いまわたしは2枚の写真を見ている。
一枚は、緑深い大地で遠くに山々が連なっている自然の風景。もう一枚は、近代的な大都会で、高層ビルがひしめいており、街の明かりが眩しい。
この2枚の写真、同じ場所を撮影している。2枚とも、中国・深圳の写真だ。自然風景は1970年代終わりの深圳。珠江デルタの一角、人口3万人の漁村/農村だ。都会の風景は2022年の深圳。人口1750万人の大都会だ。
深圳は40年間で人口が600倍近くに激増、毎年20%の経済成長を記録したという。経済特区として急激に成長した深圳は、ハイテク産業に満ちていて、電子部品や電子機器メーカーがいっぱいある。Huawei、Tencent(WeChatを運営)、 DJI(ドローン世界シェアトップ)……。中国のシリコンバレーとも例えられる。当然、人材も豊富であろう。
ストリーミングトランスポート Eversolo T8 ¥297,000(税込)

●ディスプレイ:6インチ タッチスクリーン
●内部メモリー:4GDDR4+64GeMMC
●対応信号:DSD512、PCM 768kHz/32ビット
●再生ファイルフォーマット:DSD(DSF、DFF、SACD ISO)、最大DSD512のDST、MP3、APE、WAV、FLAC、AIF、AIFF
●音楽サービス:TIDAL、Qobuz、HIGHRES AUDIO、Amazon Musicなど
●接続端子:USB3.0✕2、同軸/光デジタル、AES/EBU、IIS、USB、LAN端子(SFP、RJ45)
●主な対応信号:
・USB、IIS=最大PCM 768KHz/32ビット、DSD512ネイティブ
・同軸、光、AES/EBU=最大PCM 192KHz/24ビット、DOP64
●消費電力:20W
●寸法/質量:W315✕H88✕D230mm /4.5kg

T8はアナログ出力を持たないトランスポートで、入力には2系統のLAN端子(SFP、RJ45)を、出力には5系統のデジタル端子(USB3.0、同軸/光デジタル、AES/EBU、IIS)を備える。HDMI端子を使ったIIS出力を備えているのも特長だ
Eversolo Audio Technology社(エバーソロ・オーディオ=Eversolo Audio)は、中国の深圳で稼働している。同社は中国のハイテク産業の真っ直中で活動しているのだ。
エバーソロ・オーディオを運営する親会社のZidoo Technology社(ジドゥ=Zidoo)は、OEM/ODMプロジェクトのため160名以上の従業員を有し、その内80人がR&D(研究開発)チームに属する。今年(2026年)には新しい研究開発センターを設立し、研究開発チームと製品チームを合わせて150〜200名に拡大する予定。 グローバル展開と製品投入を支援するため、マーケティング部門を100名体制に拡大する計画だそうだ。
ジドゥ社は、ジドゥとエバーソロ・オーディオ、ラグサイン(Luxsin)の3つのブランドを運営し、ジドゥはAV関係の製品、エバーソロはオーディオ関係の製品、ラグサインはヘッドフォン関係の製品をそれぞれ担当している。現在、製品は世界80以上の国と地域に輸出されているという。
ここに紹介するのは、エバーソロのストリーミングトランスポート(ネットワークトランスポート=DACを内蔵していない)の「T8」と、独立した単体D/Aコンバーターの「DAC-Z10」。
同社製品は、D/Aコンバーターを内蔵した一体型のネットワークストリーマー(ネットワークプレーヤー)ばかりであった。たとえば、フラッグシップには「DMP-A10」(¥825,000、税込)があり、中堅機には「DMP-A8」(¥396,000、税込)がある。
一方、「ユーザーはD/Aコンバーターまたは外部デジタル入力付きCDプレーヤーをすでに所有しているだろう」という観測もあることから、D/Aコンバーター部を内蔵していないストリーミングトランスポートを初めて製品化したのがT8である。
D/Aコンバーター Eversolo DAC-Z10 ¥385,000(税込)
※予約販売キャンペーンで、2026年2月28日まで¥374,000(税込)で販売

●ディスプレイ:8.8インチ IPS液晶
●メインプロセッサー:DCP8568
●DACチップ:AK4191EQ+AK4499EX(L/Rそれぞれ)
●対応信号:DSD512、PCM 768kHz/32ビット
●接続端子:USB Type-B、同軸/光デジタル、AES/EBU、IIS、HDMI(ARC)、アナログ入力(XLR、RCA)、アナログ出力(XLR、RCA)ヘッドフォン出力(6.35mm)、外部クロック入力
●寸法/質量:W365✕D310mm✕H88/9kg

DAC-Z10は、8系統のデジタル入力に対応済。HDMI端子はIIS用とARC用があり、それぞれを活用すれば、テレビの音のグレードアップからハイファイ再生まで幅広く対応できる
また、同社ではD/Aコンバーターとヘッドフォンアンプの機能を合わせ持った「DAC-Z8」(販売終了)を製品化していた(2024年)。このDAC-Z8に関してマーケットから、「さらに音質を追求したD/Aコンバーターが欲しい」、「ヘッドフォンアンプとしては、出力端子にバランス端子や6.35㎜に加えて4.4㎜端子が欲しい」、という声が挙がり、この度のD/AコンバーターDAC-Z10製品化となったわけだ。ヘッドフォンアンプとしてはラグサインの「X9」(¥220,000、税込)が製品化された。
ではまず、T8から詳しく見て行こう。
ストリーミングトランスポートのT8は横幅が31.5cmと小型だ。一見すると、DMP-A8からD/Aコンバーター機能を取り除いただけのようだが、実際にはDMP-A8よりも強化されている。T8で強化されたのは、入力方法にIIS(I²S=アイ・スクエアド・エス)伝送を設けたこと(詳細は後述)、SFP端子が増設され、内蔵できるストレージがDMP-A8では容量4TバイトのSSD×1台であったのが、T8では8TバイトのSSD×2台(計16Tバイト)へ拡張されたことである。
エバーソロ製品を紹介する度にその多機能ぶりには驚かされる。機能がてんこ盛りなので、ラーメンで言えば全部乗せ、という表現をいつも使ってしまう。もちろん、T8もそうだ。
対応しているストリーミングを列記すると、TIDAL、Qobuz、IDAGIO、Amazon Music、TuneIn Radio、Presto Music、KKBOX、Radio ParadIISe、Deezerなどであり、世界中の主要音楽サービスを網羅している。Apple Musicはユーザーがアプリをインストールする必要があるが、特記すべきは、Amazon MusicとApple Musicの両方ができること。これは、同社の強みである。また、今後のファームウェアアップグレードでさらに多くの音楽サービスが追加される予定があるそうだ。
本機もそうだが同社製品は、アンドロイド(Android)OSで動作している。各ストリーミングはアンドロイドOSに内蔵された機能によって実行されている。なお、アンドロイド機はApple Musicの再生でハイスペックなハイレゾ音源を入力するとダウンサンプリング化される場合がある(SRC制限)。これを回避するため、同社製品はオリジナルのサンプリングレートを活かす機能のエンジン(EOS)を搭載している。
ハイファイ伝送にもHDMIを活用。IIS伝送の効果を試す

今回はT8とDAC-Z10をワイヤーワールドの新製品HDMIケーブル「Platinum Starlight 48」(長さ2m)でつないで、ストリーミングやハイレゾファイルを再生してみた。
PlatinumStarlight 48はワイヤーワールドのHDMIケーブルで、すべての長さで8K/48Gbpsをサポートする。SolidSilver導体とカーボンファイバー製プラグ、Silver‑clad接点を採用。さらに、オリジナルの信号を忠実に伝送するUni-Path Design、電気摩擦ノイズを最小限にする絶縁体Composilex3などの独自ケーブル・テクノロジーにより、音楽信号伝送にも最適という。

HDMIケーブル:ワイヤーワールド Platinum Starlight 48
¥198,000(1m)、¥297,000(2m)、¥396,000(3m)※価格はすべて税込

IIS伝送では、オーディオビジュアルでも使われているHDMI(タイプA)コネクターとケーブルを使っている。内部には19本のケーブルが通っており、この中で6本の信号線を使って音声データと識別信号を伝送しているが、どの線にどの信号を流すかの組み合わせがブランドによって異なるため、互換性が取れない場合もあるそうだ。その対策としてT8とDAC-Z10では8種類の組み合わせが選べるようになっている。
本機はイチイチ挙げていったらキリがないほど多機能だが、敢えてひとつだけ付け加えておくと、「クロスプラットフォーム」機能がある。これは、自分がダウンロードなどで入手してストレージに蓄えた音源とストリーミングで聴いた音源とを合わせてプレイリストが作れる機能であり、ストリーミング時代を迎えた今日にふさわしい。
ストリーミングトランスポートT8とペアを組むD/AコンバーターDAC-Z10は、フロントパネルに8.8インチという大きな液晶パネルを搭載しており、とても現代的なD/Aコンバーターの「顔」をしている。アプリを使えば、液晶パネルの表示を出力メーターに切り替えが出来る。本機は、アナログ入力も出来るし音量調整機構もあるので、プリアンプ機能付きのD/Aコンバーターと呼べる。
D/Aコンバーターのデジタル入力は、すでに40年間ほどの長い間S/PDIF信号接続端子が幅を利かせてきて、これにUSB信号端子が加わって15年ほどになる。そして本機は、HDMI端子を使ったIIS伝送を本格的に採用した記念すべき製品ということになる。
S/PDIF伝送の「S」はソニー、「P」はフィリップスのそれぞれ頭文字である。ソニーとフィリップスと言えば、CD規格の生みの親であった。CDが生まれてまだ数年しか経っていないころ、CDプレーヤーをセパレート化するのを主体に作られた規格であって、さすがに古めかしい。S/PDIF伝送はケーブル1本で簡単に接続出来る反面、音楽のデータ信号とクロック信号を(混ぜて)一緒に送るのが難点であった。いっぽう、IIS伝送はもともとCDプレーヤーの内部で行われている伝送であり、音楽のデータ信号とクロック信号とを分けて伝送しているため、低ジッターの伝送が期待できる。
さて、HDMI端子を使ったIIS伝送だが、最初に考案/提案したのはアメリカのハイエンドオーディオメーカーの創業技術者であった。その後、主に新興オーディオメーカーが採用してきた。デジタル音楽信号のIIS伝送推進派の意見では、「オーディオではUSB接続が衰退して行く」とみられているほどだそうだ。
そもそもHDMI端子はテレビなどで使われてきた(タイプA)規格で、ケーブル内部には19本の信号線が通っている。これをIIS伝送で使う場合、複数のどの信号線にどの信号を乗せるかはマチマチで、現在既に8通り見つけられている。これに対し、DAC-Z10は8通りのパターンから選んで受け付けることができる(T8も8パターンから選んで送り出せる)。既存のDMP-A8では2パターンだった。
なお、DAC-Z10の心臓部であるDACチップには、旭化成のAK4499+4191が2セット搭載され、1chに1セットが使われている(DMP-A8は2chで1セットだった)。
SOtMのネットワークスイッチとの組み合わせで、T8の光LAN入力の効果を試す

T8は通常のLAN端子(RJ45)に加え、光LAN(SPF)端子も備えている。ネットワークを経由して音楽信号を入力する場合、どちらのLANを使うかで音質が変化するケースも多い。そこで今回はSOtMのネットワークスイッチを組み合わせて、両方の違いを試してみた。強化電源とマスタークロック付きの「sNH-10GPSMC」(¥1,320,000、銀線仕様、税込)を使用した。
T8とDAC-Z10でペアを組み、DAC-Z10の出力を直接パワーアンプに接続して試聴した。
フィルターは急峻なミニマムフェイズを選んだ。T8の音調調整ノブはロータリーエンコーダーなのでグルグルと何回転もする。T8とDAC-Z10との伝送で、USBかIISかの比較では、違いがはっきりと出た。USBでは甘く丸味のあった音がIISでは一変、ヌケがよく爽快でリズミカルであり、音場空間の見透しがよくなってきた。なるほど。オーディオでのIIS伝送の黎明期である現在、T8とDAC-Z10のペアの存在意味は大きい、とつくづく感じた次第だ。
T8とDAC-Z10でペアを組み、まずはStereoSound ONLINE視聴室のリファレンスであるアキュフェーズのプリアンプC-3900SとパワーアンプA-300のペアに接続した。フィルターは急峻なミニマムフェイズを選んだ。C-3900Sの音量調整ノブは操作する指先によくなじんで、操作感は抜群に高い。
ブ厚い低音に輝かしい高音が乗ったコントラストの高い音だ。マーカス・ミラーのスラップ奏法による演奏がバチバチに決まる。ここまではネットワークスイッチのSOtM「sNH-10G」とT8はメタルケーブルによるLAN接続だったので、これをSFP端子を使った光LAN接続につなぎ替えて聴くとハイ上がりなしゃくれた感じが現れた。試聴に使ったSFPモジュールの音のクセが乗ったのだと思われる。このあたりはご自分の好みで使い分けていただきたい。今回はメタルのLANケーブルを使っている。
その状態で、DAC-Z10の出力を直接パワーアンプに接続して試聴した。
T8とDAC-Z10との伝送で、USB接続とIIS接続を比較すると、印象の違いがはっきりと出た。メタルケーブルによるUSB接続では甘く厚みのあった音がIISでは一変、ヌケがよく爽快でリズミカルであり、音場空間の見透しがよくなってきた。しかもヌケがよく爽快でリズミカルであっても、シャリシャリとしたクセのある高音域ではないのだ。
なるほど。オーディオでのIIS伝送の黎明期である現在、T8とDAC-Z10のペアの存在意味は大きいと感じた次第だ。
試聴時の接続図

今回の試聴では、sNH-10GとT8間をLANケーブルにメタル線と光ケーブルのどちらでつかぐか、さらにT8とDAC-Z10の間はUSBとIIS(HDMI)伝送のどちらにするかで音がそれぞれ変化した。このあたりの使いこなしはオーディオ再生の楽しさでもあるので、ぜひ聴き比べを試していただきたい。

取材はStereoSound ONLINE試聴室で実施。アキュフェーズのプリアンプ「C-3900S」+パワーアンプ「A-300」、スピーカーにはB&W「801 D4」という組み合わせで行った






