井土紀州監督の、谷崎潤一郎原作小説の映画化第2弾『痴人の愛』。昨年11月に公開されるや、毎上映、入場待ちの行列ができるほどのヒットを記録し、その後、各地での上映が行なわれるなど、大きな人気を博した。今回は、5月9日(金)にDVDリリースされることを記念して開催される舞台挨拶へ向けてのインタビューを実施。井土監督と、ナオミ役・奈月セナに、撮影時のエピソードから、お二人の共通の趣味でもある音楽談義まで、ジャズ評論家の原田和典氏をインタビュアーに迎えて行なった。

――よろしくお願いします。本日は、『痴人の愛』のDVDリリースを記念して5月9日(金)に開催される舞台挨拶へ向けたインタビューを行ないたいと思います。本作は昨年11月に公開されて、都内のみならず沖縄などを含めた各地で上映され、3月末までのロングラン上映が実現しました。まずは、上映を振り返っていかがですか?
井土紀州 監督(以下、井土) 僕らの映画って、ある程度上映期間が決まっていて、それが終わればパッケージ化されるという流れになっていることが多いんですけど、劇場で跳ねると、こんなにも作品が拡がっていくんだっていう、うれしい驚きがありました。

 最初は1週間限定って言われていたのが、2週間になり、やがて3週間になって! そこで年末を迎えてしまったことで、都内での上映は終わってしまいましたが、その後、各地で上映されて、たくさんのお客さんが観てくれて、そういう経験は初めてだったので、本当にうれしかったです。

――作品が完成した時に、そうした予感はありましたか?
井土 いや~、自信って外側から与えられるものじゃないですか。だから、手応えはいつも通りなんですよ。ただ、試写をした時に、主演の大西さん含め、出演いただいたキャストのみなさんが満足しているのを感じて、いい感触だったのは覚えています。

――その予感が現実になった、と。
井土 うれしいですよ。奈月さんは僕の横で試写(初号)を観ていたんですけど、どう感じていたんだろうなと思って。当時は、緊張というか、自分のことだけで精一杯みたいな顔をされていたので。

奈月セナ(以下、奈月) そうなんです。初主演だったこともあって、作品全体を観てどうだったかを考える余裕もなく、芝居がきちんとできているかな、どう映っているかな、きちんと大西さんのアクションに応えられているのかなっていうところに注目していたので、作品を感じる余裕がなくて……。でも、試写が終わった後で、関係者の方から良かったよっていうお言葉をいただけたので、良かったんだって、そこでようやく実感できました。

――ひたすら緊張していた。
奈月 はい。

――良かったよと言われて、今後、女優として生きていく自信がついた?
奈月 いえいえ、そこまでの自信がついたわけではありませんけど、まずはこの作品の中で、ナオミとして生きていのたなら良かった、と思いました。

――少し話を戻しまして、都内での上映期間が伸びていくのを見ていかがでしたか。
井土 やっぱりテンションが上がりますよね。観に行ってくれた知人からも、上映前に行列ができているよとか、(上映に)ギリギリ入れたよっていう連絡が来て。なんかちょっと跳ねてるぞ! っていう感覚はありました。

奈月 私もびっくりしました。舞台挨拶に行かせていただいた時にも、ファンの方とか、「痴人の愛」が好きな方が集まってくださっているのは分かっていたんですけど、舞台挨拶がない日にも行列ができていたみたいで、それをSNSで見た時はもう、びっくりしたし、うれしかったです。

――しかも、初主演作です。
奈月 本当にうれしいです。舞台挨拶では、池袋や横浜の方にも行かせていただきましたけど、場所ごとに来てくださるお客さんの層がちょっと違っているのは、面白いというか、新しい発見でした。

――そういえば奈月さんは、ステレオサウンドONLINEのインタビューで、ナオミ役に選ばれた理由は聞いていないと仰っていました。監督、奈月さんのキャスティング理由を教えていただけますか。
井土 そもそも、ナオミって難しいじゃないですか。かつて流行語になるぐらい知名度のある人ですから。実際、この企画が始まった時には、誰がナオミをやるのかについては考えていなかったんです。製作会社のレジェンド・ピクチャーズさんといろいろと打ち合わせをしている時に、こういう人が候補に挙がっている、といくつか宣材写真を受け取って。そうしたら、奈月さんのプロフィールに「グラビア界の至宝」って書いてあるんですよ!

奈月 えっ、そんなこと書いてあるんですか!

井土 グラビア界の至宝か、と思って(笑)。で、実際にお会いすると、こちらが緊張するぐらいのフォルムで! 同じ人間とは思えないフォルムの人が来たっていう感じでしたよ。なかなか、本人の前で褒めにくいんですけれども、あとは声が良かったんです。少しハスキーっぽい感じで、艶もある。だからもう、即決でした。

奈月 私も、初対面の時はものすごく緊張していました。気合も入っていたので、肩にパットを仕込んでみたり……。言われてみれば少し威圧感のあるフォルムで行ったかもしれないです。

――それが利いたのかも。
井土 そうそう(笑)。

画像1: 井土紀州監督の入魂作『痴人の愛』のDVDリリースを記念した舞台挨拶が5月9日に開催。ナオミ役「奈月セナ」も登壇

――ナオミに決まっての感想は?
奈月 ナオミにぴったりだって仰ってくださるんですけど、結構、自分は理性的な方だと思っていたので、原作から感じるナオミが私にぴったりなのか……って、ずっと思っていました。

――よく、ご自身のことを頑固と仰いますね。
奈月 そう、頑固な方だし、一方でナオミは自分の思ったままに行動するタイプなので、(私って)そう見えるのかなぁと。

――今一度になりますけど、そうした自分とは正反対(?)のナオミの役作りについて教えてください。
奈月 監督から『Wの悲劇』のDVDをいただいて、それを繰り返し見ながら、まずは立ち姿とか所作からナオミっぽさを入れていくということをしていました。まあ、とりあえず堂々としていればしていればいいんだって感じました(笑)。おかげで、立ち姿を変えるだけで心持ちが変わるのを実感しました。

――『Wの悲劇』のポイントは?
井土 僕が1番大事だと思っているのは、ホン読みなんです。まずは、(台本の)読み合わせをスタッフ、キャストが集まってやるんですけれども、大西さんをはじめ、お芝居をやってきている人たちはもう、その段階からしっかりしているわけです。そんな中で奈月さんはどこか自信なさげに見えて。(ナオミとして)もっと堂々としていて欲しいんだけど、どこか探っているようなところを感じたんです。

 芝居って、内面を演じることも大事なんですけど、どこか型みたいなところもあって、その型をしっかりすれば、内面が充実してくることもありますから、『Wの悲劇』というか、三田佳子さんが演じる役柄を見て、その所作や立ち居振る舞いを感じてほしいとお伝えしました。

 奈月さんは勘がいいので、次にお会いした時にはそういう雰囲気になっていましたから、あぁ掴んでいるなって安心しました。

奈月 あとは『氷の微笑』のシャロン・ストーンも教えていただきました。

井土 もう傲慢なぐらいに堂々とした女性像を出したかったので、これぐらいやってくださいねっていうことでお伝えしました。

――ナオミの神々しいまでの雰囲気はそこから来ているわけですね。後半で、譲二に「証明してみせてよ」と迫る際の胆力には目を見張りました。
奈月 譲二が薬を飲んでいるのを、ただ見ているっていうシーンなんですけど、結構難しかったですよ。

井土 そうだよね。

奈月 そこでは、物への執着が変わるというか、無くなるっていうことを演技で表現するのが、すごく難しかったです。

井土 ナオミは冷ややかに(譲二を)見つめているだけですからね。その姿を煽りで撮っているので、より超然とした雰囲気が出たと思います。

――その後で、犬といるナオミに譲二がすがりつくシーンは、ナオミが菩薩に見えました(笑)。
井土 素晴らしい。

奈月 うれしいです。

――今回の取材に向けて、作品をもう一度鑑賞したところ、奈月さんの目の動きがすごく気になりました。
奈月 本当ですか?

――特にスナックのシーンで、喋る時の間とか、ちょっとした目の動かし方が印象的でした。
奈月 そう言っていただけるとうれしいです。

――特に気を付けたところはありますか?
奈月 スナックのシーンに関して言えば、あの日はすごく緊張していたので、その中で生まれたものかもしれませんけど、後半は、相手に合わせないように、自分のタイミングでというのは考えていました。

――そうした雰囲気から、周囲の男たちを振り回していくさまがより強く感じられましたけど、一方で甘える仕草・表情もよかったです。
奈月 特に譲二の家のシーンでは、譲二目線では可愛らしさがありますから、そのギャップが観てくださる方にどうやったら伝わるんだろうっていうのは、結構考えていました。

画像2: 井土紀州監督の入魂作『痴人の愛』のDVDリリースを記念した舞台挨拶が5月9日に開催。ナオミ役「奈月セナ」も登壇

――お風呂場のシーンでは急に甘えますよね。あれは監督の指示?
井土 そのシーンには実は裏話がありまして……。撮影スケジュールの関係で、二人の濡れ場の前に撮っているんですよ。

奈月 結構、最初の方でしたよね。

井土 いくらお芝居とは言え、そういう過程(濡れ場)を経てきた関係だったら、お互いに照れがなくなると思うけど、お風呂が初めての裸のシーンでしたからね。奈月さんもそうだったけど、大西さんも照れちゃって。

奈月 照れていましたね。

井土 しかも、風呂場だから狭くて、お二人とカメラマンしか入れないので、僕は僕で、細かく指示を出そうにも出せなくて(入れなくて)……。「痴人の愛」では鉄板のシーンなので、なくてはいけないと思ってやりましたけど、なかなかたいへんでした。

奈月 基本的に静かな空間に3人しかいなかったから、それがなんかこう余計に緊張を煽ってきて……。完成した映像を見ても、あっ、これはまだ(二人の)関係ができてない感じするって思いました。

――今回DVDがリリースされますから、逆に何度も再生できる、と。
奈月 逆に推したくなります。

――ナオミ続きでお聞きしますが、衣装にもかなり監督のこだわりが反映されている、と。
奈月 はい、何着か用意してくださったのですが、どれも奇抜で、見たことのないような柄だったり、ラメやスパンコールが入っていたりして、ナオミってこういう服を着る性格をしているんだって、結構、役柄が分かりやすくなった感じはありました。

――ナオミの衣装って、60~70年代に流行った服、というイメージがあります。
井土 谷崎については研究が行き届いていて、衣装に関する本も結構あるんですよ。僕もそれを見て研究していて、スタイリストさんに写真を見せて、こういう柄に近いワンピースをお願いします、と伝えて用意してもらっているんです。

画像3: 井土紀州監督の入魂作『痴人の愛』のDVDリリースを記念した舞台挨拶が5月9日に開催。ナオミ役「奈月セナ」も登壇

 一番(作品のイメージに)近かったのは、最後の劇中劇の中でナオミが着るストライプ柄っていうんですかね、あの独特な衣装なんです。一番谷崎っぽいって思いました。これはもう、スタイリストさんのセンスです。最初見せられた時には、“これ着るの?”って思ったけど、それを着こなせちゃう奈月さんのスタイルのよさに衝撃を受けましたよ。

 あとは、ラストで来ている真っ赤な服。あれもスタイリストさんが絶対着てほしいって言うんだけど、さすがに着せるシーンがないなって思っていたら、カメラマンの田宮さんが、“最後のところで着てもらいましょう”って言うので、やってみたらぴったりはまって。

奈月 本当に、すごく奇抜でした。

――さて、話を少し変えますが、今回の脚本は『卍』も担当した小谷香織さんが書いています。監督からなにか指示はありましたか?
井土 小谷さんと僕は、本当に長く一緒に勉強会をやってきているメンバーなんです。他のメンバーがどんどんシナリオの仕事をやっていくなかで、彼女はくすぶっていて。昔、新人賞を獲っているんですけど、それ以降がね。

――ある意味、譲二に近い
井土 あっそうそう、まさに彼女自身を投影しているんです。

――そうなんですか!
井土 彼女は10年以上前に賞を獲っているんですけど、それ以降はシナリオを書いても形にならなくて。僕もいろいろと仕事を紹介しているんですけど、なぜか映像化されるまでいかないんですよ。

――彼女の中で何か変わったのですか?
井土 僕の側の視点で言うと、これはツキとか運の話になりますけど、今回の制作会社であるレジェンド・ピクチャーズの社長に企画を出してほしいと言われて、3本持って行ったんです。一つは今は売れっ子になった人と書いた企画、一つは僕が自分で書いた企画、そして3本目が小谷さんと作った『卍』の企画なんです。そうしたら社長が、“あっ卍があった。じゃあ、それをやろう”っていう流れになって。そこで、プロットを作った小谷さんを紹介したら、女性の視点でエロスを書けるところを気に入られたようで、その流れで今回の『痴人の愛』もお願いすることになったんです。

 最初は悩んでいたようですけど、“自分の経験を入れてみたら”ってアドバイスしたら吹っ切れたみたいで、シナリオ講座の設定を入れたりして、一気に書き上げていました。

――すると、彼氏に振られた怒りを脚本にぶつけている女性とかにも、小谷さんが反映されている?
井土 彼女の経験らしいですよ(笑)。いろいろなところに彼女が投影されているそうです。

――医者になるのを挫折した人も?
井土 そうそう、彼も昔一緒の講座にいた人らしくて、今回脚本をまとめるにあたって取材したそうです。初日に観に来てくれたのでご挨拶しました。

――面白いですね。あと、譲二の部屋の小物は、監督の私物が使われていると聞きました。
井土 本はそうですね。谷崎関連の書籍は、ちょうど「卍」の映像化を考えていた頃に、パタッと仕事が無くなった時期があって、暇なこともあって、谷崎の本を読み漁って、その勢いで研究書とかも読みだして、最後には谷崎論が書けるなっていうぐらい読み込んだので(笑)、膨大な冊数になってしまったんです。置き場所に困ってかみさんの実家に避難させておいたら、「卍」「痴人の愛」をやることになって。それで実家から引き揚げてきたんですけど、それも終わって今は、手元に数冊を残して、かみさんの実家に戻しました(笑)。

――さて、いよいよDVDがリリースされますが、お二人が好きなシーン、あるいは何度も見てほしいと思うシーンをお願いできますか。
奈月 私が好きなシーンですか……。まずは、さきほど褒めていただいたお風呂場のところを、ぜひ見ていただきたいですし、あとはやっぱり、譲二とナオミの関係が変わる“馬になれ!”のところにも注目していただきたいです。

――2度目(終盤)の方が、より迫力が増しているように感じました。
奈月 本当ですか! ラストの方は1番最後に撮っているんです。だからもう、全部を吐き出すように演じていたからかもしれないです。

――監督はいかがですか?
井土 そうですね、僕が観たいのは、やはりカレーを食べた後の変化ですね。そこでナオミが譲二に、“私のために生きてみる”って投げかけて、譲二が“えっ”って振り返って、そこから“ごっこ”に入っていく。そこがすごく好きなんですよ。つまり、僕らがやっていることって、劇の中、フィクションの中に俳優のみなさんの、その時の生の感情とかが出てくるじゃないですか。でも、そうじゃなくて、日常とか生活の中に演技が入ってくるという、そういうのがすごく好きなんです。

 それからもう1つありまして、最後にナオミが姿を消した後、譲二がさすらって、お店(バー)に行って、村田さん演じる椿先生から一喝されて、自分の部屋へ戻って(脚本を)書き始める。その時に時間経過の表現として、本棚にあるシナリオ関係の本がバーっと映るところ。その流れがすごく好きなんですよ。

 なぜかと言えば、僕らは作り手でもあるけど、ファンでもあって、脚本とか映画のファンとして生きてきた時間があって、譲二も長らくシナリオのファンで、脚本家や映画監督のファンとして生きている。そういう人生を背負いながら書かなきゃいけない辛さというか、俺みたいなやつが書いている。そういうのは、脚本にはなかったんだけど、撮影の田宮さんが実景として撮ってくれて、結構グッときますね。映画を観ながら、そうだよ、お前頑張れよ、お前、こんなに脚本読んでいるじゃないかっていう、そういう雰囲気が感じられるんです。

――僕自身も書き手として、締め切りには苦い思い出が多いですね。実際に間に合わない、できないということはあるものですか?
井土 あります、あります、本当にありますよ。やっぱりね、(締め切りを)待ってくださいっていう時の、敗北感というんでしょうか、それは忘れがたいものがありますよ。

――連絡がつかなくなる人もいる、と聞きました。
井土 あっ、それはやったことないんですけど、勉強になったのは、“すみません1日待ってください”じゃ、(脚本って)できないんですよ。“3日待ってください”にしないとできないんです。だから3日待ってくださいと言って、2日ぐらいで終えて早く出して、“思ったより早かったね”と言われたほうがいいじゃないですか。常に締め切りとのせめぎ合いですよ。

 だから、脚本家としての苦労が詰め込まれているシーンなので、好きなんです。

――実際に、村田さんの演じた椿先生のような方がいらっしゃった?
井土 特にないですね。ただ、同世代の方なら分かると思いますけど、藤子不二雄(A)さんの「まんが道」が好きで、少年時代からよく読んでいるんですけど、テラさん(寺田ヒロオ)っていう漫画家が出てくるんです。藤子不二雄の二人が締め切りを落としまくってもうダメだっていう時に、そのテラさんから、“君たちの漫画にかける情熱はそんなものだったのか”って檄を飛ばされるっていうシーンがあるんです。もうね、それを思い出しながらやりました。

――ちなみに、往年の邦画では、監督と女優さんが二人三脚で次々と名作を生み出していく、という流れがありました。
井土 いやぁ、僕はもう、ぜひやりたいと思ってますよ。こんな逸材はそうそういませんから。

奈月 本当ですか! またご一緒できたらうれしいです!

井土 次やるのなら、奈月さん自身が気持ちごと投げ込んでいける役にしたいですね。奈月さんはこういう人なんだけど、あんな芝居もできる! そういう作品にしたいです。

画像4: 井土紀州監督の入魂作『痴人の愛』のDVDリリースを記念した舞台挨拶が5月9日に開催。ナオミ役「奈月セナ」も登壇

――『奈月の微笑』でしょうか。
奈月 足組んじゃっていいですか。

井土 ぜひ、組んでください(笑)。企画段階から参加してもらって、じっくり作り込みたいですね。

――それも含めて、今後の目標はありますか。
奈月 今回、すごく大きな経験をさせていただいたので、この経験を無駄にしないように、自分でもお芝居の力を磨きながら、いろいろな作品にチャレンジをしていきたいと思っています。

――ちなみに、監督は別のインタビューで、スクリーンに映った女性に恋してしまうという発言がありましたが、その意中の女優さんはどなたなのでしょう。
井土 いっぱいいますけど(笑)、初恋は『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子さんですね。当時、僕の周囲で映画を観に行った奴らは、全員やられてましたよ。あとは、フィービー・ケイツとかですかね(笑)。

――さて、少し話を飛ばしますが、お二人とも音楽がお好きという共通点があります。その始まりを教えていただけますか。
井土 ステレオサウンドONLINEの奈月さんのインタビュー記事を拝見して、奈月さんってソウルとかブラックが好きなのか、いつか音楽の話をしたいと思っていたので、その質問は本当にうれしいですね。

 僕の世代だと、中学時代を過ごした80年代は、洋楽のヒットチャートが全盛期だったこともあって、その中でホール・アンド・オーツ(ダリル・ホール&ジョン・オーツ)の「プライベート・アイズ」っていう曲にはまって、そこから過去のアルバムに遡ったり、彼らのルーツであるソウルミュージックに出会っていきました。

 ほぼ同時期に、RCサクセション・忌野清志郎さんにはまって、それもソウルミュージックにのめり込んでいくきっかけだった思います。

 その後、高3の時に、鈴木啓志 氏の「R&B、ソウルの世界」っていう本が出て、レコードガイドもたくさん載っているし、いいなと思って、当時それを熟読して、そこから系統立ててブラックミュージックを聴くようになったという感じです。それこそ、のめり込むように聴いていました。

奈月 私はまず、レコードを好きになったきっかけが父の影響なんです。山下達郎さんが大好きで、旅行に出かける時とかに車の中でよく流していたので、それが大人になっても記憶に強く残っていて。久しぶりに、あの時の感じを味わいたいなと思ったのがきっかけで、レコードを集めるようなったんです。

 レコードって、音が温かく聞こえるのが魅力で、それを知ってくうちに、いろいろなレコードバーに通うようになったり、クラブに行くようになって。

 そこでは、ダイアナ・ロスだったり、シェリル・リンとか、ブラン・ニュー・ヘヴィーズとかの曲がよくかかっていて、そこから、洋楽を知る・聞くようになっていきました。その後、静かに音楽を聞ける場所に行くようになって、そこでかかっていたブラックミュージックとか、しっとり系のアイズレー・ブラザーズとかを知るようになって、好きになった、という流れですね。

――山下達郎さんからソウル・ブラックミュージックに行くんですね。
奈月 そう、いろいろな流れがあって、最終的にそこへ辿り着いた感じです。

――今も現役の方の名前がいっぱい出てきて、嬉しいですね。歴史のあるグループも多いので、それが若い人に聞き継がれているのは、素晴らしいことだと思います。監督の中で、音楽に特化した映画を撮りたいという想いはありますか?
井土 やりたいですね。僕は、映画よりも音楽の方が(好きになったのは)早いですから。音楽ファンであり、映画ファンでもあり、文学のファンでもあったりするので、音楽ファンの映画がいいなと思います。『ハイ・フィデリティ』(映画 2000年)とか大好きですよ。

――奈月さんは、山下達郎さんのレコードはお持ちなのですか?
奈月 実は、私がレコードを集め出した時もう、達郎さんのLPってすごいプレミアがついていたので、結局買えなくて……。

――海外でも人気があって、アジアの方ではガンガン売れているようです。
井土 僕もそうだけど、日本人って帯をきちんと残しておくとか、綺麗に保存しているから、それもあってプレミアがついているみたいですね。

奈月 私はスリーブに綺麗に入れるのが苦手で……。端っこが折れてしまったりするので、あまり綺麗な保存にはなっていないんですけど。

――お二人が音楽好きになった流れが分かって、なかなか興味深かったです。ちなみに、どんな時に、どんな曲を聴いているのかも教えていただけますか。
井土 僕はSNSに「ロック三昧」っていう文章を投稿しているんですけど、もともとは、撮影が終わって疲れ果てている時に、ニック・ロウのLPをしみじみ聴きながらコーヒーを飲んで、今日はニック・ロウを聴いてますって、CDジャケットの写真を投稿したら思いのほかバズって! 井土さんってニック・ロウを聴くんですか? とか、それ名盤ですよね、っていう返事がきて、SNSってこういう楽しみがあるんだって気付いたんです。

 それまでは、作品の宣伝ぐらいにしか使っていなかったんだけど、それ以降は気が向いた時に今日はこれを聴いていますという感じで、ジャケットとコーヒーを投稿するようになって、レスを読むのが楽しみになりました。仕事とは違う生きがいが見つかったみたいで、毎日“今日の1枚”っていう投稿を続けているんです。

 まあ、やり方は決まっているので、無限に続けられるんですけど、ヘビーユーザーとしてお世話になっていたレンタルCD屋さんがなくなってしまって……。手持ちでやると、幅が狭くなってしまうなっていう感じです。

奈月 私は、お酒を飲んで酔っ払って帰る時によく、ディスコ系の曲を聴いています。この間は、ジョージ・ベンソンを聞きながら帰っていました。あとは、穏やかな休日のお昼に、カーテンとか窓を開けて、まあソウルじゃないんですけど、ノラ・ジョーンズを聴く。これはもう(休日の)決まりです。夜は、余裕のある時は、ソウルのビル・ウィザーズとか、クインシー・ジョーンズとか、アイズレー・ブラザーズを聴く、というように、時間帯――ゆっくりしたい時、目覚めたい時、寝に入りたい時――で分けています。

――眠くなるんですか?
奈月 ふわ~っといい夢が見られそうな、心地よい感覚になったら曲を止めて寝る、みたいな健康的な聴き方ですね。

井土 エンタメ系の情報誌で「奈月セナの今日の一曲」っていう連載ができそうですね。そうだ、奈月さんの好きな曲を集めてプレイリストを公開したり、5月9日(金)の舞台挨拶の時に、セレクト曲をBGMで流すとか、いいと思う。

奈月 いやぁ、ちょっと待ってください(悩)。こういうお話をするのは大好きなんですけど、結構、ラジオ番組に呼んでいただいての対談の経験もあるのですが、お相手がもう大御所の方過ぎて! もう緊張してしまってきちんとお話できなくなってしまうので、あまり言うのを控えていたんですよ。

――監督との音楽談義の模様を、映像配信したら面白そうですね。
井土 そうそう、奈月さんが曲のセレクトとメインパーソナリティをやって。

奈月 やりたいです! けど、そうやって話が大きくなってしまうので、これまで恐縮すぎてなかなか言えなかったんですよ。最初にお仕事した時のお相手がテイ・トウワさんだったんです。ファンだったから、とにかく緊張しまくってしまって……。

井土 僕は、原田さんの著書『コテコテ・サウンド・マシーン』の愛読者でもありますから、今日こうして原田さんにお会いできたことが何よりうれしいですし、次は、原田さんを交えて音楽談義をもっと深めていきたいですね。

――本を読んでくださって、ありがとうございます。胸がいっぱいです。想いが届いて、うれしいです。
井土 今日、映画の話もできたし、音楽の話もできたし、うれしかったです。あとは5月9日(金)の舞台挨拶にたくさんの方が来てくれることを祈っております。

奈月 ありがとうございます。私も楽しかったです。そして、5月9日(金)の舞台挨拶に、たくさんの方に来ていただけたら、もうそれは今一番の幸せです。よろしくお願いします。

――ありがとうございました。

DVD『痴人の愛』商品情報
【発売日】2025年5月9日(金)
【価格】¥4,180(税込)
【映像特典】
・予告編
・フォトスライドショー
発売元:レジェンド・ピクチャーズ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
(C)2024「痴人の愛」製作委員会

舞台挨拶情報
日時:2025年5月9日(金) 19:30~上映 上映後舞台挨拶
劇場:池袋・新文芸坐
料金:一般1800円 各種割引1400円
   5月2日より販売開始
登壇:井土紀州監督、奈月セナ
※当日劇場にてDVD、パンフレット販売あり

●「痴人の愛」 公式サイト
https://www.legendpictures.co.jp/movie/chijinnoai/

●「痴人の愛」 公式X
https://x.com/naomi_2024x

●池袋・新文芸坐
https://www.shin-bungeiza.com/

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