映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第34回をお送りします。今回取り上げるのは、実録スポ根映画『ファイティング・ファミリー』。どん底な境遇から一躍、花型女子レスラーになるまでのペイジの半生を、アットホームに描く注目作。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
【PICK UP MOVIE】
『ファイティング・ファミリー』
11月29日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
かつてはブル中野らが参戦。いまも中邑真輔、そして女子レスラーのアスカ、紫雷(しらい)イオ、カイリ・セインが熾烈な競争のなかで夢を追う世界最大のプロレス・エンターテインメント団体WWE。そのトップ女子レスラーとして活躍したペイジ(サラヤ・ジェイド・ベヴィス)の半生を追った実話スポ根ドラマ。プロレス・ファンでなくても楽しめる。いいよ、コレ!
きっかけは英国放送協会(BBC)が2012年に製作したドキュメンタリー番組だった。イギリスの田舎町。13歳で家族経営の極小団体でプロレス・デビューし、ドサ回りをつづけながらWWEのトライアウトに挑んだサラヤと家族の奮闘を描いた同番組を見た『ワイルド・スピード』シリーズのドウェイン・ジョンソンがプロデュースを買って出て映画化がスタートする。
祖父も父もプロレスラー(おじいちゃんのピーター・メイビアは日本ロケの愛すべき珍品『007は二度死ぬ』で暴れる用心棒を演じた)で、プロレス一家に育った“ロック様”ことドウェインは、自分と似た境遇のペイジの物語に共感を覚えたのだ。
劇中では本人役で助演。イギリスの超インディー団体から下部組織を経て、WWEのスポットライトのなかへ。壁にぶつかるペイジに、観客をどのように巻き込みアピールするのかのアドバイスを与えたりしている。がたいのいい天使のような雰囲気。眉毛の動きひとつで客を手のひらに乗せたWWEの元トップレスラー、ドウェインならではのユーモアと指南だ。
黒髪がトレードマークのペイジを演じるのは、来年5月公開のマーベル・シネマ最新作『ブラック・ウイドウ』でスカーレット・ヨハンソンの妹分に抜擢された新人フローレンス・ピュー。『ショーン・オブ・ザ・デッド』のニック・フロストが頭を剃り上げて父親役を演じており(最初誰だか分からなかったよ!)、イギリスの曇り空の下、ドサ回り一家と地域の人々の夢と悲哀を謳い上げる。
彼らが開くプロレス教室は、ガリガリの盲目の少年やクスリに逃げる青年にも門戸を開いている。信仰ではなくプロレスに救われた人々。負け犬ばかりのその道が遠く海をわたってWWEの大会場につながっているのだ。
遠景で触れられるだけだけど、父親は元強盗、母親は元ホームレスというドン底ファミリー。そこから手作り団体で再起を目指したホームドラマ、イギリスの怒れる社会派ケン・ローチ監督作品のヒネリ技ともいえる。
演出、脚本はヒュー・ジャックマンの『LOGAN/ローガン』で色白の巨人ミュータントを演じていたスティーヴン・マーチャント。これが劇場長篇映画第1作に当たる。うん、大推薦!
『ファイティング・ファミリー』
11月29日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
監督・脚本:スティーヴン・マーチャント
原題:FIGHTING WITH MY FAMILY
配給:パルコ ユニバーサル映画
2019年/アメリカ映画/1時間48分/シネマスコープ
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