現地時間の5月9日から12日まで、ミュンヘンでハイエンドオーディオショー「High End Munich 2019」が開催された。前回に続いて、その会場で麻倉怜士さんが気になった製品をしっかりご紹介します!(編集部)
エラック「BS 312 JUBILEE」「CARINA」
次はエラックです。同社新製品の「BS 312 JUBILEE」は正式な発表前とのことで、ディーラールームにひっそり参考展示されていました。
そのサウンドは、BS310から始まるハイブリッドコーンと、JETトゥイーターとアルミ筐体という伝統を受け継ぎつつ、ひと皮むけた清々しい開放感があって、リニアリティのひじょうにいい音でした。近々日本でも発売されるようですので、期待してください。
その他で注目したいのは「CARINA」シリーズでした。このモデルについては今年のCESリポートでも紹介していますが、アンドリュー・ジョーンズ氏渾身の最新作になります。
エラックには自社の独自技術であるJETトゥイーターを使った、本丸とでも言うべき伝統的な物づくりがあります。これに対しもうひとつ、アメリカ市場向けの味付けを変えたアンドリュー・ジョーンズ設計の「Debut」などのシリーズがあります。
このふたつは今まで技術的な関連はなかったのですが、今回はアンドリュー氏が初めてJETトゥイーターを使ったのが画期的でした。その意味でもCARINAは注目です。製品の位置づけとしては、「VELA」シリーズの少し下の価格帯ということになるのでしょうか。JETトゥイーターもドイツ国外の工場で作ったパーツと言いますから、その点でも差別化されています。
CARINAの音も素晴らしかった。アンドリュー氏がデザインした製品は音楽の集中感と開放感がうまくバランスしていて、しかもスピードが速いのが特徴です。これまでのシリーズは価格面で若干妥協している印象がありましたが、CARINAではJETの持っている高域の情報量、立ち上がりの鋭さを核にして、スピードの速い敏捷な音を聴かせてくれます。
またアンドリュー氏はアンプ内蔵の「NAVIS」シリーズも開発しています。彼は、スピーカーは専用アンプで鳴らすのが最高だと考えているそうです。これはしごくまっとうな意見ですが、市場ではアンプとスピーカーをどう組み合わせるかもファンの楽しみなので、すべてをアクティブ型にするわけにもいかないでしょう。しかしNAVISの音を聴くと、彼の言葉にも一理あることがよくわかりました。
ちなみに最近のエラックのスピーカーのシリーズ名について、面白い話を聞きました。もともとエラック本社のあるキール(Keel)という街は軍港で、Uボートの基地でした。した。そのキールという名前は船の「竜骨」という意味なのです。そしてラテン語ではこれを「Carina」と呼びます。つまり、新製品のCARINAはJETトゥイターのこともあり、本拠地から名前をもらっているわけです。
またアクティブ型の「NAVIS」はナビゲーションで、「VELA」はスペイン語で帆の意味だそうです。エラックでは、帆船に関連した名称でシリーズ名をまとめていこうとしているのでしょう。
レイラボックス「KARL」「KARLOTTA」
ハンブルグのレイラボックスというブランドのアクティブスピーカーも実に面白かったです。一見すると横にスリットの入ったボックス型なのですが、実はひとつひとつのボックスが独立していて、それを上下に組み合わせて仮想同軸配置のスピーカーとして構成されています。
このシリーズも明瞭で、クリアー、輪郭感があり、クリーンな音場を聴かせてくれます。同社は徹底的にアクティブ駆動にこだわっていて、DSP(デジタル回路)を内蔵して音場補正にも対応しています。音の質から音場再現まで自社で面倒をみるというポリシーが貫かれており、堂々とした音像感と、繊細な音場感が両立したサウンドだと感心しました。
ジェネレック「THE ONE」
ジェネレックはこれまで日本では業務用モニターとしての展開が中心でしたが、この秋から本格的に家庭用としてもアピールしていくようです。
ジェネレックはフィンランドのブランドで、もともとスタジオモニターの泰斗として知られていますが、「High End Munich 2019」のブースでのライブ演奏がたいへんな人気でした。というのも、同社のモニタースピーカーをPA用に使ったらとても音がいいということが評判になり、音を聴いてみたいという人が多く来場したのです。
今回は「G」シリーズと「THE ONE」シリーズのふたつが展示されていました。Gシリーズは2ウェイシステム、THE ONEは一見フルレンジだけど、本体にふたつのウーファーを内蔵した仮想同軸システムです。しかも正面のユニットが同軸型なので、3ウェイ3スピーカーという構造になります。
さらにTHE ONEはDSPも内蔵していて、音場補正もできます。その効果もあって、会場でも全帯域でバランスのいい、生成りのハイクォリティな音が聴けたという印象がありました。
現地の担当者は、今後は5.1chやドルビーアトモスのホームシアターでも使ってもらいたいと話していましたから、面白い展開があるかもしれません。点音源システムならではの明確な音場感とバランスのよさ、モニターからくる味付けのなさが特徴的です。
カクテルオーディオ「HA500H」
カクテルオーディオの「HA500H」は、ヒットの予感を感じさせてくれる製品でした。基本的にはヘッドホンアンプですが、入力切り替えやボリュウム機能も付いており、プリアンプとしても使えます。
DACチップにはESSテクノロジーのES9018K2Mを使っていて、増幅回路で真空管式とトランジスター式を切り替えられる点がユニークでした。ハイレゾ信号はリニアPCM系、DSD、MQA、MQA-CDとほぼすべてに対応し、BluetoothもAACやaptXのコーデックが使えます。
製品としては、同社のマルチメディアプレーヤー「X45」のDAC部分を独立させた形ですが、そこから推測しても、かなりいい音で、かつスペック面でも充実した製品になることでしょう。
オクターブ「JUBILEE 300B」
もうひとつはオクターブの「JUBILEE 300B」です。これはオクターブの最上級パワーアンプで、300B真空管を使っていることが特徴です。しかも300B用に7Hzの別電源を準備して、3つそれぞれにパワーサプライしています。
オクターブのブースでフォーカルの「UTOPIA」シリーズと組み合わせていましたが、たいへん朗々と鳴らしていました。300Bの音は綺麗だけど繊細といった印象があったのですが、その繊細さ、艶っぽさを持ちながらパワー感がついてきた。昔からの伝統芸を受け継ぎながら、それを最新技術で使いこなしているという印象を受けました。
Odeon Audio「NO.28/SE」
オデオンオーディオは、デュッセルドルフのスピーカーメーカー。ホーンスピーカーが素晴らしく、リアルな音を奏でていました。そのひとつ「NO.28/SE」もよかった。
中〜高域をホーンで鳴らしています。「High End Munich 2019」の会場ではホーン型スピーカーも多くみかけましたが、ホーンは音をまとめるのがたいへんで、うまく帯域バランスを確保している製品は少なかった。しかしそんな中で、オデオンオーディオのサウンドはとてもよかった
ひと言で表すと、異次元の音です。通常のスピーカーでは、音質としての完成度は感じますが、そこに人が立っているような再現力を備えたモデルは少ない。しかしNO.28/SEなどのオデオンオーディオのホーンスピーカーは、まさに目の前に人が立っている、実物像があって、それが歌い始めるといった聴こえ方をします。
会場では、ディーン・マーティンの「誰かが誰かを愛してる」のアナログ盤を聴かせてもらいましたが、まさにそこにディーン・マーティンが居て、ささやいているような生々しい音が楽しめました。趣味性を追求したスピーカーとしての存在価値を感じました。
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今回は2回に渡って「High End Munich 2019」をリポートしてきましたが、スピーカー部門に限っても多くの収穫が得られました。日本に入っているのは、そのごく一部であり、世界のオーディオには無限の可能性があると刮目しました。