照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)が監督と脚本を手掛けた長編作『かなさんどー』が、1月31日の沖縄先行上映に続き、2月21日(金)より全国公開される。沖縄は伊江島を舞台に、一組の夫婦の愛のカタチを描いたヒューマンな作品。ここでは、過去の出来事によってずっと父親(悟:浅野忠信)を許せずにいる娘・美花を演じた松田るかにインタビューを実施。沖縄(伊江島)での撮影の感想から役作りまで、話を聞いた。
――『かなさんどー』に参加なさった感想をお聞かせいただけますか。
地元沖縄を舞台にした作品に出られるのは、とても名誉なことだと思いました。上京したときにはまず訛りを消す練習をしなければいけなかったので、その消そうとしていたものがこうして武器になって、しかも主演をやらせていただけることが本当に嬉しいし、光栄です。
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――脚本の第一印象はどんな感じでしたか?
この映画の元になった短編『演じる女』は見ていました。あのお話がどう膨らんで長編になるのかワクワクしながら台本を開いたところ、「人間がそれぞれ生き生きしているな」という印象を最初に抱きました。とてもスムーズにセリフをしゃべることができましたし、何のノイズを感じることなく演技できました。
――美花役を演じるにあたって、特に役作りで心がけたことは?
役作りといえるほどの役作りはそんなになくて……。なんというのでしょうか、脚本を見れば主人公がどんな人なのかというのはもちろん分かりますし、役作りに関しては何の苦労もなかったですね。ただ沖縄の民謡「かなさんどー」を歌うシーンが最後にあって、それは本当に難しかったのですが、そこは幼少期からずっと聞いていた音楽だったり、歌唱方法だったので、そこは沖縄の血が流れているんだなと感じました。
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――美花はとても感情の起伏が豊かですね。
最初に照屋監督が「美花(みーかー)は怒る時にはすごい怒るし、笑う時にはすごく楽しく笑う。それが美花の魅力だから、思いっきりやってほしい」と最初におっしゃって。特に泣くシーンとかは「僕らから“用意、スタート”って言わないよ。ちゃんと感情ができたと思ったら僕らに声をかけてね、それまでいくらでも待ってるよ」と言ってくださる感じでした。
――物語の中でお母さんに対する気持ちや、お父さんとの関係性がどんどん変わっていきますが、美花の心の移り変わりはどのように感じましたか?
美花は最後まで父親を許せてはいないんだろうなと、私は感じました。母が死んでずっと許せなかったのに、日記を見つけて「はい許せます」なんてことはないと思います。だったら多分もっと前に和解ができているはずですし、多分父のことは許せてないんじゃないか。でも、それ以上に母のことが大好きだったんだろうという感じですね。今、美花を妻と勘違いしている状態の父をこのままで看取ることは母への冒涜にもつながるわけじゃないですか。大好きな奥さんにすごく冷たい態度を取られて、そのまま父が息を引き取るというのは、亡くなった母にもすごく失礼なことなので。ただ、母を演じ続けているうちにきっと美花なりに、許せてはいないのかもしれないにしても、以前と同じ気持ちではなくなったと思います。
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―― 一歩踏み入ることができたからこそ、最後の歌のシーンが生きてきます。
あそこに行けなかったら歌えないでしょうね。多分、怒りながら許すっていうのもありだと。それは「許す」じゃなくて「受け入れる」に近いのかなって。もうこれは起きたことでしょうがないし、いつまで怒っていてもこの思い出が変わることはないし、受け入れるみたいなところに近かったのかなと演じていて思いました。
歌に関しては、「なるべく最初のテイクを録りたい」とおっしゃっていて、その前に何度も練習して、本当に夜も暗くて、目の前が海なので、視界にビルとか家屋とか現実に戻されるものが何もない。遠くから波の音とか、かすかに百合の匂いがしたり、本当に幻想的な中で、ちゃんと父を送れたなと思って歌いました。ところでこの前、作品を見て判明したのですが、歌の1番から使われているんです。私は「2番だけ使うから、気合い入れるのは2番からで大丈夫だよ」と言われていたのに(笑)。
――それもライブ感につながっていると思います。父親役の浅野忠信さん、母親役の堀内敬子さんといった先輩の役者さんと共演して、俳優として刺激になったこと、意識の変化はありましたか?
「どんなボールを投げてもいいよ」みたいな状態でお二人がいてくださったので、ほんとのびのびとやらせていただけて、素晴らしい現場だったなと感じました。約10日間の撮影の中で、ちゃんと親子になれたのは、このお二人のおかげです。
――その後ろには照屋監督もいるわけですね。
そうです。作品を子供のように愛している監督なので。要所要所で、ちゃんと台本に戻る作業を監督がしてくださったので、指標がブレることなく、みんなで同じ方向を向いて、ちゃんと作品作りができたなと感じました。伊江島に行くのも、撮影するのも初めてでしたが、照屋監督がおっしゃるには、「呼ばれたな」と思ったらしいんです。百合畑にしても、のどかな島の風景にしても、行かなければ撮れなかったですし、懐かしい気持ちにもなります。より、この作品が近く感じられるというか。
――最後に改めて、作品の見どころについてお願いいたします。
やっぱり最後のシーンですね。自分を亡くなった妻と勘違いした父をどうにかいい思い出のまま看取ってあげられないかと、母になりきって奮闘する主人公・美花の愛おしさがとても見どころだと思っておりますし、エンドロールにはシナプスが繋がるような仕掛けがありますので、ぜひ最後まで映画館で座って観ていただければと思います。
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映画『かなさんどー』
2025年1月31日(金)沖縄先行 / 2月21日(金)全国公開
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<キャスト>
松田るか 堀内敬子 浅野忠信
Kジャージ 上田真弓 松田しょう 新本奨 比嘉憲吾 真栄平仁 喜舎場泉 うどんちゃん ナツコ 岩田勇人 さきはまっくす しおやんダイバー 仲本 新 A16 宮城恵子 城間盛亜 内間美紀 金城博之 前川守賢 島袋千恵美
<スタッフ>
監督・脚本:照屋年之
主題歌『かなさんどー』 作詞・作曲:前川守賢
製作総指揮:福田 淳 製作:福永真里 藤原 寛 プロデューサー:石田玲奈 鳥越一枝 協力プロデューサー:金森 保 撮影:大城 学 照明:鳥越博文 録音:横澤匡広 美術:吉嶺直樹 装飾:梅原 文 ヘアメイク:荒井ゆう子 衣装:むらたゆみ 助監督:石田玲奈 フードスタイリスト:中村真琴 編集:初鹿紗梨 音響効果:佐藤祐美 DIT&データ管理:小野寛明 題字:おやまゆき 音楽:新垣 雄 歌唱指導:古謝美佐子 協賛:くらしの友 沖縄セルラー電話 沖縄タイムス 制作協力:キリシマ一九四五 制作プロダクション:鳥越事務所 制作:スピーディ 製作:「かなさんどー」製作委員会 配給:パルコ 宣伝:FINOR
2024年/日本/日本語/86分/G
(C)「かなさんどー」製作委員会
松田るか インスタグラム
https://www.instagram.com/imrukam/