5月30日と31日、東京・秋葉原の損保会館で「アナログオーディオフェア2206」が開催されている。アナログ機器やアクセサリー、レコードの展示と販売をメインとした恒例のイベントだ。今回は46社が出展、2F、4F、5Fに分かれて様々なイベントや展示が行われた。ここではその中から、編集部が参加できたふたつのイベントについて紹介したい。

 まず502号室で16時から行われていたのが、Tecnologia e Cuoreの新製品ブックシェルフスピーカー「DS-TC62B」の試聴会だ。オーディオ評論家の山本浩司さんをアドバイザーに迎え、同ブランド代表の佐藤 岳さんとのふたりで商品解説やオススメレコードの再生が行われた。

画像: 本邦初公開となった「DS-TC62B」

本邦初公開となった「DS-TC62B」

 佐藤さんはもともと三菱電機でプロジェクターやスピーカーを手掛けてきた人物で、同社を定年後にTecnologia e Cuoreを創設、DIATONEスピーカーに搭載されている、ウーファー、ツイーターを同一素材で構成できる振動板「NCV-R」を採用したモデルとして「DS-TC52B」を発売した。DS-TC62Bはその上位モデルで、現在絶賛開発中とのこと。オフィシャルな場での試聴会に登場するのは本イベントが初めてだったそうだ。

 このスピーカーについて佐藤氏は、「ダイヤトーンスピリッツという意味でDSと付けました。 “DS” っていうとピンとくる方もいっぱいいると思ったので(笑)。型番は6インチの2ウェイ、Bはブックシェルフスピーカーという意味で、ダイヤトーンの流儀を踏襲しています。Tecnologia e Cuoreというブランド名は、テクノロジーというのもすごく大切で、さらに音楽を聴く心も大事だということで、テクノロジーとハートという意味のイタリア語にしています。個人的にオペラが好きなので、イタリア語を選んでいます」と解説してくれた。

画像: 解説は山本浩司が担当

解説は山本浩司が担当

 会場となった502号室は5Fで一番大きな空間ながら、客席はすべて埋まっており、立ち見も出るほどの人気だった。それを観て山本さんは、「これだけの広い部屋で6インチウーファーのスピーカーを聴くって、本当に大丈夫なのか心配しています(笑)」と切り出した。

 そこからは山本さんが選んだレコードの再生が始まった。一枚目は、「先週、グレードテナーマンのソニー・ロリンズが亡くなりました。95歳という長寿だったんですが、彼の追悼という思いもありまして、『ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・コンテンポラリー・リーダーズ』の中から『How High The Moon』をお聴きいただきたいと思います」という解説からスタートした。

 6インチウーファーで来場者に満足してもらえる音が再生できるか、という山本さんの心配は杞憂に終わり、実体感のあるテナーサックスが再現され、皆さん驚いた様子で耳を傾けていた。「佐藤さん、いかがですか?」と山本さんが問いかけると、佐藤さんも「自分で言うのも何かなと思ったんですけど、いいですね」と嬉しそうに返していた。

画像: Tecnologia e Cuoreの佐藤 岳さん

Tecnologia e Cuoreの佐藤 岳さん

 続いては、2月に急逝した潮 晴男さんが手掛けたUAレコードの最新アルバム『ボヌール/情家みえ』から「Over The Rainbow」を再生。ここでもひじょうにリアルなボーカルが再生され、来場者からも「いいじゃん」という声が漏れていた。

 その後、DS-TC62Bのユニットに使われているNCV-Rという素材についての解説があった。そもそもこの素材はカーオーディオで使われていたものだが、伝搬速度が速く、内部損失が大きいというスピーカー振動板に理想的な特性を備えている。しかもウーファーとツイーターで同じ素材を使えるという他にない特徴もある。

 Tecnologia e Cuoreでは、この素材の使用についての許諾を得ており、さらにアモルファスコアやネオジムマグネットといったこだわった素材を使っているため、原価率が高い(つまりお買い得)ということも明かされた。実は現在の国際情勢もあって、DS-TC62Bはまだ価格も決まっていない。同ブランドは来月のOTTOENにも出展予定とかで、その辺りは追って明かされるのかもしれない。

画像: 45回転レコード『ボヌール』

45回転レコード『ボヌール』

 続いて504号室のサエクブースでは、UAレコード試聴会が開催された。故・潮 晴男さんが手掛けた『エトレーヌ』『ボヌール』を、同じくプロデューサーを務めた麻倉怜士さんと、シンガーの情家みえさんによる解説を交えていい音で楽しんでもらおうという企画だ。

 最初にUAレコードの録音で必須となる一発録りについての紹介があった。

 「ワンテイクなんですよ。普通は1回通して歌って、駄目だったところを録り直してデジタルで入れ替えるということをやるんですが、うちはそれをしないんです」と麻倉さん。それを受けて情家さんから、「一作目の『エトレーヌ』を作る時に、ワンテイクだと聞かされないままボックスに入りました。で、何曲かやっていくうちになんかおかしいぞ、もしかすると一発録りなんですか? て言ったら、潮さんと麻倉さんがなんかゴソゴソしてて……。録音当日に分かったっていうひどい話なんです(笑)」と暴露話が飛び出してきた。

画像: 左から情家さん、麻倉さん。レコード再生を担当したカジナラ・ラボの梶原弘希さんとサエク・コマースの北澤慶太さん

左から情家さん、麻倉さん。レコード再生を担当したカジナラ・ラボの梶原弘希さんとサエク・コマースの北澤慶太さん

 それに対し麻倉さんは、「収録の時も、演奏のテンションが上がっていってノリノリになるんだけども、編集用に一部だけ録りなおすとなると、やっぱりノリが違うんです。クラシックでは結構やっていることが多いんですけども、ジャズの場合はその時の現場の感じ、グルーヴが重要ですから、UAレコードタイトルはそれを収録するのが使命だなと思いました」と作り手の思い、こだわりの深さを解説してくれた。

 ここから『ボヌール』の再生が始まったが、このレコードは45回転で、2枚組4面という構成になっている。試聴会では各面から1曲ずつ、合計4曲が再生された。A面からは「Lover, Come Back To Me」、B面が「Over The Rainbow」、C面「Love Is Many-Splendored Thing」、D面「I Can See Clearly Now」という順番で、それぞれ収録時の思い出(苦労話)やこだわりポイントが語られている。

画像: ラックスマンのレコードプレーヤーやオクターブのプリ&パワーを使用。スピーカーはハーベス

ラックスマンのレコードプレーヤーやオクターブのプリ&パワーを使用。スピーカーはハーベス

 その中で麻倉さんから『ボヌール』のレコード仕様について、思いがけない裏話も明かされた。このレコードは180g重量盤として製作されているが、実際に重さを測ると180gに少し足りないそうだ。この点について購入者から問い合わせがあったという。

 そこで麻倉さんがレコードのプレスを担当したメモリーテックに確認したところ、「それは麻倉さんがいけないんです」という返事があったそうだ。というのも、発売前のテスト盤の音を聞いて、麻倉さんと潮さんからいくつか変更希望を出したという。例えば高域が硬めで、低域が物足りないのでそこを修正して欲しいといったものだったそうだが、それを受けてメモリーテックでは、レコード盤のプレス工程まで遡って最適な状態を探っていったという。

画像: レコードを買ってくれた方には、その場でおふたりがサインを

レコードを買ってくれた方には、その場でおふたりがサインを

 結果としてテスト盤よりも強めに、時間をかけてプレスすることになったが、そうなると盤の厚みが変わり、プレス時に発生するバリ(はみ出したプラスチック)の量も増えてしまう。この結果、180gよりも軽めになったわけだ。ここについて麻倉さんは、「メモリーテックさんが、われわれの要望をすごく真摯に受け止めてくれて、本当に細かい実験をしてくれました。確かに重さは変わっていますが、それは我々が望んだ音を再現するための試行錯誤の結果で、最良の選択だと思って下さい」と熱意を込めて語っていた。

 試聴会の後には、UAレコードの販売ブースを多くの方が訪れ、『ボヌール』を始めとする各ディスクを買い求めていた(会場で購入した方には情家さんと麻倉さんがその場でサインを入れてくれる)。

画像: ステレオサウンド社もブースを出展しています

ステレオサウンド社もブースを出展しています

 なお、31日の13:30〜15:00にはステレオサウンド社によるイベント「筒美京平 書き下ろし未発表曲アルバム [TOKYO SUITE] 現代に甦る16chアナログマルチ録音/驚異のアナログサウンド・レコードを聴く」も開催予定。来場予定の方は、こちらもぜひお楽しみいただきたい。

(取材・文・撮影:泉 哲也)

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