この8月に日本上陸を果したストームオーディオ(フランス)のイマーシブオーディオ対応コントロールAVセンターISP 3D.16 ELITE。本誌でその存在を知り「ぜひ一度その音を聴いてみたい」と編集部に連絡してこられたのが、長年の愛読者である蝦名恭範さん。そのリクエストにお応えすべく酷暑の7月中旬、蝦名シアターに本機を携え訪問することに。さて、ISP 3D〜はいったいどんな音を響かせてくれるだろうか。●取材・文:山本浩司
蝦名恭範 (えびなやすのり)さん
音響制作会社 サウンドチーム・ドンファンのメンバーで、自身も音響監督/ミキサーとして活躍している。代表作は『ヨルムンガンド』『NARUTO ナルト』(TVシリーズ、劇場版シリーズ)他。2018年は『フューチャーカード 神バディファイト』『つくもがみ貸します』といった作品を手がけている。30年来のHiVi読者で、2017年5月号の「シン・ゴジラ」特集にもご登場いただいた。
蝦名さんは音響制作会社「サウンドチーム・ドンファン」のメンバーで、映画やアニメの世界でサウンドデザイナーとして活躍されているこの道のプロである。本誌2017年5月号の「シン・ゴジラ」特集にもご登場いただいている。そんな蝦名さんのシアタールームは、千葉県佐倉市の戸建て住宅の1階にあった。なんでもご自宅とは別にこの家を借り、2016年4月に仕事部屋を兼ねたプライベートシアターを構築したのだという。
小さな商店街の中にあるこの家はもともと飲食店だったそうで、両隣は理容室とカラオケ店。深夜でも音漏れをさほど心配する必要がないというのが、この家を借りた大きな理由のひとつだとか。人があまり住んでいないにぎやかな通りにあえて部屋を借り、シアタールームをつくるというのも大音量派ならではの逆転の発想。面白いと思う。
2階は書斎と蝦名さんの大好きな映画のフィギュアの展示室になっていた。『スター・ウォーズ』のミレニアム・ファルコンの大きな模型などが置かれ、そのコレクションは壮観のひと言。本宅とは別にこんな素敵な「趣味の家」を持てる蝦名さんは幸せ者だ。もっともサウンドデザイナーとして過酷な仕事を続けてきたからこその「ご褒美」なのだろうけれど……。
シアタールームの広さは約14帖。劇場でのドルビーアトモス体験に感激された蝦名さんは、当初からトップスピーカーを用いたオブジェクトオーディオの実践を決め、天井に4本のレールを渡して8本分のスピーカーケーブルを通線したという。現在使用しているのはヤマハのコントロールAVセンターCX-A5100で、7.1.4構成でドルビーアトモスやDTS:Xを楽しんでいる。
しかし、いま以上の緊密な音のつながりを得たいと考えた蝦名さんは、サイドスピーカーを加えることができ、トップスピーカーを6本使用できる16 ch出力のイマーシブオーディオ対応AVプリアンプを試してみたいとの気持が抑えられなくなったという。
トリノフ・オーディオのアルチチュード16/32がそれに該当することはわかったが、予算面で入手は難しい。そこに登場してきたのが、ストームオーディオのISP 3D.16 ELITE。これも高額な製品だが、なんとか購入資金を算段できそうだということで、今回の企画が生れたわけである。
お気に入りのムジークを核にした、9.1.6システムを構築
取材日当日は、ストームオーディオの輸入元スタッフが本機にPCをつないで、まず音場補正機能<DiracLive(ディラックライブ)>による測定を行なった。専用マイクロフォンを移動させながらリスニングポイント周辺9ヵ所で音場データ(すべてのスピーカーの部屋込みの周波数特性、インパルスレスポンス、位相特性など)を採取、それらを最適値に補正するわけだ。
ちなみにDiracLiveが定めた周波数特性のターゲットカーブは、完全フラットではなく2k㎐あたりからなだらかにロールオフする特性。たしかに全チャンネルをフラットに較正した音はハイ上がりに聞こえ、違和感を抱くことが多い。これは聴感とのすり合わせを重視し、入念に定められたカーブなのだろう。
さて、今回蝦名さんがセットアップしたスピーカーコンフィグレーションは、9.1.6の16 ch構成。つまり7.1chにワイドスピーカーを加えた9.1chのフロアチャンネルと3ペア6本のトップスピーカー構成で、蝦名さんはDiracLive設定時にフロントL/C/Rを『ラージ』、他チャンネルを『スモール』にし、80㎐以下をサブウーファーに振り分ける設定にした。フロアチャンネルのスピーカーはすべてムジークエレクトロニクガイザイン(ドイツ。以下ムジーク) のアクティブ(アンプ内蔵)型。トップ6本はパッシブ型で、プロ用パワーアンプで駆動する仕様だ。
蝦名さんがムジークのスピーカーに出会ったのは仕事で出向いた都内のスタジオ。一聴してその音のよさに驚愕し、2年前にこのシアターをこしらえるときサブウーファーを含めムジークのスピーカーを一気導入したそうだ。とくに人の声のクリアーさ、音の立ち上がりの俊敏さにシビれたという。そして興味深いのが、L/R用のRL940、センター用のRL904を音響透過型サウンドスクリーン(120インチ/シネスコサイズ)の後ろに高さを揃えてセッティングしていること。こうすることで映像と音像位置が合致し、スクリーン上の人物がほんとうにしゃべっている、歌っているという手応えが得られるわけだ。使用している幕面はオーエスのWS102。細かく編み上げた繊維の編み目から音を透過させるスクリーンである。
もうひとつ、蝦名シアターが一般のホームシアターと大きく異なるのは、ISP 3D〜の後段に16 ch入出力のデジタルミキサーをカマして各スピーカーに出力していることだろう。ドルビーアトモス/DTS:X再生時、各チャンネル(とくにトップチャンネル)にどんな音がどれほどのレベルで振り分けられているかを目視するためだそうだ(このデジタルミキサーはiPadのアプリで音量レベルの表示がリアルタイムで可能)。このミキサーを通すことで音が鈍ったり、S/Nが劣化する可能性はないではないが、サウンドデザイナーである蝦名さんにとって、最新ハリウッド映画の3D音響設計を学ぶためにもこのミキサーの使用は必須なのだろう。
※さて、ここからは視聴編として、蝦名さんのお気に入りブルーレイや、ストームオーディオで観てみたいと封を開けずに取っておいたUHDブルーレイをじっくり楽しんでもらった。その音質たるや、山本さんもびっくりの、素晴らしいものだったのだ。その詳細は10月23日公開予定の後編をお楽しみに! なんでも蝦名さんは我慢できずに、とうとう……。(編集部)
STORM AUDIO ISP 3D.16 ELITE ¥1,700,000+税
●対応フォーマット:ドルビーアトモス、DTS:X、オーロ3D、他
●接続端子:HDMI入力7系統(入力1〜4はHDMI1.4/HDCP2.2、入力5〜7はHDMI2.0/HDCP2.2対応)、HDMI出力2系統(出力1はHDMI1.4/HDCP2.2、出力2はHDMI2.0/HDCP2.2対応)、デジタル音声入力6系統(光×3、同軸×3)、アナログ音声入力3系統(XLR)、アナログ音声出力1系統(XLR)、アナログ16chプリアウト(XLR)、他
●備考:音声補正機能Dirac Live Room Calibration対応(Dirac Live Kitは別売¥160,000+税)
●寸法/質量:W490×H191×D479mm/13.1kg ※写真左
●問合せ先:(株)ナスペック70120-932-455