目瞭然だ。
音質がよいといわれるわけは、レスポンスが速いうえに信号波形のゼロクロス点に継ぎ目がなく、なめらかでひずみが発生しにくいからだ。ちょっとややこしいけれど、A級アンプは山側と谷側一対のパワーディバイスが休まず、入力信号をそのままのかたちでそれぞれ増幅している。通常のB級(厳密にはAB級)動作では、山側と谷側の増幅を半分ずつ交互に受け持ってつなぐ。そのため波形に継ぎ目を生じやすいと思えばよいだろう。
E800の立ち位置は、したがってシンプルに規定することができる。セパレートアンプほどのパワーは求めないが、クォリティについては妥協のない、そして扱いやすいハイエンドアンプだ。
省エネ度の点で未来性を欠くにしても、アナログ増幅のA級出力はこんにちもっとも手堅いホームオーディオアンプの到達点だといえる。技術の歴史を積んだ信頼すべき音のリファレンス。長年セカンドベストの役割を負ってきたプリメインアンプが、セパレートアンプと本気で力比べの場を見つけたのである。
いずれにせよ、このようなコンセプトでマルチチャンネルAVアンプがつくられることはまずあり得ない。22チャンネルのA級出力など、一般家庭には絶対的に巨大すぎるノンインバーターの電熱マシーンになってしまいそうだから。
AVファンにも有用な点とは?
量感のある音に惚れる
では、まるで無縁な別世界かというと、そんなことはない。アキュフェーズのプリメインアンプやプリアンプは、コントロールセンターとしての機能が充実していることで群を抜く。E800ももちろん例外ではないが、とりわけ僕らHiVi人間が注目すべきは、マルチチャンネルと2チャンネルシステムの共存が最良のかたちで簡単に実現することにある。
方法は以下のとおり。2チャンネルセッティングを済ませたE800のMAIN IN端子(バランス/アンバランスどちらでも可)に、AVアンプ・プリアウトのフロントL/R出力を接続。E800のシーリングポケット内にあるMAIN INスイッチをNORMALからどちらかに切換える。この状態でAVソースのフロントL/R信号はE800のパワーアンプに入力される。スイッチをNORMALに戻せば、E800のプリアンプ部を通った2チャンネル信号がパワーアンプへ。要は信号ケーブルの接続変更なしでフロントのメインスピーカーがサラウンドにも2チャンネルにもつかえるのだ。これはあたりまえなことのようだが、パワーアンプが入力選択機能をもたないセパレートアンプの場合は不可能、でなければ煩雑な手順が必要。またユニティゲイン対応方式よりも信号経路がすっきり整う、E800の得意技である。
それは後のお楽しみとして、通常のプリメインアンプ接続でCDやBDを聴いた。素晴らしくS/Nのよい空間表現と、伸びやかでマッシブな低域端の質量感。これらが疑いもなくプリメインの領域を超えたキィポイントだ。レベルメーターが100W以上のレッドゾーンに突入しても、その清々しさや凄味は悠々保たれる。いくぶん細身なところもあるけれど、AVソースのセリフに艶っぽい肉質感が乗るのは望外の魅力。下手なセンタースピーカーだったら、ないほうが(?)