Qobuzを核に本気でネットワーク再生に取り組みたい方に恰好の高音質プレーヤー

 ルーミンは香港とロサンゼルスに拠点を持つPixel Magic System Limited(2003年設立。以下Pixel社)傘下の高級オーディオブランドだ。まず、その沿革について触れておく。

 Pixel社は設立当初、ビデオ配信システムやメディアプレーヤーなどを開発する映像機器がメインのメーカーだったが、2007年にリンから高音質を訴求する本格ネットワークオーディオプレーヤーKLIMAX DSが登場、これからのHi-Fiオーディオの主流はこのかたちになるだろうと予測し、Pixel社はそのリサーチを始める。

 2010年にDSDファイルが登場するが、その時点ではリンをはじめそれに対応する高級ネットワークプレーヤーが存在しなかった。そこに目を付けた同社は「LUMIN(ルーミン)」ブランドを立ち上げ、2012年にDSDファイル対応のA1を発表する。実際に使ってみて「音は良いけど、デザインがリンKLIMAX DSにそっくりで、なんか残念……」とぼくは当時そう思っていた。その後、高音質ストリーミングサービスTIDALが採用したMQAフォーマットに対応したり、専用操作アプリの完成度を上げたりとルーミンは目覚ましい進化を遂げる。TIDALのMQA音楽ファイルを試したかったぼくは、ネットワークトランスポートのルーミンU2 MINIを導入したのだった(現在はU2を愛用中。なお、TIDALはその後MQAフォーマットでのハイレゾ配信をやめ、FLACに1本化した)。

 そういえば一度、ルーミンの技術部長のリー・オンさんとセールス・マーケティングの責任者アンガス・リューさんが香港からうちに来てくれたことがある。二人ともたいへんなオーディオマニアで、1950~1960年代のデッカ録音のすばらしさについて語り合い、とても充実した時間を過ごすことができた。(余談ですが)リーさんは日本のアイドルにめちゃ詳しく、日本語も少ししゃべるオタクくんでした。

 さて、今般ルーミンの中核となるネットワークプレーヤーT3がモデルチェンジ、T3Xの型番で発売が始まった。じっくりとその実力をチェックしたので、詳細をお伝えしよう。

 

画像1: 『LUMIN T3X』注目モデルで聴くQobuz《ネットワークプレーヤー編》

Network Audio Player
LUMIN
T3X
¥858,000 税込

(スペック)
●型式:ネットワークオーディオプレーヤー
●接続端子:デジタル音声入力2系統(USB Type A×2)、アナログ音声出力2系統(RCA、XLR)、デジタル音声出力1系統(BNC)、LAN端子2系統(RJ45、SFP)、ほか
●主な対応ストリーミングサービス:Qobuz、Spotify、TIDALほか
●対応アプリ:LUMINアプリ
●備考:Roon Ready対応、AirPlay対応
●寸法/質量:W350×H60.5×D350mm/6kg

●問合せ先:完実電気(株)サポートセンター TEL. 050(3388)6838

 

 

処理能力向上、リニア電源の採用、SFPポートの新設が進化ポイント

 T3Xの最大の進化のポイントは、信号処理を司るFPGAの処理能力を向上させ、マシンスペックを上げたこと、電源回路がスイッチング電源からS/N面で有利なアナログ・リニア電源に変更されたこと、そして光ファイバー接続にも対応できるSFPポートを搭載したこと、その3つである。フロントパネルをスラントさせたCNC切削加工のコンパクトな筐体やESSテクノロジー製DACチップの採用はそのままに、である。

 シールドされた電源部は、カスタムメイドのトロイダルトランスを搭載した低ノイズ回路で、基板上にはノイズ対策を入念に施したレギュレーターを配置している。DAC素子はES9028Pro。ダイナミックレンジの向上が図れるように、これを2基用いたデュアル・モノーラル構成としている。アナログ出力はXLRバランスとRCAアンバランスがそれぞれ1系統用意されている。

 

画像2: 『LUMIN T3X』注目モデルで聴くQobuz《ネットワークプレーヤー編》

バランス/アンバランスのアナログ音声出力のほか、BNC同軸デジタル出力やUSB Type A端子を装備。USB端子は、HDDなどの音源を格納したストレージを接続してダイレクトに再生できるほか、外部DAC連携用のUSBデジタル音声出力端子としても活用できる(2系統あるので併用も可能)。LAN端子も一般的なRJ45ポートのほか、SFPポートも備わる。後者は汎用のSFPモジュール/光ファイバーケーブルを使った光接続も可能で、電気/光変換によりネットワークに関わるノイズの抑制効果が期待できる

 

画像3: 『LUMIN T3X』注目モデルで聴くQobuz《ネットワークプレーヤー編》

ハイグレードオーディオコンポーネントらしく、空間的に余裕を持った回路の配置を行ない、できるだけ相互ノイズの干渉がないように配慮されている。写真左側には、強固なシールドが施されたリニア電源を搭載。DACチップはESSテクノロジーのES9028Pro SABREをデュアルモノーラル構成として2基(メイン基板の右側にある正方形の2つのチップ)搭載。その後段には、出力端子に沿って、フルバランス構成の回路をスムーズに構築しているのがわかる

 

 

画像4: 『LUMIN T3X』注目モデルで聴くQobuz《ネットワークプレーヤー編》

ルーミンの現行ラインナップを整理してみた。DAC回路を内蔵した「プレーヤー」が5製品、DACレスの「トランスポート」2製品がネットワークオーディオおよびストリーミング再生に対応している。それ以外にステレオパワーアンプとサーバー兼ハブが用意されている

 

 

Qobuzの高音質を赤裸々に表現し、その凄さと魅力を教えてくれる

 バッファロー製のネットワークスイッチ(ハブ)BS-GS2016/Aに本機のRJ45端子を用いてLAN接続、まずXLRバランス出力を本誌リファレンスのプリメインアンプ、デノンPMA-SX1 LIMITEDと接続し、Qobuzのハイレゾファイルを聴いてみた(下図)。スピーカーはHiVi視聴室の新たなリファレンスとなったBowers & Wilkins 802 D4である。

 

画像5: 『LUMIN T3X』注目モデルで聴くQobuz《ネットワークプレーヤー編》

T3Xは多彩な接続が可能であり、様々なパターンでQobuz再生を行なった。①音声出力のXLR/RCAの比較、②音量調整機能を活用したプリ出力の再生(LEEDH PROCESSING DIGITAL VOLUME CONTROLのオン/オフの比較)、さらにデラから発売されている光絶縁用オプションセット(OP-S100とOP-SFP。)を用いて、ネットワーク接続の光絶縁効果をも試した

 

 

 iPadにインストールした「LUMIN」アプリを用いて、「Qobuzおすすめ楽曲100」内でご紹介したQobuzの最新ジャズ音源でテストしたが、何を聴いてもその音楽の魅力を浮き彫りにしてくれるすばらしいサウンドが聴け、おおいに満足した。

 ちなみに本機T3Xは、アナログ音声の出力レベルを「通常」と「低」の設定が可能。両方を聴き比べてみたが、「通常」だと出力レベルが大き過ぎる印象で、PMA-SX1 LIMITEDとの組合せでは「低」設定にしてSX1側のボリュウムで最適音量を得るほうがよいと判断した。

 ジェイミソン・ロスの「ドント・ゴー・トゥ・ストレンジャーズ」(96kHz/24ビット)。彼の体格の良さを実感させる力感を伴なった艶々とした歌声が心に沁みる。間奏のピアノ・ソロは響きに芯があり、粒立ちがとても良い。

 リズ・ライトの「SPARROW」(96kHz/24ビット)は、胸を深々と鳴らす彼女のゴスペル・タッチの強靭なヴォーカルが真に迫った感じで再生され、このネットワークプレーヤーの実力の高さを思い知らされた。

 話題の若手女性ジャズ・シンガー、サマラ・ジョイの新作アルバム『Portrait』(96kHz/24ビット)から「ア・フール・イン・ラヴ」を聴いたが、テナーサックスが艶やかに響き、各楽器が奥行を伴なって立体的に定位する。若々しく、清潔な色気を醸し出すサマラちゃんのヴォーカルの質感も好ましい。

 韓国人ジャズ・シンガー、ユン・サン・ナの優秀録音の誉れ高い『Voyage』(88.2kHz/24ビット)からふるいアメリカの伝承歌「Shenandoah」を聴く。静寂からスッと立ち上がるヴォーカルの実在感に驚かされる。ベースはふっくらと柔らかく、ナイロン弦のギターがすべらかに響く。アタックと余韻のバランスも文句なしだ。このニュアンス豊かな再生音こそが、高S/Nを指向して完成度を上げた本機の実力の高さを物語るものだし、一方で高音質ストリーミングサービスQobuzの凄さを教えてくれるものだと思う。

 本機のバランス出力とアンバランス出力の音も比較してみた。バランスのほうが出力音圧レベルの高いプレーヤーが多いが、本機は同じレベルに揃えられている。音調はわずかに異なり、アンバランスのほうが少しスレンダーな音像となり、バランス出力はラウドネスが効いたかのような聴き応えのある音調になることがわかった。ぼくの好みはバランス出力である。

 ところで、T3Xには「Leedh Processing Volume」という高音質を訴求するデジタルボリュウムが搭載されているので、本機のプリ出力の音質を検証してみよう。T3Xの出力を可変ボリュウムに設定、PMA-SX1 LIMITEDのExt Pre端子に繋いでの再生だ(図の②)。

 ロンドン出身のジャズ・ドラマー、ユセフ・デイズの最新作(48kHz/24ビット)でLeedh Processing Volumeのオン/オフを試してみた。オンにするとトランジェントが向上するのだろう、手数の多いユセフのドラミング、そのアタックがより鮮明になる。加えて音感がワイドに広がる効果も実感できた。ただし、T3Xを固定出力にしてPMA-SX1 LIMITEDで音量調整した音と比較すると、ぼくは固定出力のほうに軍配を上げる。音の勢いとか力強さ、コクといった点で好ましく感じられるからである。

 

LUMIN(ルーミン)は、ネットワークオーディオプレーヤー/トランスポートづくりを先駆的に行なってきた実績があり、その成果は非常に使いやすい「LUMIN」アプリに現れている。iPhone用、iPad用、Android用、Mac用がそれぞれリリースされている。スマホ用とタブレット用では画面面積の違いにより、レイアウトは異なるが、●ブラウズ(選曲関連の楽曲情報)、●プレイリスト(選択済の楽曲キュー)、●再生中画面(再生楽曲情報および機器操作)の3要素がわかりやすく配置されている。アイコンなどで機能が要領よく整理/表示されており、マニュアルなどを参照せずとも、感覚的な操作を受け付けてくれる(写真左)。表示設定(写真右)などの様々なカスタマイズが可能なのもポイントとなる。また、その3要素以外にも、機器設定もLUMINアプリから行なう流れだ。写真はiPhone用アプリの画面となる

 

画像8: 『LUMIN T3X』注目モデルで聴くQobuz《ネットワークプレーヤー編》

こちらはiPad用アプリの画面。面積が大きくなったことで、ブラウズ/プレイリスト/再生中画面の3要素が非常にわかりやすくなっている

 

 

ネットワークオーディオの高音質を真摯に追求するなら間違いなく安い

 次にデラOP-S100(光メディアコンバーター、光トランシーバー2個、光ケーブルで構成される製品)を用いて、SFPポートを備えたバッファローのハブBS-GS2106/Aに光トランシーバーを挿し、OP-S100の光メディアコンバーターと光ケーブルで接続(1m)。メディアコンバーターとT3XはRJ45端子を用いた通常のLAN接続の音を聴いてみた(図の③)。ユン・サン・ナの「Shenandoah」、アカペラの休止符の静寂がより深くなり、ギターのアルペジオの響きに確かな芯が加わる印象に。また、ユセフ・デイズの多彩なドラミングがより鮮明に<見える>効果が実感できた。なるほど、SFPポートを活用した光絶縁効果は間違いなくある。

 今度はデラのOP-SFP(光トランシーバー2個と光ケーブルで構成)を用いて、BS-GS2106/AハブとT3Xの両方のSFPポートに光トランシーバーを挿し、ダイレクトに光LAN接続してみた(図の④)。先ほどの光絶縁効果に気を良くして試してみたのだが、音の鮮明さこそより強く実感できるが、今回の試聴システムでは音が細身に感じられ、いま一つぼくの好みの音ではなくなることがわかった。なぜかはわからないが、オーディオは音こそすべて。自分なりに実験を繰り返して、納得のいくシステムアップを実践すべきだろう。

 いずれにしても、Qobuzを中心にネットワークオーディオを真摯に追求してみたいという方にとって、本機T3Xは恰好の製品だろう。80万円台という値段が高いか安いかは人それぞれだが、この高音質が得られるなら、ぼくは間違いなく安いと思う。

 

 

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>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』

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