日本国内では限定200セットの30周年記念モデル
オーストリアのスピーカーメーカー、ウィーンアコースティクスの創業は1989年。その30周年記念モデルとして登場したのが、Haydon JUBILEE(ハイドン・ジュビリー)である。140㎜の樹脂系ウーファーと25㎜シルクドーム・トゥイーターを組み合わせた2ウェイ・バスレフ型のコンパクト・スピーカーで、邦貨ペア18万円、我が国では200セットの限定発売となる。
ウィーンアコースティクスの製品は、リスト、ベートーヴェン、モーツァルトなどクラシックの名作曲家の名前を記したものが多い。ウィーン・フィルとその本拠・楽友協会を有する音楽の都で生れたスピーカーであることを誇示する型番と言えるが、ハイドンの名を冠したスピーカーは、すでに2013年にハイドン・グランドシンフォニー・エディション(ペア28万円)が登場している。輸入元の説明によれば、ハイドンは小編成楽曲に優れた作品が多く、それを聴くにふさわしい小型2ウェイ機だからこそ、この名前が付けられたそうだ。言われてみれば、同社製スピーカーはモーツァルト、ベートーヴェン、マーラー(製造中止)と編成の大きなオーケストラ向きの作品が多い作曲家名に合わせてスピーカーも大型化していることに気づく。
では、グランドシンフォニー・エディションと比較しながらハイドン・ジュビリーの詳細に迫ってみよう。まず驚かされるのは、10万円も安くなっていること。「30周年記念モデルということで利益無視の〈製造原価での販売価格〉ですから」という輸入元の言い分は話半分としても、利幅を大幅に削った価格設定であることは間違いないだろう。140㎜ウーファーの振動板素材は、3種類の軽量ポリプロピレンを合成した×3Pコーンで、25㎜トゥイーターのそれはシルクドーム。ともに同社総帥ピーター・ガンシュテラーが設計し、ノルウェーのシアーズに製造を依頼したものだ。グランドシンフォニー・エディションのウーファー口径は150㎜とやや大きく、強度向上のためのリブが充てられたスパイダーコーン。トゥイーターも3層構造のシルクドームで、ウーファーともども今回のジュビリーで採用されたドライバーよりも剛性強化による特性向上が図られており、この両ドライバーにかけられたコストの違いは大きいと思われる。
グランドシンフォニー・エディション、ジュビリーともにバスレフ型だが、前者はフロントポートで後者はリアポート。寸法はグランドシンフォニー・エディションのほうがわずかに大きい。キャビネットはともに積層合板で、ジュビリーはピアノブラック仕上げのみとなる。クロスオーバーネットワークには厳選されたコンデンサーと高精度な金属皮膜抵抗が使われている。
鳴らして驚いた、豊かな量感
打楽器もていねいに描写
音は驚くほどすばらしかった。HiVi視聴室リファレンスの鋳鉄製スタンドに載せてデノンPMA-SX1リミテッドで鳴らしてみたが、バスレフ・チューニングが巧みなのだろう、やや軟調ながら140㎜ウーファーとは思えない量感豊かな低域に支えられ、屈託のない躍動感に満ちたサウンドを聴かせる。
スウェーデンのザ・リアル・グループのコーラスなど、声にキツさをいっさい感じさせないナチュラルな響きで、複雑に綾なす合唱を見事に解きほぐして聴かせる。バッフル幅をウーファー口径ぎりぎりまで狭めているメリットか、音場の広がりもじつにスムースだ。パルシヴなリズム楽器が入ってくると、樹脂系ウーファーの宿命か、エッジが少し鈍る印象だが、それもまた聴き心地のよさにつながっていると言えるかもしれない。
とりわけ見事な音を聴かせたのが、新進気鋭のサキソフォンプレーヤー上野耕平が最新アルバム『アドルフに告ぐⅡ』で和太鼓の林英哲と共演した「ブエノウエノ」。音量を上げていっても林が裂帛の気合を込めて叩くスケールの大きな大太鼓の音がボトミングによって破綻することはなく、上野のソプラノサックスの音像はシャープに絞られる。そのスリリングなインタープレイを前に、これがペア18万円の音と信じるのは難しい。
また声の質感のよさも本機の大きな魅力。UHDブルーレイの映画『グリーンブック』やBD『コールド・ウォー/あの歌、2つの心』では感情の襞の表現に優れた真に迫るダイアローグが聴け、おおいに感心させられた。HiVi3月号、94ページ掲載の「高画質テレビを活かすステレオAVシステム」企画でいずれ使ってみたいスピーカーだと思った。