映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第29回をお送りします。今回取り上げるのは、新鋭ミカエル・アース監督の長編第2作目となる『サマーフィーリング』。三つの都市を巡りながら、静かに自分を取り戻していく物語。劇伴の選び方にも才能が光る注目の1作。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
【PICK UP MOVIE】
『サマーフィーリング』
7月6日(土)より、シアターイメージフォーラムほか全国順次ロードショー
無差別テロ事件で姉を失い、姪っ子である遺児を引き取ることになったモラトリアム気味の僕――。公開中の新作『アマンダと僕』が好評のフランスの新鋭ミカエル・アース監督が、その前に撮った長編映画第2作。
素朴な作りだけれど、こちらもいい。『アマンダ~』よりいいかもしれない。1975年生まれの監督。気づいたときにはいろいろなものが失われていたというような、今回も透明感のある小さな絶望を感じる。
登場人物は、ある日突然恋人を失ってしまった青年ロレンス(ノルウェー出身の新人アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と、他界した彼女の周囲の人々だ。世界はなにも変わっていないのに、彼女だけがいない。ベルリン、パリ、ニューヨーク。喪失と再生(かもしれぬもの)を描く三都物語。季節はゆっくりと巡ってゆく。
首回りがヨレヨレになったキンクスのTシャツを着た女性が出てきたりして、音楽の使い方がたいへんに面白い。『アマンダと僕』でも、エンディング曲をパルプのジャーヴィス・コッカーに頼んでいたアース監督の思い、趣味だろう。
挿入歌はラーズやピクシーズ、アンダートーンズなど。細野晴臣の「Honey Moon」を日本語カバーした変人シンガーソングライター、マック・デマルコのライヴ演奏シーンもあり、エヴリシング・バット・ガールのベン・ワット、83年の名曲中の名曲「ノース・マリン・ドライヴ」が流れてきたときは、椅子の上でジ~ン状態になった。
これらの音楽のように、結論を示す作品ではない。背中を押してくれる映画でもない。ゆっくりと色合いが変わってゆくグラデーションのような作品。それが長くこころに残りそうだ。お勧めしたい。
『サマーフィーリング』
7月6日(土)より、シアターイメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:ミカエル・アース
原題:CE SENTIMENT DE L'ETE
配給:ブロードウェイ
フランス、ドイツ合作/1時間46分/シネマスコープ
(C)Nord-Ouest Films - Arte France Cin?ma - Katuh Studio - Rh?ne-Alpes Cin?ma