生命感溢れる音こそ真価
ぼくのシアタールームには、JVCのDLA-V9Rプロジェクター+110インチ・スクリーンとJBLの15インチ・ウーファー&4インチ・コンプレッションドライバー+ホーンの大型スピーカーK2S9900を組み合わせたメインシステムがある。デノンAVC-A1Hを用いてドルビーアトモス対応を図ったセンターレスの6.1.6構成のシステムだ。そしてそのスクリーンの対向面にサブシステムを組み上げている。レグザの65インチ有機ELテレビ65X930とエラック330CEと310CEを組み合せて構成した4.0chシステムである。
以前はオッポデジタルのUDP-205をそのサブシステムに組み込み、その7.1chアナログ出力を受けられるオーラVARIE(ヴァリエ)と接続し、4.0chにダウンミックスして様々なディスクを楽しんでいた。というのも、ESSテクノロジー社の高級8チャンネルDAC素子を備えたUDP-205の7.1ch出力の音が良く、これをなんとか生かしたいと考えていたからだ。
しかし2018年にUDP-205が製造中止となり、お気に入りのVARIEを使い続けたかったぼくは、マルチチャンネル・アナログ出力を持ったプレーヤーの新製品が出ないものかと思案していたのだ。そして折よく今年登場したのが、マグネターUDP900だったのだ。
いやしかし、よくぞマグネターは音の良い7.1chアナログ出力を備えたユニバーサルプレーヤーを出してくれたものだと思う。というのも、オーラVARIEは生産中止になって久しく、マルチチャンネル・アナログ入力を備えた現行モデルは、ぼくの知るかぎりストームオーディオくらいしか存在しないからだ。ということで、ここではぼくの部屋のサブシステムに組み込んだUDP900の魅力について述べてみたい。
UHD Blu-ray Player
MAGNETAR
UDP900
オープン価格(実勢価格55万円前後)写真下
● 再生メディア:CD、SACD、DVDビデオ、DVDオーディオ、BD、ブルーレイ3D、UHDブルーレイ、ほか
● 接続端子:アナログ2ch音声出力2系統(バランス、アンバランス)、アナログ7.1ch音声出力1系統(アンバランス)デジタル音声出力端子2系統(同軸、光)、HDMI出力端子2系統(映像/音声対応、音声専用)、USB端子3系統(Type A×2、TypeB)、LAN1系統
● 寸法/質量:W445×H133×D321mm/約15.5kg
音声の接続はアナログ・アンバランスケーブル8本を使い、7.1ch信号をオーラVARIEにつなぐ。映像信号はHDMIケーブルを用いてレグザの4K有機ELテレビ65X930と接続している。リップシンクのズレは65X930の設定を「ピュアダイレクト」にすることで対処している
操作性が良いのは大きな美点。物量投入具合も凄い
UDP900のフロントパネルは、ガンメタとブラックの2トーン仕上げ。初めて写真で見たときは、その対比が強すぎて、なんだか落ち着かないデザインだなと思ったが、現物を見るとほどよいコントラスト感で悪くない。もっとも、もっと背の低い弟モデルのUDP800のほうがプロポーション的にはより好ましい。しかしながらUDP800には7.1chアナログ出力がないので、ぼくにとっては選択外になってしまうのである。
UDP900を使ってみてまず良いと思ったのが、操作性がすこぶる良好なことと輸入元のエミライがカスタマイズしたというフォントデータや設定画面が見やすいことだった(UDP800も同様)。海外製品だとなんかヘンな日本語や漢字表記があってシラけてしまうことが多かったが、この製品にはそんな違和感はない。オッポデジタル製品同等、いやそれ以上にOSD(On Screen Display)が見やすいのである。
では、UDP900の概要について述べよう。本機に採用されているのは、UHDブルーレイやSACD再生にも対応した振動対策済のソニー製メカニズム。そしてディスク再生の基本動作を司るSoC(Silicon on Chip)はメディアテック製のクアッドコア・プロセッサーである。注意したいのは、UDP900はYouTubeや音楽/映像ストリーミングサービスに対応していないこと。LAN端子は装備されているが、これはローカル環境でのファイル再生ならびにファームウェアのアップデート用だ。本機は基本的にはハイクォリティ・ディスク再生に特化したユニバーサルプレーヤーだと理解したい。
UDP900で目を引くのは充実した電源回路。アナログ・オーディオ用にトランスを積んだアナログ・リニア回路を、メインボード用にスイッチング電源回路を充てるというデュアル・パワーサプライが採用されている。
先述のようにUDP900は7.1ch音声のRCAアンバランス出力、そしてXLRバランスとRCAアンバランスの2チャンネル出力がある。DAC素子は2ch出力用がES9038PROで、7.1ch用がES9028PRO。現代最高品質レベルのESSテクノロジー社のDACチップが使われているわけである。また、768kHz/32ビット対応のUSB Type B端子も用意される。
山本さんのシアタールームでは110インチスクリーン+JBL S9900ほかで構成される6.1.6スピーカーによるメインシステムと、レグザ65インチテレビ+エラックによる4.0chスピーカーによるサブシステムが入れ子構造で導入されている。サブシステムのフロントL/Rスピーカーはエラックの330CE(写真①)、サラウンドL/Rは310CE(写真②)。リスニングポイントからほぼ等距離かつ等高配置となり、音楽系サラウンド音源制作の基準となるITU-R配置の相似形となっている。サブウーファー、センターは使っていない
オーラVARIE(写真上)。アナログ・アンバランス7.1ch入力に対応、センター/サブウーファー信号をアナログ領域でフロントL/R信号に畳み込む(ダウンミックス)処理が可能。10年以上前に生産完了したが、信頼性も高く、まったく動作に問題はないそうだ
内部コンストラクションも見るべきところは多い。セクションごとに独立した基板設計を基本としているわけだが、各セクションを非磁性体のカバーでシールドして電磁干渉を抑制するとともに、オールアルミの筐体構造にダブルシャーシ、ダブルカウンターウェイトプレートを採用して振動抑制に意を払っているのである。往年のパイオニア製プレーヤーをよく研究しているナと思わせる部分だ。
以前、本機UDP900とオッポデジタルUDP-205を自室でじっくり比較したことがあるが、画質/音質ともにUDP900がUDP-205を凌駕することがわかった。画質に関しては、それを司るSoCは共通しているが、ピーク輝度の伸び、深みのある黒と暗部階調の精妙さ、発色の鮮やかさ、細部の表現力などで無視できない違いがあるのだ。UDP-205は2017年の発売で、UDP900は2023年。6年間の進化の度合いは大きいと実感させられた次第。
2チャンネル音声出力については、UDP900のほうが音の重心が下がって音場のスケール感がより雄大になる印象。それぞれの音像に豊かな生命感が付与されるのである。UDP-205は多くのオーディオマニアに愛された製品だが(SACD/CDプレーヤーとして使っているというユーザーも多かった)、電源回路や筐体設計への物量投入がこのダイナミックなサウンドに結実しているのだと思う。UDP-205や203の故障が不安だというユーザーには、買い替え候補として太鼓判を押して本機をお勧めしたい。
サラウンド音楽の感動作は数多い。その魅力を味わい続けていきたい
ユニバーサルプレーヤーであるUDP900は、UHDブルーレイをはじめほぼすべてのオーディオ&AVのハイファイ系12cmディスクが再生できる。もう忘れられた観のあるSACDやDVDオーディオのマルチチャンネル・ソフトも問題なく楽しめるのである。これはほんとうに重要かつ尊い機能で、今世紀に入ってから発売が始まった、それらのフォーマットのサラウンド収録作品にはすばらしいものがたくさんあって、ぼくは今でもときどき聴きたくなるのだけれど、国産プレーヤーでSACDマルチとDVDオーディオが再生できる製品はほとんどなくなった。ナリモノ入りで登場したフォーマットを突然なかったことにするのは、日本メーカーの得意ワザ。乗せられたユーザーは突然ハシゴを外されて茫然とするしかないのである。そのへんの責任についてどう思っているのか、当時のリーディングメーカー、ソニーやパナソニックに一度問いたいところだが……。
話が逸れた。いずれにしてもぼくはSACDやDVDオーディオのマルチチャンネル収録ソフトがアナログ接続で再生できるという1点だけで、UDP900に大きなハナマルを付けたいのである。
ぼくの部屋のサブシステムは、先述したようにフロントL/Rにエラックの330CE、サラウンドL/R用に310CEを充てたセンターレス、サブウーファーレスの4.0chシステムで、リンの6chパワーアンプMAJIK6100を用いて両スピーカーを駆動している(330CEはパッシブ・バイアンプ駆動)。リスニングチェアから見て330CEは約60度の開き角で、サラウンドの310CEは約110度の「(ほぼ)等距離・等高配置」である。
このサブシステムでぼくがよく再生しているのは、UHDブルーレイやブルーレイの音楽ライヴ作品、それに前述したSACDやDVDオーディオのマルチチャンネル収録ソフトなのである。
たとえば、学生時代からよく聴いた米国のシンガー・ソングライター、ジャクソン・ブラウンのライヴ作品である『Running On Empty(孤独なランナー)』のDVDオーディオ盤(2005年。オリジナルLPは1977年の発売)などは5.1chのミキシングがすばらしく、聴衆と一体となってジャクソンと彼のバンドのステージを楽しんでいる実感が得られるのだ。我が家の場合、センターとLFEチャンネルの信号はフロントL/Rのエラック330CEに足し込んでの再生となるが、UDP900とオーラVARIEを用いて何か不満があるかと言ったらまったくない。
ぼくの大好きなソウル・シンガー、サム・クックがニューヨークのクラブ「コパカバーナ」で1964年7月に歌ったステージを収録した『サム・クック・アット・ザ・コパ』のSACDマルチ(2003年)のミックスも秀逸だ。当時のコパカバーナの写真などを参照し、そのライヴ会場のプロポーション(寸法比)や壁や床の材質を類推、コンピューターシミュレーションによって1次反射の長さや量、残響音レベルなどを割り出して制作されたという労作で、たしかにうまくサラウンド再生すると、グラスの当たる音や聴衆のざわめきが自分の耳元にふっと浮かび上がり、その臨場感の豊かさたるや比類なし……という感じなのである。
最近出たSACDマルチの作品で断然面白かったのが、サンタナの『キャラバンサライ』。1972年に出た本作の4チャンネルステレオ(クアドラフォニックSQ)盤のマスターテープをディスクリート4.0chでSACDに収めたものだ。テナーサックスがフロント左からぐるりと周回していく冒頭からサラウンド再生する面白さに満ち溢れていて、様々なパーカッションが360度方向に乱舞する様に圧倒されるわけだが、2チャンネル再生に比べて解像度が断然高くて音数が多く、それぞれの楽器が粒立ちよく聞こえてくるのである。
なんだか不幸な終わり方をしたように思えるSACDマルチやDVDオーディオだけれど、数は少ないながらもこのような作品が出続けているし、あまり注目されないが、ブルーレイオーディオ盤にも興味深いサラウンド作品がある。これからもUDP900とともにそういう作品を発掘していきたいと思う。
取材陣に披露してくれたハイファイ系サラウンド音声入りディスクの一部。SACDマルチチャンネルやDVDオーディオ、BDオーディオなどメディア自体は多岐におよび、また発売年もいろいろだが、UDP900はほぼすべてのフォーマットでの再生が可能だ
>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』