生涯の大半を音楽制作とパフォーマンスに捧げたマイケル・ジャクソン。その音楽はいまだ生命力を失わず、音楽ファンの記憶にとどまり続けている。人を引き込む力が絶大なので、映画『Michael/マイケル』をきっかけに新たなファンも増えるはずだ。マイケルのキャリアは約40年におよぶので、1960年代から2000年代まで、それぞれの時代特有の音楽環境の影響を受け、時期によって曲調やサウンドが変化する。活動期間の長さを考えるとアルバム数は多くないのだが、それだけにどれも中身が濃く、後期には実験的と言える領域まで踏み込んだ例もある。

 そんなマイケルの音楽表現の変化と進化をどこまで引き出せるかは、再生システムのクォリティにかかっている。特にスピーカーの性能が厳しく問われるのは間違いないので、思い切り良くピエガのCoax Gen2シリーズでハイエンドのシステムを組み、究極のMJサウンドの再現を目指すことにした。

画像1: 「PIEGA Coax Gen2 Series」強烈!『BAD』、『デンジャラス』のマイケルの鮮烈なリズムを浴びる快感《究極のMJを聴く、観る》

Speaker System
Coax 811
¥6,160,000(ペア)税込

●型式:3ウェイ3スピーカー・パッシブラジエーター型
●使用ユニット:リボン型トゥイーター・ミッドレンジ/同軸、220mmコーン型ウーファー×2、220mmコーン型パッシブラジエーター×2
●出力音圧レベル:92dB/W/m
●クロスオーバー周波数:500Hz、3.5kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W290×H1,240×D420mm/63kg

 

Speaker System
Coax 611
¥3,520,000(ペア)税込

●型式:3ウェイ3スピーカー・パッシブラジエーター型
●使用ユニット:リボン型トゥイーター・ミッドレンジ/同軸、160mmコーン型ウーファー×2、160mmコーン型パッシブラジエーター×3
●出力音圧レベル:90dB/W/m
●クロスオーバー周波数:450Hz、3.5kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W210×H1,170×D310mm/45kg

 

Speaker System
Coax Center 211
¥1,155,000 (本)税込

●型式:3ウェイ3スピーカー・密閉型
●使用ユニット:リボン型トゥイーター・ミッドレンジ/同軸、160mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:90dB/W/m
●クロスオーバー周波数:450Hz、3.5kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W620×H210×D310mm/21kg

 

Subwoofer
PS101
¥610,500(本)税込

●型式:アンプ内蔵サブウーファー・バスレフ型
●使用ユニット:220mmコーン型ウーファー×2
●アンプ出力:300W(ピーク)
●接続端子:アナログ音声入力2系統(2chステレオ用RCA、LFE用RCA)、アナログハイレベル入力1系統(スピーカー端子)、アナログ音声出力1系統(2chステレオ用RCA)
●寸法/質量:W360×H420×D400mm/25kg

 

ピエガを象徴するCoax Gen2は激しい低音をどう鳴らすのか

 Coax Gen2シリーズは同軸リボンユニットとアルミ振動板ウーファーを組み合わせたピエガの上位製品群で、現在の同ブランドの到達点を象徴する存在だ。少し前まで奇数型番のスピーカーも併売されていたが、いまは偶数型番(Coax 811、同611、同411、同 Center 211)の新型4モデルに集約された。新旧モデルの違いは同軸リボンユニットの世代が異なることで、現行製品はいずれもメーカーがGen2(第2世代)と呼ぶ最新設計のドライバーユニットを積む。

 リボンユニットを保持するフレーム構造を強化してマグネットの配置を最適化したり、不要振動を減らしたりするためのダンプ材を追加するなど、大幅な改善を行なった結果、中高域の粒立ちや音色が劇的に向上。リボン型の長所である充実したエネルギーと自然な指向性に鮮鋭な表現力が加わり、落ち着きや柔らかさを基調にした従来のピエガのイメージを刷新する鮮度の高い音に生まれ変わっている。

 ウーファーもリボンユニットのレスポンスの良さに釣り合う俊敏な反応を実現していて、マイケルの音源でカギとなるベースとパーカッションを正確に再現する能力が期待できる。Coax 811とCoax 611はパッシブラジエーターを追加することで量感とダンピングの効いたタイトな音色の両立を狙う。

 スピードの速い低音再生で決定的な役割を担うのが、アルミニウム押し出し材を投入した強靭なエンクロージャーだ。オール金属製という構造自体の強度に加えて、内部からフレームを押しながら内側に引っ張る機構を追加して、共振を緻密かつ徹底的に排除している。この張力制御モジュールの導入が、同軸ユニットの世代交代と相乗効果を生み、新しいCoaxシリーズは一気に最先端の音を獲得することができたのだ。

 マイケルは最近のEDMのような大音圧で持続する低音はほぼ使わなかったが、『デンジャラス』以降はレンジが広く振幅が大きいシンセティックな低音を効果的に導入した。そのエネルギーを制御できず、エンクロージャーやバスレフポートで共振が起こると、ベースやキックドラムがブレたり、膨らむ懸念がある。ピエガの堅固なエンクロージャーとパッシブラジエーター方式が良い結果をもたらすことを期待したい。

画像2: 「PIEGA Coax Gen2 Series」強烈!『BAD』、『デンジャラス』のマイケルの鮮烈なリズムを浴びる快感《究極のMJを聴く、観る》

Coax 811に搭載されている大型同軸リボン型ユニット「C212+」。フレームの内側に設けられた溝に細長いネオジム磁石を組み込むことでユニット全体の剛性を高めている。高域振動板の前面にもネオジム磁石を配置することで、中域同様に、振動板のプッシュプル駆動を実現。圧倒的に低歪みかつ高い解像度の表現を実現した

 

画像3: 「PIEGA Coax Gen2 Series」強烈!『BAD』、『デンジャラス』のマイケルの鮮烈なリズムを浴びる快感《究極のMJを聴く、観る》

リボン型トゥイーターと並ぶピエガスピーカーの特徴は、アルミニウム押出し材をふんだんに使い、徹底的に筐体の剛性を高め、高解像度でキレ味鋭い低音を追求していることだ。写真はCoax 611の内部構造で、これでもかとばかりに筐体内部の補強が加えられている。ポイントは単に高剛性だけを追求した「メタル製キャビネット」の無味乾燥なタッチに陥らず、音楽を躍動的に描くこと。ブランド設立以来、こだわってきたノウハウが注ぎ込まれた結果である

 

 

『BAD』そして『デンジャラス』のエッジの効いた音に思わず息を呑む

 Coax Gen2シリーズのなかから今回は最上位モデルのCoax 811(L/R)、フロアー型のCoax 611(サラウンドL/R)、Coax Center 211を選び、サブウーファーPS101と組み合わせて5.1chシステムを構築した。PS101は、22cmウーファーをダブルで用いた製品。PS101はバスレフ方式だが、エンクロージャーは強固な構造のアルミニウム製で、共振の影響は少ないはずだ。

 ディスク再生はパナソニックのDMR-ZR1が担い、スピーカー群をデノンのAVセンターAVC-A1Hでドライブする。プロジェクターとスクリーンもHiVi視聴室のリファレンス機器を組み合わせた。

 CDと映像パッケージを全タイトル再体験する余裕はないので、今回の視聴はテーマを2つに絞った。CDは『BAD』と『デンジャラス』の2枚を選び、1980年代から1990年代へのサウンドの変化に注目しながらステレオ再生で聴く。前者はクインシー・ジョーンズがプロデュースした最後のアルバムで、後者ではテディ・ライリーがサウンド設計に重要な役割を演じた。もう1つのテーマは低音。ベースのリフに注目しながらCDとライヴ映像で低音のパフォーマンスを探る。

 アルバム『BAD』の音づくりは前作『スリラー』以上にリズムのキレが鋭く、楽器の使い方やアレンジも多様化している。シンクラヴィアの使いこなしが洗練されていることもあって、1980年代後半という時代を象徴する音ではあるものの、いま聴いてもまったく古びた印象を受けない。このアルバムを聴いた後だと『オフ・ザ・ウォール』も『スリラー』も時代が一気に遡ったような錯覚に陥るほどだ。ヴォーカルの柔らかい感触や厚みのあるコーラスなど、初期作品の魅力が色褪せることはないのだが、音に話を絞れば『BAD』以降の鮮度の高さは次元が違う。

 4年後の『デンジャラス』がさらに先を行く新しさを印象付けるのは、シンセサイザーだけでなくヴォーカルも極限まで短く切り詰め、リズムの比重を高めているためだ。音域をさらにワイドレンジ化し、スケールの大きな音響空間を得ていることも重要だ。ラップもたんに取り込むだけでなく、メロディと巧みに融合させるなど独自のアプローチが光る。

 Coax 811は、各アルバムの音の個性と曲ごとのキャラクターを見事に鳴らし分け、楽曲によって音のビジョンがガラリと変わる面白さも味わせてくれる。「BAD」のタイトル曲のパーカッシヴなリズムと分厚いオルガンの対比やヴォーカルとバックコーラスの立体感はその一例だ。「ダーティ・ダイアナ」のアグレッシブにリズムを刻むギターの存在感は一度聴いたら強く記憶に刻まれること必至。「マン・イン・ザ・ミラー」のエモーショナルで真摯なヴォーカルにも心を動かされる。

 『デンジャラス』冒頭の「ジャム」はパーカッションが刻むエッジの効いたリズムとヴォーカルが噛み合う精度の高さに息を呑む。マイケルの息遣いはいったいどうなっているのか。広帯域にわたって発音が速く、付帯音が乗らないリボンユニットの良さが、テンションを一気に高める。「ブラック・オア・ホワイト」で聴かせるマイケルの力強い歌唱はこのアルバムのハイライト。声のイメージはスーパーリアルで、カバーする音域の広さと低音域の意外なほどの太さにも気付かせてくれた。

 ベースのリフが印象的な曲は数え切れないほどあるが、マイケルの作品ほどシンプルな音型で強烈なインパクトを与える例はそう多くない。「BAD」も「スムーズ・クリミナル」も、曲の途中でいったん途切れても頭のなかでずっと鳴り続けるほど、低音のフレーズが強力だ。その低音の威力を今回の試聴であらためて思い知らされた。

 

強烈なリズムの存在感が凄い!この低音は5.1chでも際立つ

 アンカー(錨)のように安定した低音は5.1ch再生でもブレる気配がない。

 DVDビデオ『ライヴ・アット・ウェンブリー』の5.1chドルビーデジタル音源でライヴ本編の感動的なラスト曲「BAD」を聴いて実感したのは、スピーカーごとのタイミングが揃うことの大切さだ。Coax Gen2シリーズの低音は他の楽器とアタックが正確に揃うだけでなく、1つ1つの音符の長さを正確に保ち、余分な音を一切残さない。立ち上がりとキレがどちらも速く、リズム自体が強い存在感を発揮するのだ。

 シンセサイザーで合成したベースならではの音色のバリエーションの広さも聴きどころで、ミュージシャンが狙ったのはこの音だ! と納得させる力がある。サブウーファーの音域も良い具合に制動が効いて、協調しながら深々とした低音を繰り出した。

 マイケル・ジャクソンを集中的に聴いたのは久しぶりだが、取材で聴けなかったアルバムも含め、全ての音源と映像をもう一度聴き直したくなった。現代のハイエンドシステムで初めて気付く緻密なサウンド。その奥の深い世界に足を踏み入れるのは格別な楽しみだ。

 

リファレンス機器
●8Kプロジェクター:ビクターDLA-V90R
●スクリーン:キクチDressty 4K/G2(120インチ/16:9)
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
●AVセンター:デノンAVC-A1H

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』

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