液晶を含む東芝高級テレビの今季最大のトピックは、新4K8K衛星放送に対応したBS/CS 4Kチューナーの内蔵だ。12月1日の放送開始までに該当モデルを購入した方には「BS/CS 4K視聴チップ」を別途発送するとのこと(各自で申し込みが必要)。他社に先駆けて高画質4Kチューナーを内蔵するところに、全録の提案など「こんにちのテレビの在るべき姿」を積極的に模索してきた東芝らしい先進性を感じるのは筆者だけではないだろう。
では、最新有機EL大画面テレビX920にフォーカスして話を進めよう。ここでは65X920の画質をじっくりチェックできたので、そのインプレッションをお届けしたい。ぼくは昨年発売された65X910を自室で使っているので、その違いについても言及したいと思う。
4K放送用チップも順調に準備が進む
今年の東芝テレビ新製品は、12月1日に始まるBS/CS 4K放送用チューナーを内蔵している。ただし、視聴には著作権保護技術のACASに対応したチップが必要だ。しかしACASチップは供給数が限られており、現時点ではテレビセットに内蔵できていない。そこで東芝では同社製対応テレビの購入者に写真のような「BS/CS 4K視聴チップ」を後日提供する(申し込みが必要)。これを本体背面の専用端子に取り付けると、4K放送が楽しめるようになるのだ。(編集部)
調整から情報表示まで、AVファンが喜ぶ機能が進化
X920にはLGディスプレイから供給される2018年型最新有機ELパネルが採用されている。明るさはX910の800nit(カンデラ/平方メートル)に対して1000nit。約25%明るくなった計算だ。X910パネルに対して緑の再現範囲が広がっており、DCI(デジタルシネマ規格)色域比99%をカバーするという(X910は98%)。
ご存じの通りLGディスプレイ製有機ELパネルは白色発光で、RGBW(ホワイト)のカラーフィルターを組み合わせてフルカラーを得ているが、従来他のサブピクセルよりも磨耗が大きかった赤サブピクセル(赤フィルター部分)をケアするため、この最新パネルでは赤フィルター部分の面積を拡大、そのエリアの電力密度を下げることで焼き付きを抑制し、パネル寿命を伸ばしたという。X920の発売が他社よりも遅れたのは、このパネルに最適化した画質チューニングに時間をかけたからだそうだ。
注目はあらゆるプログラムソースを高画質描写する信号処理回路の進化だろう。
東芝レグザは以前からこの画質エンジンの性能に自信を持っており、常に他社のエンジニアや高画質マニアの注目を集めてきたが、X920に搭載された「レグザエンジンEvolution PRO」の内容もとても興味深い。とくに放送系コンテンツの高画質アプローチに見るべきものが多い。
地デジやBSのHD放送はMPEG2方式によって画像圧縮されるが、X920ではその圧縮時に構成される3種類のフレーム構造(I/B/Pピクチャー)の登場周期に注目、同フレーム間どうしで複数(3フレーム)超解像処理を行なうことでその精度向上を果たし、解像感向上とノイズ抑制を実現したという。とくに水平解像度が1440本の地デジや民放系BS放送では、1440→1920変換(水平3分の4倍伸張)時に従来の単純な線型補間から再構成型超解像処理に置き替えることで、いっそうの高画質化を図ったとしている。
HDR関連で興味深いのは、トーンマッピング手法の進化。現在発売されているUHDブルーレイ等のHDRコンテンツは最大輝度1000nitと4000nitの作品に大きく二分される。
X920は1000nitの明るさを持っているので、前者の場合は何をせずともその作品のPQカーブを忠実に再現できるが、後者(4000nit)の場合はやっかい。最大輝度を1000nitに置き替えると映像全体が暗くなってしまうし、そのまま表示すると1000nit以上の明るさの情報が欠落、白トビが起きてしまう。
そこで本機の「HDRリアライザーPRO」では、HDR入力信号の500nitを境にそれ以下とそれ以上に分けて別個にゲイン制御することで、映像全体が暗くならず、ハイライト側の階調情報をぎりぎりまで粘って表示できるように工夫したという。つまり500nit以下はそのままのトーンカーブで表示し、500nit以上は入出力特性をマッピングして最適な階調表示を実現するという仕組みだ。
また、興味深いのが情報表示の新提案で、刻一刻と移り変わる入力信号のピーク輝度と平均輝度の推移を「映像分析情報」としてグラフ化した。いやはや、よくまあこんなマニアックな機能を盛り込んだもの。このグラフを見ることによってHDRコンテンツの分析・研究が進むことは間違いなく、AVファンを代表して「東芝さんありがとう」と言っておきたい。
HDRを快適に楽しむための、有効な調整項目も追加された
放送、パッケージとも出色!高画質競争の最前線に躍り出た
まず100ルクス相当の電球色照明下で、地デジのニュース番組を「おまかせ」モードでチェックする。X910比で輝度25%アップというスペックがうなずける、明るくてキレのよい画調。他社の最新有機ELテレビを傍らに置いて見比べてみたが、放送系画質はX920の圧勝だ。超解像処理の巧さが際立ち、登場人物の肌のディテイルが克明に描かれ、なおかつノイズの粒子がとても細かい。店頭モード「あざやか」は目が痛くなるくらいの明るさだが、それでも「おまかせ」モードの高精細&高S/N映像の持味は生きており、販売店を訪れた方たちを驚かせているのは間違いないだろう。
本機の音声系は前作X910をそのまま引き継いだもので、小さなキャビネットに収められた2ウェイ・スピーカーが画面下部に下向きでビルトインされている。しかし、その音は声の明瞭度が高く、予想以上の健闘ぶり。音がいかにも画面下から出ているという違和感も少ない。独自開発の音響パワーイコライザーによって音像を上方にリフトアップする工夫が施されているようだ。もっとも本機の画質のよさにバランスさせるには、やはりテレビ両サイドに良質なステレオスピーカーを置くべきだとは思う。
部屋を全暗にし、映像モードを「映画プロ」に変更、見慣れたUHDブルーレイとブルーレイでそのパフォーマンスをじっくり精査した。UHDブルーレイを観ての第一印象は、やはり「明るい」ということ。「映画プロ」モードでもX910以上に白ピークが伸び、じつに明快でフレッシュな画質が実現されている。とくに『ハドソン川の奇跡』『マリアンヌ』などの夜景の中に浮かぶ照明の輝きのヴィヴィッドさは、思わず感嘆の声を上げたくなったほど。
本機でHDRコンテンツを観る際には、先述した「HDRリアライザーPRO」が効くように『HDRエンハンサー』を常時オート、またはオンにしておくことが肝要。こうしておけば最大輝度4000nitの作品でもハイライト側の階調が精妙に描写されるわけで、安心してHDRコンテンツを楽しむことができる。
壁や夕景など大面積部分でノイズが目立つUHDブルーレイ『ラ・ラ・ランド』は、良くも悪くもソースに忠実な描写。最新パナソニック機やソニー機に比べるとノイズは目立ちやすい。『グレイテスト・ショーマン』の発色のよさ、階調の安定感は出色で、ふだん見慣れているX910以上に清新で鮮やかな印象を受けた。
また、1080/24P入力で観たブルーレイ『浮草』がとても素晴らしかった。小津安二郎監督の1959年作品だが、当時のアグファカラーフィルムの発色をシミュレーションしたていねいなマスタリングが施された作品ならではの色合いの美しさが実感できた。
東芝レグザの最新有機ELが、各社がしのぎを削る高画質競争の最前線に躍り出たことは間違いないだろう。
レグザエンジンEvolution PROを活用した超解像で、放送画質もさらに向上させている
「高画質」「4K放送対応」「タイムシフトマシン」の3拍子が揃う
4K OLED DISPLAY TOSHIBA 65X920
オープン価格(実勢価格65万円前後)
● 画面サイズ:65型 ●解像度:水平3840×垂直2160画素
● 接続端子:HDMI入力4系統、デジタル音声出力1系統(光)、アナログAV入力1系統、
● 接続端子:USBタイプA 4系統、LAN1系統 他
● 内蔵チューナー:BS/CS 4Kチューナー×1、地上デジタル×9、
● 内蔵チューナー:BS/110度CSデジタル×3、スカパー! プレミアムサービス×1
● 消費電力:495W(待機時0.4W) ●寸法/質量:W1446×H846×D267mm/46.5kg(スタンド含む)
● ラインナップ:55X920(実勢価格45万円前後)
●問合せ先:東芝テレビご相談センター TEL 0120-97-9674
主な視聴システム
●UHDブルーレイプレーヤー/HDDレコーダー:パナソニックDMR-UBZ1
主な視聴ディスク
●UHDブルーレイ:
『マリアンヌ』『ハドソン川の奇跡』
『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』
『ゲット・アウト』『未知との遭遇』
『フィガロの結婚』
●BD-ROM:『浮草』
●エアチェック:『ミステリースペシャル 「満願」』
(NHK BSプレミアム)