マイケル・ジャクソンが『スリラー』を発表した頃、すなわち1982年暮れのオーディオ界の最大の話題は、CDの登場だった。時代の潮流は確実にアナログからデジタルに移り変わっていったし、デジタルの勃興がなければ、今日のポータブルオーディオの隆盛もなかったであろう。ヘッドホンでの音楽鑑賞スタイルも今とは違っていたかもしれない。
そんな近年のヘッドホン市場で独自のスタンスを放っているのが「水月雨/MOONDROP」だ。オーバーヘッド型からIEM(イン・イヤー・モニター)タイプまで豊富なラインナップを擁しているブランドで、今回試聴したのは、最新のフルオープン型トップエンド機SKYLANDだ。

Headphone
MOONDROP SKYLAND
¥117,000 税込
●型式:ダイナミック型ヘッドホン・開放型
●使用ユニット:φ100mmFDT(Full Drive Tech)型ドライバー
●出力音圧レベル:96dB/Vrms
●インピーダンス:60Ω±15%
最大の特徴は、10cm口径の平面駆動型ドライバーユニットにある。この大口径振動板を、独自の「FDT(Full Drive Tech)」によって従来の同形式ヘッドホンを大きく上回る駆動精度と、静電型ヘッドホンに匹敵する分割振動の少ない再生特性を実現しているという(有効駆動回路領域は、一般的なそれの56.3%を大きく凌ぐ95.5%)。その後ろ盾として、FEA有限要素解析によるN55ネオジウム磁石アレイを36個使用し、振動面の均一かつ効率的な磁界分布を達成した点も見逃せない。
一方でフルオープン設計の振動板を保護する機構にも、滑らかな金属ワイヤーを疎に編み上げることで優れた透過音響特性を確保した「エアリー・メタルメッシュ構造」を採用。高剛性フルアルミ合金CNCホロー構造とドライバー・ハウジング一体型構造とも相まって、軽量かつ快適な装着感を実現している。

FDT(フル・ドライブ・テク)と呼ぶ、500ミクロンという極薄ダイヤフラムを直径100mmもの大口径にて、フルオープン型のハウジングに組み込んだことが最大の特徴。小型のネオジムマグネットを36個も使用するというユニークな駆動回路も特色だ
『オフ・ザ・ウォール』の軽快でゴージャスなサウンドを正確に再現
試聴に際して、ラックスマンのフラッグシップヘッドホンアンプP-100 CENTENNIALを使用し、まずは『オフ・ザ・ウォール』を聴く。
「今夜はドント・ストップ」では、ハンドクラップやカッティングギターが織り成すリズムに、軽快さの中にもその再現の正確さを実感。腕達者のミュージシャンを当用したクインシー・ジョーンズの手腕がいかんなく発揮された本作ならではのゴージャスな雰囲気がいい。その中を自由に跳ね回るという風情のマイケルをSKYLANDで存分に堪能した。歌唱も実に伸び伸びとしている。
「ゲット・オン・ザ・フロア」のスラッピングベースの鋭いアタックとグルーヴィーなうねりも、SKYLANDは余すところなく小気味よいレスポンスで応えてくれた。
『スリラー』の複雑で強靭な音を迫真的なリアリティで描き切る
続いて『スリラー』を試聴。「スタート・サムシング」では、打ち込みビートのトランジェントの良さと強靭さが印象的。マイケルの声は若々しく、サビのコーラスのエフェクト感を含め、SKYLANDの分解能の高さが明瞭に伝わってきた。「スリラー」ではドアの軋み音、狼の遠吠え、風や雷鳴のリアリティが迫真的。シンセサイザー主導のベースラインも重厚で力強く、この音色を聴くと往時に一気にタイムスリップするようだ(当時私は大学に入学したばかり)。反復するビートに乗ったあの怪しい世界観にどっぷりと浸ることができた。
続く第3弾シングル「今夜はビート・イット」では、複雑で分厚いギターリフをSKYLANDが精巧に分解。エディ・ヴァン・ヘイレンのギターソロも実にキレ味鋭く緻密に再現した。SKYLANDは本楽曲特有のエッジーかつシャープでワイルドな雰囲気を極めて正確に表現してくれた印象である。
この当時、1981年発表の自身のアルバム『愛のコリーダ』の大ヒットによって、ソウルミュージックのみならず、ポスト・ディスコを含めた音楽シーンの頂点にあったクインシー。その背景には『オフ・ザ・ウォール』の成功によって自信を深めていたことは間違いなく、その勢いをもって『スリラー』をマイケルとともに作り上げ、マイケルをピークに押し上げることに成功したのだ。
そうしたクインシーとマイケルの蜜月を、SKYLANDは実に濃密かつダイナミックに再現してくれたことを実感した次第である。
リファレンス機器
●SACD/CDプレーヤー:デノンDCD-SX1 LIMITED
●ヘッドホンアンプ:ラックスマンP-100 CENTENNIAL

