“If you build it, he will come.”
このフレーズに“おぉ”と反応した人は、かなりの映画ファンか、月刊HiViを熱心に読んでくれていた方に違いない。
1989年(日本では1990年)に公開された『フィールド・オブ・ドリームス』は、アイオワ州で農業を営むレイ・キンセラ(ケビン・コスナー)が、ある日 “If you build it, he will come.” という謎の声を聞くところから始まる。以来レイは、その声に導かれるままにトウモロコシ畑を潰して野球場を作り、さらに様々な出会いを経て奇跡を起こす……という、大人のファンタジーだ。
本作公開直後の1990年代は、ホームシアターのメインソースはLD(レーザーディスク)で、HiVi誌面でもテレビやビデオの視聴リファレンスとしてLDが使われていた。中でも『フィールド・オブ・ドリームス』のアメリカ盤は、その画質が高く評価され、多くのテストで活躍していた。なので、当時HiViを読んでくれていた方なら、この作品のことをきっと覚えてくれているだとう、と思った次第。
そんな作品がUHDブルーレイで登場したのだから、気にならないはずがない。というわけで、110インチスクリーン&7.1.4環境で体験してみた。ちみにディスクの仕様は、映像が4K/HDRで音声はDTS:X 7.1ch。「ULTRA HD PUREMIUM」のロゴマークも付いている。
まず冒頭、レイが畑で件の声を聞くシーン。トウモロコシの葉が風に吹かれてざわめく中で、どこからともなく声が響いてくる。LDは謎の声がもっとぼんやりしていた気がするが、DTS:Xでは高さを伴なって、頭上から振ってくるような印象になる。小さな囁き声なのだが、きちんと聞き取れるという、その具合も絶妙だ。
本作はバトルシーンなど皆無で、重低音がド派手に響くようなこともない。しかし屋外の野球場を吹き抜ける風音や室内の何気ない会話シーンでの、環境音・暗騒音の再現がていねいだ。ちょっと聴くと地味に思えるかもしれないが、こういった自然な包囲感がどこまで再現できるかも、ホームシアターでは大切なのだ。
また、中盤からレイと行動を共にする作家のテレンス・マンをジェームズ・アール・ジューンズが演じているが、個人出来にはその声(ベイダー卿!)がしっかり厚みを持って再現出来ていたことが嬉しかった。
映像では、フィルム撮影のテイストを尊重した4K化がなされている。具体的にはフィルムグレイン(粒状性)を適度に残した絵づくりで、ノイズリダクションを強く効かせてはいない。そのため、最近のCGを多用した作品を見慣れた人には、画面がざわざわしているように感じられるかもしれない。
しかしこの作品については、今回のUHDブルーレイが正解だと思う。作品的にも、先述したように“大人のファンタジー”で、リアリティを追求したものではない。これは個人的な見解だが、グレイン感があることで観る側もいっそう映画の世界に浸れ、より深く、大きな感動を得ることができるのだと思う。
もちろんグレインが大きすぎてざらざらが目に付くようでは、そもそも4Kで観る意味がない。だが『フィールド・オブ・ドリームス』のUHDブルーレイでは、そこもいい案配に仕上がっていて、フィルムで育った身には逆に心地よかった。
参考までに、なぜか手元に残っていたアメリカ盤HD-DVDも再生してみた(プレーヤーは東芝HD-XA2)。このディスクは2006年発売なので、映像圧縮はVC-1と思われる(パッケージに表記がない)。スペック的にはハイビジョン(1080p)なのだが、粒子が粗く、冒頭のトウモロコシ畑もじらじらして落ち着きがない。13年前はこれで感動していたのになぁと、隔世の感を禁じ得なかった。
ちなみに今回UHDブルーレイを見返して、改めてレイの奥さんのアニー(エイミー・マディガン)と娘のカリン(ギャビー・ホフマン)に心奪われた次第。最近の作品だったらレイに愛想を尽かして……という展開になりそうなものだが、本作ではふたりとも心からレイを信じていて、その様が愛おしい。このふたりを綺麗に観るだけでも、UHDブルーレイを手にいれる価値があるだろう。(取材・文:泉 哲也)
特殊メイクの素材感までしっかりわかる。
UHDブルーレイ『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』の描写力も必見
この9月にリブート版が公開された『ヘルボーイ』の原点のひとつといえる『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』(日本公開は2009年)もUHDブルーレイで登場した。
第二次大戦末期、形勢逆転のためにドイツ軍が実行した「ラグナロク計画」により魔界から悪魔の赤ん坊が迷い込んでくる。ヘルボーイと名付けられたこの赤ん坊は、成長して超常現象調査防衛局(BRPD)のエージェントとして超自然的な存在と戦っていた。
『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』はシリーズ第二弾で、人間とエルフの戦いと、無敵の軍隊(ゴールデン・アーミー)の復活を阻止するまでの顛末が描かれている。
ギレルモ・デル・トロ監督作品らしく、ヘルボーイはもちろん、『シェイプ・オブ・ウォーター』の半魚人のオリジナルともいえるエイブ、『パンズ・ラビリンス』のパンを彷彿させる死の天使など、異形の存在への愛がひしひしと感じられる。
今回のUHDブルーレイの映像はS/Nがよく、発色も綺麗だ。フィルムグレインもわずかに残っているが、基本的にはクリアーで精密な絵づくりといえる。その一方で、ヘルボーイやエイブの皮膚が綺麗すぎて、人工的な素材感に思えてしまったのも事実。
本作も2008年当時の特殊メイクアップやSFXとしては最先端の技術が使われていたはずだが、4K/HDRで確認するとそこが子細に描き出され、違和感を覚えたのかもしれない。それくらいUHDブルーレイの再現力が高いことが確認できたともいえるだろう。