去る9月17日に、東京・学芸大学のホーム商会で「歴代首席指揮者で聴くベルリン・フィル・レコーディングス」と題したイベントが開催された。

 オーディオ評論家の山之内 正さんを講師に迎え、山之内さんが執筆したQobuz Magazineの記事「歴代首席指揮者で聴くベルリン・フィル・レコーディングス」と連動して、ハイレゾ音源をLINN(リン)のハイエンドオーディオシステムで楽しもうというものだ。レコード試聴環境も準備され、ベルリン・フィル録音の多様性に触れられるイベントとなっていた。

画像: ベルリン・フィルに関する興味深いお話を聞かせてくれた、山之内 正さん

ベルリン・フィルに関する興味深いお話を聞かせてくれた、山之内 正さん

 当日は開始30分前から参加者が詰めかけ、早々に満席に。まずQobuz Magazine編集長の小池
千尋さんが登場し、イベントの概要が説明された。

 今回の催しはQobuzとリンジャパンが共同で企画したもので、「山之内先生に原稿に書ききれなかったお話などを語っていただきたいと思っております。再生する楽曲はQobuzの音源だけでなく、ファインアーツミュージックさんにもご協力いただいてアナログディスクを用意しておりますので、このふたつを聴き比べていただきたいと思っております」と、小池さんが紹介してくれた。

 続いてQobuzを運営するザンドリージャパン株式会社 国内統括マネージャーの祐成秀信さんから、同社サービスについての説明があった。

 「この中でQobuzを聴いたことある方、もしくは使われている方いらっしゃいますか」という祐成さんが質問すると、半分ほどの方が手を上げてくれた。ホーム商会のお客さんはフィジカルソフトの愛好家が多いと聞いていたが、その中でも半分ほどの人がQobuzを導入していたということは、ある意味で驚きだ。

 そこからQobuzの歴史が解説された。Qobuzはフランスで2007年にサービスを開始し、現在は世界26ヵ国で展開しているハイレゾストリーミングサービスだ。日本では昨年10月からスタートし、ストリーミングとダウンロードストアのふたつのサービスを展開している。

画像: Qobuz Magazine編集長の小池千尋さん(左)と、ザンドリージャパン株式会社 国内統括マネージャーの祐成秀信さん(右)

Qobuz Magazine編集長の小池千尋さん(左)と、ザンドリージャパン株式会社 国内統括マネージャーの祐成秀信さん(右)

 「ストリーミングサービスがあれば、ダウンロードストアは必要ないんじゃないかと言われますが、レーベルの意向によってはダウンロードでのみ購入できる楽曲も多数ございますので、一度ダウンロードストアものぞいていただきたいと思っています」(祐成さん)とのことだ。

 さらにウェブサイトのQobuz Magazineも展開している。そこでは音楽が作られた背景とかジャンルが生まれた経緯についても深く紹介しており、ユーザーに一歩踏み込んだ音楽体験をしてもらいたいと考えている。このQobuz Magazineに掲載された記事が本イベントのきっかけになったわけで、ここから進行を山之内さんに交代し、試聴がスタートした。

 山之内さんはまず、「ベルリン・フィルの音源はすごくたくさんあるから、これをどう選んで、どう聴くかは、重要なテーマだと思ったんです。Qobuzでもベルリン・フィルと検索すると、すごい数が出てきます。時代も指揮者も、ジャンルも異なる楽曲を、どうやって聴いたらいいのかと悩むくらいです。

 そこについて、ベルリン・フィルは2010年代前半に独自のレーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」を作りました。自分たちが録音したい、残していきたい音源を選び、自分たちでデザインして、売っていくというものです。今日はこのレーベルを中心に聴いていただこうと思います。

 また歴代指揮者というテーマでどれくらい遡れるかも調べてみました。Qobuzで聴ける楽曲の中で一番古いものは、なんと100年以上前の音源がありました。今日はそれも聴いてみたいと思います」と紹介してくれた。

画像: 今回の試聴機器はリンのシステムで統一している

今回の試聴機器はリンのシステムで統一している

 そしてQobuzの試聴がスタート。最初のタイトルは『Schumann : Symphonien 1 - 4 by Berliner Philharmoniker - Sir Simon Rattle』から、第1番第1楽章が再生された。

 「コントラバス、チェロ、金管もそうですが、低音楽器の響きが深いというか、熱いというか、これがベルリン・フィルハーモニーホールの大きな特徴のだと思うんです。実際に客席で聴いていると、コントラバスが大きな弓の動きでフォルテで引いた時は、空気の圧力を感じるぐらいなんです。

 しかもフィルハーモニーホールは複雑な形をしていて、空間が大きいにも関わらず、ステージが近いんです。ですから、直接音圧を感じますし、広がりが自然で余韻が大きく広がっていきます。それが、この録音にも入っているなと感じます」と、山之内さんが楽曲の聴き所を紹介してくれた。

 次に『Beethoven : Piano Concertos 1-5 by Mitsuko Uchida - Berliner Philharmoniker, Sir Simon Rattle』を再生。この演奏は内田光子さんがソリストを、指揮はサイモン・ラトルが務めている。

 「ピアノの音色の美しさ、内田光子さんの繊細なタッチがいいですね。これはライブ録音ですが、ディスクがリリースされる時に内田光子さん自身が、唯一この時にしかできなかった演奏が入っていると語っています。

 今日は第4番第2楽章、オーケストラとピアノが掛け合いで展開していく曲を聴いていただきますが、ステージ上でピアニストとオーケストラの間での阿吽の呼吸が成立していく様が、息遣いまで含めてクリアーに収録されていると思います。そこを、ぜひお聴きください」(山之内さん)

 次にレコード再生も行われた。そこで選ばれたのは、『ジャン・シベリウス(1865-1957) 交響曲全集(第1〜7番) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 サー・サイモン・ラトル(指揮)』で、同じ楽曲をQobuzでも再生、そのふたつを聴き比べている。

画像1: 学芸大学・ホーム商会で、Qobuz ✕ リンによる「歴代首席指揮者で聴くベルリン・フィル・レコーディングス」を開催。100年前の貴重な音源も聴けた

 「レコードとQobuzの音源、それぞれの良さがあるなと思いました。マスターも同じではないと思うんですけれども、こうやって比べるとQobuzの情報量、レコードの鮮度の高い音色とそれぞれ魅力があります。

 私自身も最近はQobuzで楽曲を聴いていますが、気に入ったらレコードも欲しくなっちゃうんですね(笑)。気分によって、今日はレコードを聴きたいな、今日はQobuzで全部通して聴こうかな、そういう風に使い分けられるっていうのが結構楽しいですよ」と山之内さんは、レコードとストリーミングのオーディオ的な楽しみ方も解説してくれた。

 続いて山之内さんのコレクションから、18年ほど前に発売された限定本が紹介された。大判のハードカバーに12枚のCDを収録、ベルリン・フィルの録音の歴史年表も収録されているそうだ。この本によるとベルリン・フィルが録音をスタートしたのが1913年で、その次は1920年のこと。そして今回、山之内さんが調べてみたら、1920年の録音『ハンガリー協奏曲』(指揮:アルトゥール・二キシュ)がQobuzで配信されていたそうで、さっそく再生してくれたた。

 「105年前の録音なので、今までのハイファイ録音とはだいぶ違いますが、珍しい機会なので聴いていただきました。もちろんノイズを抑えるなどの処理をしているとは思いますが、楽器のバランスはともかく、演奏の雰囲気をよく捉えていると思います。

 ベルリン・フィルは1882年にできたオーケストラですが、設立からわずか30〜40年後に録音をスタートし、以来約100年に及ぶ素材がQobuzの中に入っているというのが、ものすごいことだと思います」と、配信だからこそ実現できる貴重な体験についてわかりやすく解説してくれた。

画像: リンジャパン 代表取締役の山口伸一さんが、リンの歴史や再生機器の特長を解説

リンジャパン 代表取締役の山口伸一さんが、リンの歴史や再生機器の特長を解説

 ここで一旦休憩を挟んで、試聴会の後編がスタートした。まずリンジャパン 代表取締役の山口伸一さんから再生機器についての紹介が行われた。

 リンは2007年にDSシステムを発表した。当時はCDリッピング音源が中心だったが、これが今日のネットワークオーディオの魁となってきた。現在は「KLIMAX DSM」「SELECT DSM」「MAJIK DSM」というラインナップを揃えている。さらに独自のEXAKTテクノロジーによってロスレス伝送を実現、入口からスピーカーまで高品質な再生を可能にしている。

 今回のイベントでは、ネットワークプレーヤー「KLIMAX SYSTEM HUB/1」、レコードプレーヤー「KLIMAX LP12 SE -BEDROK」、スピーカー「360 EXAKT」という組み合わせがセットされ、リンクォリティでの試聴体験ができるようになっていたわけだ。

 これら再生機器の説明に続いて、ベルリン・フィル歴代指揮者の名演奏が再現された。

 「ベルリン・フィルは歴史が長いオーケストラで、私が最初に演奏を聴いたのは50年近く前の日本公演でした。その後1985年にベルリンで演奏を体験しました。ヘルベルト・フォン・カラヤンが
終身首席指揮者だった時期ですけど、そこでびっくりしたのは、ホールの空気を支配するカラヤンの力強さでした。

 カラヤンの姿が見えた瞬間にすべての音が消えて、指揮台に歩くまでの間にオケの全員が息を止めているんじゃないかっていうぐらいの静寂で、彼がタクトを下ろした瞬間に最大級の音量で曲が始まる。この体験をした時に、やっぱりベルリン・フェルにとってカラヤンは特別な指揮者なんだなということが分かりました。

画像: 山之内さんのコレクションから、ベルリン・フィルの限定書籍を披露してくれた

山之内さんのコレクションから、ベルリン・フィルの限定書籍を披露してくれた

 その後、1990年にクラウディオ・アバドがカラヤンの後任になってベルリン・フィルの空気が変わり、突然何でもありみたいな状態になったんです。カラヤンとアバドはまるで違うキャラクターだったんですけど、Qobuzで聴ける音源でも当時の空気感がよく伝わってきます」(山之内さん)

 ということで、ベルリン・フィル・レコーディングスから『クラウディオ・アバド〜ザ・ラスト・コンサート』の「メンデルスゾーン《真夏の夜の夢》」をQobuzで再生してもらう。その心地いいサウンドから、来場者もベルリン・フィルの演奏の時代による変化を感じ取ってくれたようだ。

 「アバドの後を受けたのがサイモン・ラトルです。彼の時代にデジタル・コンサートホールができたり、ベルリン・フィル・レコーディングスが立ち上がったりと、メディアが一気に広がっていくわけです。そして、いよいよ2019年からキリル・ペトレンコの時代に入りました。

 では次は、ペトレンコが指揮をした『Tchaikovsky : Symphony No. 6 "Pathétique" (Multi-Channel Version) by Berliner Philharmoniker and Kirill Petrenko』をお聴きいただいたいと思います」(山之内さん)

 ということで、ストラヴィンスキーの楽曲がレコードと配信の順番で再生され、来場者全員が曲を堪能したところで、山之内さんから解説が行われた。

 「アンサンブルの精度がものすごく上がりましたね。ペトレンコは、ワンフレーズ、ワンフレーズについて、クレッシェンドの長さはこれくらいで、こういう音の切れ方にして欲しいといった具合に、細かく指示をします。とはいえ、現代の指揮者らしく無理強いはしません。

 でも、ベルリン・フィルのメンバーは彼の意思を尊重するんです。この曲では、細部まで綺麗に全員の意思が揃って、色彩だけの音楽ではなく、自発的な演奏家の表現がちゃんと成り立っている、そんな演奏になっていると思います」(山之内さん)

画像: アナログレコードとストリーミングのどちらも高品質に再生できるシンプルなシステムを構築

アナログレコードとストリーミングのどちらも高品質に再生できるシンプルなシステムを構築

 山之内さんが最後に選んだ一曲は、『Rachmaninoff : Symphony No. 2 by Kirill Petrenko - Berliner Philharmoniker』で、これをQobuzのストリーミングで再生した。

 「ペトレンコの『ラフマニノフ』はスケールの大きな演奏ですけれど、その中にも、ものすごく精密なアンサンブルがあって、色々な楽器が役割を正確に演じて弾き分けていました。こういった音源がいずれディスクメディアで出てくることも期待したいですね。

 ベルリン・フィル・レコーディングスの過去の音源を聴くことができる状況は、これからも充実してくると思うんです。それらは音色、音質もひじょうにレベルが高く、演奏の真髄もストレートに入っている印象を受けました。レコードも、盤でなくては出てこない空気感であったり、鮮度の高さが味わえる。レコードの音を聴くことによって、Qobuzの音の特徴が浮かび上がってくる、そんなこともあるんじゃないかと思いました」と、山之内さんからQobuzを含めたオーディオの楽しみ方が提案され、イベントは終了になった。

潮さんによる、トーレンス&パラダイム製品の体験会も大好評で開催

画像2: 学芸大学・ホーム商会で、Qobuz ✕ リンによる「歴代首席指揮者で聴くベルリン・フィル・レコーディングス」を開催。100年前の貴重な音源も聴けた

 山之内さんのイベントに続いて、ホーム商会では10月11日(土)に「2025 Autumn Event」が開催された。トーレンスのターンテーブル「TD124DD」(MCカートリッジは『PLATANUS 3.0S』)とパラダイムのトールボーイスピーカー「Persona 5F」という組み合わせで、潮晴男さんが選んだレコードを堪能してもらおうというものだ。その他のシステムは、フォノアンプがアキュフェーズ「C-57」で、プリ・パワーも同じくアキュフェーズの「C-2300」+「A-48S」という構成。

 ジャズやクラシックの定番レコードに加え、イベント後半では「普通のオーディオイベントではかからない盤」(潮さん)も再生され、特に日本人アーティストの楽曲については、来場者も驚きつつ、また懐かしそうに音楽に浸っていた。

画像3: 学芸大学・ホーム商会で、Qobuz ✕ リンによる「歴代首席指揮者で聴くベルリン・フィル・レコーディングス」を開催。100年前の貴重な音源も聴けた

(取材・文・撮影:泉哲也)

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