その音のよさでオーディオファイルの注目を集めている「ステレオサウンド・アナログレコード・コレクション」。そのラインナップに既報の通り『THE PEANUTS The First Decade 1959~1967』(ザ・ピーナッツ/ファースト・ディケイド 1959~1967)が加わった。

画像: ザ・ピーナッツの最新アナログレコードは、歌声が超リアル。音にこだわり、モノ用ヘッドでカッティングしたモノラル曲が格別

『THE PEANUTS The First Decade 1959~1967』
●型番:SSAR-027
●メディア:アナログレコード(33回転、180g重量盤)
●発売日:2018年5月20日
●価格:¥8,000(税別)

 昨日(編注:執筆の前日、5月16日)そのサンプル盤が我が家に届いたので、さっそく愛用レコードプレーヤー(リンKLIMAX LP12)に載せて聴き、改めてその音のよさに感激した。<改めて>というのは、ぼくはこのレコードのライナーノート(制作リポート)を仰せつかり、事前にテスト・プレスされた盤を聴いていたからである。

画像: ジャケット裏面。Side Aの1曲目と2曲目はモノ用ヘッドでカッティングしている

ジャケット裏面。Side Aの1曲目と2曲目はモノ用ヘッドでカッティングしている

米国スカーリー製レースでラッカー盤を制作

 本作の制作は、超こだわりの“オール・アナログ・プロセス”。マスタリングとカッティングを担当したのは、STUDIO Dede/Dede Airのエンジニアである松下真也さん。三十代前半とまだお若い松下さんだが、アナログ録音機材にたいする造詣が深く、今回のマスタリングとカッティングにも同スタジオが保有する歴史的価値の高いヴィンテージ・イクイップメントがふんだんに用いられている。

 作業は、まずナチュラルな音の質感にこだわって選ばれた全12曲の1/4インチテープ幅のオリジナル(または既存のプリント)マスターを、テレフンケン製テープレコーダーM15とM21(駆動アンプは松下さんがレストアしたヴィンテージ・アンペックス)を用いてハーフインチ幅テープにダビングして本アルバムのプリントマスターを作成、ヴィンテージのSONTEC製パラメトリックイコライザーやTUBE TECHの管球式コンプレッサーなどを用いて音調整を施し、ウェストレックス製カッターヘッドとスカーリー製カッティングレース(ともに米国製)を用いてラッカー盤が制作された。

 静かなアナログブームが続く我が国においてもカッティングスタジオが再び増え始めているが、そのほとんどはノイマン(ドイツ)製マシンを用いている。なぜスカーリー製かを松下さんに問うと「往年のアメリカン・サウンドが好きだからです。尊敬するルディ・ヴァン・ゲルダーやバーニー・グランドマンが使っていたマシンですからね」とのこと。音は太くしっかりしているが、空気感が豊かで音の毛羽立った感じがうまく表現できるのが、スカーリー&ウェストレックス・コンビの最大の美点だと松下さんは言う。

画像: STUDIO Dede/Dede Airのエンジニアである松下真也さんがマスタリングとカッティングを担当

STUDIO Dede/Dede Airのエンジニアである松下真也さんがマスタリングとカッティングを担当

画像: 人気の独ノイマン製ではなく、米スカーリー製カッティングレースを用いてラッカー盤を制作した

人気の独ノイマン製ではなく、米スカーリー製カッティングレースを用いてラッカー盤を制作した

画像: ウェストレックス製のモノラル用カッティングヘッド

ウェストレックス製のモノラル用カッティングヘッド

画像: ステレオ製カッティングヘッドもウェストレックス製だ

ステレオ製カッティングヘッドもウェストレックス製だ

声のリアリティこそ、本盤最大の聴きどころ

 既発売の『ザ・ピーナッツ/ベスト・アルバム』(キングレコード )と本盤を聴き比べてみたが、音が太く鮮明で、いま目の前でザ・ピーナッツの二人が歌っているというリアリティで断然上回るのが本盤。その違いは驚くほど大きく、この確かなリアリティこそが本盤の最大の聴きどころだろう。

 モノヘッドでカッティングされたSide A 冒頭2曲はとりわけ音が厚く、ユニゾンで歌われる二人の声とテナーサックスが力感豊かに眼前に張り出してくる。3曲目以降のステレオ収録曲は、多くの曲でホール録音の一発録りらしい豊かなプレゼンス感が得られ、サーッと広がるサウンドステージの広大さに驚かされる。

 ここでご注意いただきたいのは、この冒頭2曲の再生が終わると、針先は先へと進まずループ状態となること。一度トーンアームを持ち上げ、2ミリほど空けられたその先のステレオ収録曲との曲間スペースに針を落とし直す必要がある。

 確かに面倒ではあるが、モノヘッドならばラテラル(水平)振幅のみでカッティングできるので音質面での優位性は明らか。モノヘッドが稼働しているスタジオがほぼ存在しないと思われる現状を鑑みると、これはじつに興味深い試みであることは間違いない。

 ぼく自身、ザ・ピーナッツの音楽を手塩にかけた愛用アナログ・オーディオ・システムで聴くのは初めての経験。60年代の我が国にこんな味わいの濃いポピュラー・ミュージックが存在していたのかと、その音楽の豊穣さに軽いショックを受けた。

 大きな声で力いっぱい歌うザ・ピーナッツ二人の声がそっくりで、一人の歌い手がダビングを重ねたかのように自在にハモり、ユニゾンで迫ってくる面白さ。そのほとんどを宮川泰が手がけたアレンジも興味深く、そのエキゾチックなサウンドは、まさに老舗の洋食屋の味。ぜひ多くの方にその旨さをご賞味いただきたい。

画像: 聴き比べたのは、1971年頃にリリースされた『ザ・ピーナッツ/ベスト・アルバム』のジャケット

聴き比べたのは、1971年頃にリリースされた『ザ・ピーナッツ/ベスト・アルバム』のジャケット

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