映像のデジタルリマスターと音声のドルビーアトモス化により、映画『セッション』は見事に甦った。 作品の内容については改めて触れるまでもないが、音楽学校でドラムを専攻する学生のニーマン(マイルズ・テラー)と、完璧を求める教師役のフレッチャー(J・Kシモンズ)の鬼気迫るレッスンが描かれている。
この作品が劇場公開された2014年の時点ではドルビーシネマでの上映環境はなく、ドルビーアトモスもようやくスタートしたばかりだった。それから10年、今回の『セッション』はハイコントラストな映像とイマーシブオーディオを得て、より一層気迫に溢れる作品に仕上がっている。監督のデイミアン・チャゼルが、なぜ映像のリマスターと音声のリメイクをおこなったのかはわからないが、『ラ・ラ・ラ・ランド』のフィルム撮影、4K上映のパフォーマンスを『セッション』にも当てはめてみたいと願うのは自然な欲求だろう。

今回は本作のデジタルリマスター版を東京・浜松町にあるIMAGICAの試写室でチェックした。そこでの上映は、4Kデジタル映像とドルビーアトモス音声の組み合わせである。
オープニングのドラムの練習シーンの絵は少し甘めで音のレンジ感も狭く、やや古い映像のような印象だったが、ここは敢えてそうした仕上げにしているのだろう。映像は徐々に美しさを増し、音も鋭く剛性感が高まっていく。デイライトのシーンはピーク感もよく出ているし、室内や夜間のシーンではノイズの浮きも少なく、暗部の階調をていねいに描き出すので、造形や所作までよくわかる。
ドルビーアトモス音声についても過渡な演出はなく、自然な感じを大切にしてこの器を使いこなしている。ダイアローグはシーンによってはややタイト印象もあるが、全体として聞きやすく会話劇をうまく盛り立てているように感じた。
ドルビーアトモスの効用は室内空間の広がり感などによく現れているが、もっともダイナミックに使われているのは、ニーマンがレンタカー屋に忘れたステックを取りに行って交通事故にあうシーンで、トラックが車の側面に突っ込んでくるところだ。この衝撃はまさにインパクト大であり、後半のハイライト、9分にも及ぶ狂気の演奏シーンへとつながっていく。

今回、この作品の音楽を担当したジャスティン・ハーウィッツにドラムの音の扱いについて質問したところ、興味深い返事が返ってきた。なんでもデイミアン監督自身がドラマーで、彼の経験に基づいた作品に仕上げるため、ドラムソロに関しては何度もレコーディングを繰り返し、そのサウンドをシーンに当てはめたということだ。
そのため、ラストで演奏される「キャラバン」やオリジナルの楽曲ではアンダースコアを作る作業がたいへんだったという。基本的にビッグバンドの楽器の音色をベースに、ゆっくりにしたりサステインしたりして、ニーマンの頭の中で回っているようなイメージで作ったというが、こうした音の扱いがドルビーアトモス音声においてより没入感を発揮している。
ラスト9分のバトルはドルビーアトモス音声によって、ようやく監督のイメージ通りになったのかもしれない。そして劇場の中、観客の頭の中で狙い通りのドラムが鳴り響くようになったと言ってもいいだろう。本作は音楽の姿を借りた “スポコン物語” だが、今回の映像と音声の刷新により、これまで以上にテンション漲る作品になっている。
『セッション デジタルリマスター』(4月4日より全国公開)

●監督・脚本:デイミアン・チャゼル●出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ●音楽:ジャスティン・ハーウィッツ●撮影:シャロン・メール●編集:トム・クロス●録音:クレイグ・マン、ベン・ウィルキンス、トーマス・クルーレイ●提供:カルチュア・エンタテインメント、ギャガ●配給:ギャガ●原題「WHIPLASH」●2014年アメリカ映画●カラー●シネスコ●ドルビーアトモス
『セッション デジタルリマスター』4/4(金)Fu●k'n Tempo! 公開
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