「こういう店、昔あったなあ。町内の集会場みたいになっていて、みんなが何とはなしに近況を交換して……」。
昭和に生まれ育った私には、なんだか親しみ深い世界がこの映画にはあった。しかも、物語に登場する理髪店には、それに加えて「猫」がいて、客を招いているのだ。猫映画として捉えることも可能だろう。
舞台となっているのは、台中にある老舗理髪店。店主のアールイは40年にわたって切り盛りしている文字通りのベテランで、店を訪れる老若男女に対応し、小気味よいハサミさばきをみせる。もっとファッショナブルでトレンディなバーバーショップはほかにもあろうが、アールイの名人芸を求めてやってくる顧客のあとはたたない。
そして、アールイも常連を大切にする。離れた町から通ってくれていた常連客の“先生”が、ある時期から来なくなった。どうやら病が進み、もう外に出られない状態であるようだ。アールイは、店に「本日公休」の札を掲げ、ポンコツの車でその町へ向かう。その道中の描き方がまた、楽しい。普段すごみをきかせている不良も、わんぱく坊主だったころにアールイに刈ってもらったことがあって、そうなると、「おばちゃん」と「子供」の関係に逆戻りだ。
全体に漂うあたたかさ、やわらかさは、フー・ティエンユー監督の実家が理髪店であり(そこでロケを敢行)、母親をモデルにアールイ像をつくりあげたというところもあるのだろう。そのアールイ役を務めるルー・シャオフェンは、なんと24年ぶりの映画界復帰であるという。これもまた、いい話だ。
映画『本日公休』
9月20日より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座 ほか全国順次ロードショー
配給:ザジフイルムズ/オリオフィルムズ
2023年|台湾|106分|カラー|1.85|5.1ch|
(C)Bole Film Co.,Ltd.ASOBI production Co.,Ltd.All Rights reserved.