音楽で言えば、ルバート(確たるビートを持たない)の状態が90分以上続く楽曲に接しているような感じだ。「空はこんなにも広いものなのか」と認識させられずにはいられない風景、最小限の言葉のやり取り、いささか穏やかだが予想のつかない展開。だが、そこに細やかな起伏があり、「エモーショナル」と呼ぶしかない状態へと観る者を引き込む。
舞台となっているのは、ノルウェーのオスロ。音楽ファンにとっては「レインボウ・スタジオ」や「タレント・スタジオ」との関連で親しみ深い土地かもしれない。息子を亡くしてしまった女性・アナとその父・マーラーが物語の焦点となる。まずこの男女が「夫妻ではなく、親子である」というところが物語の第一の鍵であるように私には感じられた。ある音が墓地から聞こえてくるように感じたマーラーは孫が埋められている墓を掘り起こし、なきがらを家に連れて帰る。そのころ、別の場所でも「亡くなっていたはずの者」が現世に戻ってくる出来事が起きていた。交通事故死したはずのひと、さっき葬儀が行われていたはずのひとが、今、ここに普通にいたり……。だが、その様子は、どうも生前のそれとは違うのだ。となると、生き残った者を覆うのは、「死んだ人が生き返ってくれた喜び」よりも、ひたすら、「不気味さ」である。
原作・共同脚本はヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト(2005年発表小節の映画化)、監督・共同脚本はテア・ヴィスタンダル(これが長編デビュー)で手掛けた。主演は第74回カンヌ国際映画祭で主演女優賞に輝いた『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスヴェ、英国と北米の配給券は映画スタジオ「NEON」が獲得している。35mmフィルムによる撮影。
映画『アンデッド/愛しき者の不在』
1月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国公開
原作・共同脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督・共同脚本:テア・ヴィスタンダル
出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ビヨーン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン、バハール・パルス
2024年/ノルウェー・スウェーデン・ギリシャ/カラー/シネスコ/DCP/ノルウェー語・スウェーデン語・フランス語・ペルシャ語/98min/G/原題:H?ndtering av ud?de/英題:Handling The Undead
提供:東北新社 配給:東京テアトル
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