また今年も『クリスマスの約束』の季節がやってきた。音楽好きの間ではもうすっかりお馴染みになっている小田和正さんの音楽番組だ。似たようなプログラムは数々あれどクォリティの高さは他の追随を許さない。十代の頃からオフコースのレコードに慣れ親しんできたボクにとっても一年に一度の大きな楽しみになっている。
その放送に先駆けてオフコース初のSACDとなる『オフコースBEST ever』がリリースになった。グループ結成45周年を記念してファンが選んだ楽曲から構成された2015年のベストアルバムだ。
オフコースBEST『ever』(Single Layer SACD) ¥4,500(税別)
今回のディスク化にあたっては収録された全20曲がオリジナル・マスターテープを使用してのDSD化。しかもシングルレイヤー仕様のSACDである。これまででもっともオリジナルのマスターテープに近いコンディションでオフコースの楽曲を楽しむことが出来るファン垂涎のディスクになっているのが嬉しい。
『ever』は極私的フェイバリットソングである「ワインの匂い」や「潮の香り」が惜しくも選曲から漏れていたために今回のSACDで初めて聴くことになるが、いまだ人気の高い名曲ばかりが並ぶオフコースの足跡を知る恰好のアルバムである。
オープナーの「水曜日の午後」(1973年)は我が家の秋から冬の定盤『SELECTION 1973-78』にも収録されている。イントロのピアノのメロディ。力強く透明感のあるトーンに鳥肌が立った。
ウチのレコード再生システムは“追憶の再生装置”的なキャラクターでこれといってハイファイを追及しているわけではないのだが、いきなりシステムのグレードがアップしたかのようだ。混然一体となったバンドサウンドがていねいに解きほぐされつつ、しかし音色はレコードの音色のイメージをまったく損なっていない。
「眠れぬ夜」(1975年)や「秋の気配」(1977年)。楽器の音のクリアーさに驚く。しなやかでいて力強さもある。なにより小田さんの声が若い! 『SELECTION 1978-81』で聴くことも多い「愛を止めないで」「さよなら」(1979年)ではロックっぽい野太いギターサウンドがいい。
レコーディングが新しい楽曲になるに従って旧アナログマスターからの高音質化の違いもより分かり易いと感じた。しかし、一枚のアルバムとして通して聴くにあたってサウンドの統一感がキープされているのはマスタリング・エンジニアである武沢茂氏の手腕に寄るところが大きいのだろう。
先日、初めて4K放送されたばかりの『小田和正音楽特番 風のようにうたが流れていた』でも取り上げられていた“クリ約”ファンには耳タコの名曲「YES-YES-YES」(1982年)。スタジオレコーディング版を聴くのは初めてだったがサウンドプロダクションにあらためて聴き惚れた。ヴォーカルが伸び切っていく心地よさ。多重録音によるコーラスワークの美しさと一体感も際立っている。もう一度ライブ版も聴きなおしてみよう、そんな気分にもさせてくれる。
愛聴盤である当時のレコードに比べてさほど音の違いが感じられないならヤだな、などと密かに心配していたのだけれど、ウチのようなシステムであってもシングルレイヤー仕様のSACDの恩恵は充分にある。レコードやアナログプレーヤーがなくても手軽に1970年代や80年代のレコードサウンドを味わうことが出来ると考えればOKだ。
しかもこのディスクはよりスタジオのマスターテープに近いコンディションにリマスタリングされている極上のクォリティ。今年の『クリスマスの約束』の余韻に浸りながら楽しむのも一興だろう。オフコースはもちろんのこと、小田和正ファンにも文句なしにお薦めしたい一枚だ。
『クリスマスの約束2019』
●チャンネル:地デジTBS
●放送日時:12月25日 (水) 深夜24時10分〜(26日早朝)
●放送予定楽曲:きよしこの夜、この日のこと、心の旅 ほか
●出演:小田和正
●ゲスト:KAN、熊木杏里、清水翔太、JUJU、スキマスイッチ、根本 要、松崎ナオ、水野良樹、矢井田瞳、和田 唱(50音順)
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