あなたは体験しましたか? 「PCオーディオ」という再生方法を??
D/AコンバーターにUSB入力端子が装備されるようになったので、ノートパソコンのUSB出力からD/Aコンバーターへ接続し、音源はノートパソコンの内蔵ストレージに保存された。そこでの音源は、CDをリッピングしたり、あるいは音楽をダウンロード出来るサイトの、e-onkyo(現・Qobuz)やmoraなどから購入した、CDの規格を超えるハイレゾ音源で、JRiver Media CenterやJPLAYやAudirvana Plusといった音楽再生ソフトウエアで再生する……、そう、それが「PCオーディオ」だ。
ネットワークサーバー:SOtM

sMS-2000 ¥2,090,000(税込)
sMS-2000PS(LAN/USBカード用電源ユニット、DC Yケーブル付)
¥2,310,000(銀線仕様電源ユニット、税込)、¥2,288,000(銅線仕様電源ユニット、税込)
sMS-2000PSMC(マスタークロック、LAN/USBカード用電源ユニット、DC Yケーブル、クロックケーブル付)
¥2,970,000(銀線仕様電源ユニット、税込)、¥2,948,000(銅線仕様電源ユニット、税込)
※DC Yケーブルとクロックケーブルは長さ1.5m。マスタークロック入力はデフォルトが50Ωで、注文時に75Ωも指定可能
※本体カラーはブラックとシルバーの2色をラインナップ
sMS-2000は、SOtMが持つ高音質PC用パーツを活かして構成されたネットワークサーバー。4Tバイトのストレージを内蔵し、独自のEunhasu OS(同一ネットワーク上のPCやMacなどからブラウザ経由でアクセス)で設定を行う。Roon、MPD、DLNAを含む様々なオーディオ再生ソフトウェアで再生操作が可能で、取材ではRoonを使っている。

「sMS-2000PSMC」付属しているクロックジェネレーターの「sCLK-OCX10」とクロック用電源ユニット、クロックケーブル。この他にLAN/USBカード用の電源ユニットも同梱される
製品ラインナップは、ネットワークサーバー単体の「sMS-2000」と、LAN/USBカード用の電源ユニット+DC Yケーブルが同梱された「sMS-2000PS」、さらにマスタークロック(専用電源とクロックケーブル付き)もセットになった「sMS-2000PSMC」の3種類がラインナップされる。
「PCオーディオ」は15年ほど前に始まり、10年近く前に隆盛を誇った。特にアメリカが熱心だった。アメリカのオーディオショウへ行くと、たくさんのオーディオメーカーのデモの部屋から、CDプレーヤーが消えた。CDプレーヤーの代わりにノートパソコンが音楽再生プレーヤーになっていたのだった。
ところが、PCオーディオはいい音がしなかった。そもそもパソコンは音質について考慮されて作られてはいないのだ。加えて、新しいインターフェイスが音質をまったく考慮せずにノイズまみれ。
「PCオーディオ」はコンピューターを流用した音楽再生方法の登竜門であり、みなさんも体験したはずだ(まだ挑戦し続けている方もいらっしゃるだろう)。だが、余計な(使わない)ソフトウエアをアンインストールしてしまうプロセスカットをしようが焼け石に水。ノートパソコンは音が悪いままだ。
そんな「PCオーディオ」の一方で始まったのが「ネットワークオーディオ」だ。
先駆けはスコットランドのリン・プロダクツの、DS製品群だった。DSにはコアキシャル端子やTOSリンクの光端子によるデジタル外部入力(SPDIF信号を伝送する)はなく、USB端子もない。だから単なるD/Aコンバーターではない。入力は電話線の端子を大きくしたようなRJ45端子しかなかった。ネットワーク接続専用であった。

sMS-2000単体の音と、外部クロックとLAN/USBカード用電源を追加した状態も聴き比べていただいた。その違いには傅さんも驚いた様子でした
わたしは自分のオーディオの部屋でリンのDSを使い始めたものの、最初はピンとこなかった。なぜなら、わたしはMacしか使わない人であって、リンのDSは当初はWindowsにしか対応していなかったし、だいいち、ネットワーク環境の音質対策なんて、何にもやってなかったせいだと思う。以来、ヨチヨチ歩きながらネットワーク環境の音質対策に取り組んできたし、ネットワークプレーヤー(トランスポート)自体、進化してきている。
わたしは、ノートパソコンをオーディオに流用した「PCオーディオ」を諦めて、「ネットワークオーディオ」に集中するようになって5年くらい経つ。
コンピューターをプロセスカットした程度でオーディオ用になるだなんて、夢のまた夢だったのだ。コンピューターのことをしっかりとわかり、しかも音(オーディオ)のことをわかっている両方のプロフェッショナルが、その知恵と耳とを活かして開発したコンピューターや、ネットワークプレーヤー(トランスポート)には、絶対に敵わないのだった。
そう、今回SOtMの「sMS-2000」に触れて、聴いて、プロフェッショナルには絶対に敵わない……、と、つくづく思った次第だ。

sMS-2000のリアパネル。音声信号の入出力はすべてデジタル(USBやLAN端子)で行なう。写真右側にはハイエンドUSBホストカードの「tX-USBx10G」や、ハイエンドイーサネットカード搭載「sNI-1G」が搭載されている。通常はsMS-2000本体から給電される仕組みだが、専用外部電源を追加することで音質改善も可能。sMS-2000PS、sMS-2000PSMCにはそのための電源ユニットが同梱されている
SOtMの製品は立派なスイッチングHUB(sNH-10G)があることは知っていた。しかも、光接続出来たり、外部からの補強電源やら、外付けの10MHzマスタークロック(sCLK-OCX10)がラインナップにある。これは相当にワケ知りのプロが製品企画と設計の両方を担当していると想像出来た。
ネットワーク周辺機器メーカーかと思っていたがそうではなく、しっかりとネットワークトランスポートを製品化している。ドイツのミュンヘンで開催された世界最大のHi-Endオーディオショウから帰国されたばかりの輸入元の責任者に聞いた。
SOtMは、2008年に創業した韓国の会社。始まりはPCオーディオ用のパーツ(オーディオ用コンピューターの回路基板)を製作するのが仕事だった。操業8〜10年目くらいから、SOtMブランドのネットワークオーディオ製品に特化している。SOtMとは、「Soul Of the Music」の意味だそうだ。それでtが小文字だったのか。創業者/責任者は40歳代の男性で、およそ20人の社員を率いる。日本のオーディオマーケットにSOtM製品が上陸したのは、2016年からのことだった。

今回の取材は、傅さんの愛用システムに「sMS-2000PSMC」を加えて試聴を行った。sMS-2000の内部ストレージに保存した音源をUSBケーブル経由でUSB DACのdCS「Rossini DAC」に送っている
SOtMはオーディオ用コンピューターの回路基板を製作する仕事で始まった、と書いたが、PCオーディオでは普通、ノートパソコンを流用して、プロセスカットをしただけでお茶を濁す。ところが一部のとても熱心にPCオーディオに取り組むファンは、オーディオに向いたPCを自作した(たとえば、冷却ファンを使わない静音パソコンや、音質に考慮したオーディオ用パソコン)。そうした彼等向きのPCオーディオ用のパーツ(回路基板)をSOtMが製作していたのだった。すなわち、コンピューターをオーディオ用に使いこなす。プロフェッショナルである。
新製品のsMS-2000は、SOtMが約10年間に蓄積した技術と経験とを凝縮させたネットワークサーバーだ。Eunhasu OS(ウナス:韓国語で天の川)と名付けられたリナックスベースのOSで動作する。また、マザーボード、クロックモジュール、ホストカード、イーサネットカードなどは、SOtMが誇るHi-Endオーディオグレードのコンポーネントが搭載されている。電源部も特別な設計と構成だ。
また、マスタークロックのsCLK-OCX10とLAN/USBカード用の外部電源をセットにしたパッケージ「sMS-2000PSMC」も用意されており、今回の試聴ではそちらを使っている。試聴時はRoonで動作させた。
独自のEunhasu OSで、sMS-2000の様々な使い方をカスタマイズ可能

本文にある通り、sMS-2000はミュージックサーバーとして音楽データを保存するだけでなく、各種音楽再生アプリを使った再生操作も行える。そこではRoon、Qobuz Connect、HQPlayerなどでの操作も可能で、出力先のUSB DACの設定などはEunhasu OSから行なう。なおsMS-2000はDirettaのサーバー/ターゲットとしても動作し、その操作をRoonから行なうこともできるという。そちらについては近々紹介予定なので、お楽しみに。
sMS-2000は立派な音をしていた。
オーディオ界には時代、時代の「歌姫」がいる。いまの歌姫をひとり挙げるとしたら、パトリシア・バーバーであろう。彼女がジャズのコンボを従えたアルバム『Clique』(352.8kHz/24ビット)は、彼女の濃い歌い回しにもバックの演奏のリズム感にも濃いビートがあるのだが、sMS-2000で聴くと、歌い回しにもリズムにもコクがあって深いのだ。シンプルに言ってしまうと、ミッドレンジに温かな膨らみが感じられるのだ。
ネットワークオーディオの音質追求は、音楽の背景の静けさや音の数の多さを当然ながら追求することで始まる。しかしある時、“オーディオ・オーディオした音”になってしまって、どこか冷たさがあることに気付くのだ。オーディオの初心者から始まって、「マニア」と呼ばれる上級者あるいはワケ知りの達人へいく過程で、前述のことを体験するものだ。sMS-2000の立派な音は言い換えれば「大人の音」なのだ。
そして、マスタークロックと電源、USB/LANボード用の外部電源を加えると、ずいぶんな金額となり、まさに「マニア」の領域となったが、聴き惚れさせる鳴りっぷりとなった。

プリアンプはジェフ・ロゥランドの「CRITERION」、パワーアンプは「Model304」という組み合わせで、B&Wの「ノーチラス」を鳴らしている
そう、聴き惚れさせられたのは、ノルウェーのクラシック音楽専門制作会社2Lの『MAGNIFICAT』(352.8kHz/24ビット)。ノルウェー第三の都市にある大聖堂で録られた宗教曲で、ソプラノを中心にして、計15人の弦楽合奏に、女性のみのコーラス30人、ピアノ/オルガンを加えた計47人の演奏。フロント3本、リア2本の少ないマイキングで大聖堂にこだまする、長い長い響きの空間情報をたっぷりととらえた名録音だ。
sMS-2000単体だけでも響きは長く繊細であったのだが、マスタークロックとUSB/LANボード用の外部電源を加えたら、どうだ! 大聖堂の天井がうんと高くなったように感じられたのであった。つまり極極微細でデリケートな音の情報が乱舞していることが感じられたのだ。このスリーディメンションの音場表現には参った。
SOtMのsMS-2000は、コンピューターオーディオとネットワークオーディオのプロフェッショナルが作った「大人の作品」だということが、よーく、わかったのだった。