6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、ラックスマンのプリメインアンプ『L507Z』 の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)

画像1: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

ラックスマン L507Z ¥630,000(税抜)
● 出力:110W+110W(8Ω)、220W+220W(4Ω)
● 入力感度/インピーダンス:0.3mV/100Ω(フォノ・MC)、2.5mV/47kΩ(フォノ・MM)、180mV/47kΩ(アンバランス)、180mV/79kΩ(バランス)
● 寸法/重量:W440×H178×D454mm/25.4kg
● 問合せ先:ラックスマン(株)☎ 045(470)6991
● 発売:2021年

画像2: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

試聴記ステレオサウンド 221号掲載

 

ヒエラルキーを超越する素晴らしい製品。プリメインアンプの存在意義をあらためて確信

 少し昔話をさせて欲しい。

 私がオーディオに興味を持ったころ、もちろんインターネットはなく、オーディオに関する情報は専ら、専門誌やカタログをはじめとする紙媒体から得ていた。それ以外にもテレビコマーシャルが流れていたり、専門店に限らず普通の電器屋さんであってもオーディオ機器を置いてあったから、ちょっとした街に繰り出せば、オーディオコンポーネントに触れる機会は比較的簡単に得ることができた。1970年代の話である。

 とは言っても、高額な製品、特に海外ブランドの高級品に関しては、なかなか目にする機会すらなく、やっぱり頼りはオーディオ専門誌なのだった。私はそれこそ、目を皿のようにして、本に掲載されている文章を読み、写真を眺めた。おかしなもので、例えばカラーの見開きで大きな写真で掲載される製品の美しさに溜息をついていたいっぽうで、コマ割りのような形で、モノクロで小さく掲載された写真にも妙に心が惹かれるものがあった。小さい写真であればあるほど、目の皿具合は増大した。

 いまなら、インターネットで見つけた写真をタブレットに指を当てて拡大することなど造作もないし、リンクや検索でさらに詳しい情報が簡単に手に入る。でも、本はそうはいかない。ルーペを取り出してきて拡大しても、見えてくるのは印刷の網点ばかりで、情報もそこに書かれている文章のみだ。だが、そこには想像の余地が膨大にあった。何度も何度もその記事を読み返し、製品への憧れを募らせる楽しみがあった。そういう機器は記憶に深く刻まれた。いまは便利な時代で、いい面もたくさんあるが、簡単に知ってしまった情報は、私の場合、すぐに忘れてしまう傾向がある。能力や性格に問題があるのかもしれない。困っている。そして、それがいいことであれ悪いことであれ、便利になれば何かを失う。現代には現代の楽しみ方があるのだから、それでいいのだろう。

 

次世代のアンプ回路を担う増幅帰還エンジン

画像3: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

LIFES
Luxman Integrated Feedback Engine System

LIFESは、動作原理自体はラックスマンの従来技術ODNF(Only Distortion Negative Feedback)と同様(主アンプと誤差検出アンプで構成され、入力信号と出力信号の差―つまり歪み成分だけを主アンプの中間点に帰還することで、特性を改善しようという回路)であるが、ODNFでは改良を重ねるうちに回路規模が徐々に大きくなり複雑化してしまった。そこで原点に立ち返り、現代の高精度パーツを使用して、可能なかぎりシンプルな回路構成を採用。しかも回路の最適化を図ったものが、最新のLIFESと言える。このLIFESの開発・採用により、ODNFに比較して、増幅時の歪みを大幅に低減し、S/Nの3dB向上を実現しているという。初搭載は、2021年10月発売の最上級ステレオパワーアンプM10Xで、プリメインアンプでは同時期に開発されていたL507Z(2021年10月下旬発売)が最初。以降プリアンプ最上位機のC10X(2023年4月発売)、さらにはL509Z(2022年12月発売)やL505Z(2023年12月発売)を含む、ZシリーズのプリメインアンプのすべてにLIFESが採用され、現在のラックスマン製品の音質を担う、基幹技術となっている。

 

 

プリメインアンプの王道を行くラックスマン

 あのころ、専門誌の中で私の目を一際引きつけたのは、ラックスマンの製品群だった。並いる海外勢、怒涛の新製品開発を行なっていたたくさんの国内メーカーのモデルに混じって、どうしてラックスマンの製品に惹かれたのか……、同社の製品はとてもカッコよく、大人の趣味の製品といった雰囲気を醸し出していたからなのだと、いま気がついた。広告もカッコよかった。このメーカーは何かが違う。若い私はそう感じていたはずだ。もちろん、こんなことは私の主観だから、他ブランドの製品に特別に惹かれていた人だっていらっしゃるだろう。趣味はそうでなくてはいけません。

 ラックスマンは、当時絶滅が危惧されていた真空管アンプもラインナップしていた。なんだか変ったメーカーだなあと思っていた。それ以外にもそれぞれがデザイン的にとても特徴があって、こんな製品が自分の部屋にあったらもうそれで充分じゃないか、と思わせるパワーがあった。中でも心を掴まれたのが、プリメインアンプとアームレスのアナログプレーヤーだった。ラックスマンはセパレートアンプもラインナップしていて、それらもメチャクチャカッコ良かったのだけれど、私には高価に過ぎたという理由もあり、私はラックスマンのプリメインアンプに憧れを抱いたものだった。いまでもプリメインアンプという分野の製品に強い関心があるのは、ラックスマンのせいであるとすら思う。責任を取って欲しい。

 だからというわけではないのだけれど、ラックスマンは伝統的にプリメインアンプ作りがとてもうまい。ちょっと前に本誌でも言ったことだが、同社のプリメインアンプはまさに王道を行っているのだ。

 私がオーディオ機器に求めたいのは、優れた音質はもちろんだが、使って楽しい、所有して嬉しいことがとても大事な項目である。特に、操作を頻繁に行なう必要があるアンプとプレーヤーは、楽しいことがとても重要。極端に言えば、ひとつのスイッチを操作しただけでも、喜びが湧いてくる機械であって欲しい。姿形もカッコよくあって欲しい。つまり、耳も目も指も楽しませる機器であって欲しいのだ。そのうえ、香り高く味わい深い音質であるならば最高だ。オーディオは五感で楽しむものなのだから。

 そんな私の要望に応えてくれるプリメインアンプを、ラックスマンは作り続けてくれている。プリメインアンプの王道を行くメーカーの責任を果たしているのだ。その証拠に、ラックスマンの歴代プリメインアンプは、本誌ベストバイにおける私の最高点の常連である。

 

画像4: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

内部は、中央前方に電源トランス、その後方にコンデンサー群、そしてその両脇のヒートシンクに左右チャンネルを分けてLIFES採用の増幅回路を配置、プリ部は最後方のブロックに基板を縦向きに取り付けるという、Zシリーズのプリメインに共通するレイアウト。AB級の出力段は3段ダーリントン・3パラレル・プッシュプル構成とすることにより、110W+110W(8Ω)、220W+220W(4Ω)の出力を得ている。音量調節機構には、88ステップのアンプ一体型・電子制御アッテネーターの新LECUA1000を採用する。

 

画像5: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

入力はアンバランス5系統(MM/MCフォノ含む)とバランス2系統。LINE1入力には、高剛性カスタムRCA端子を20mm間隔で装着(LINE2~4は18mm間隔)。プリアウトとメインイン端子も装備する。スピーカー端子は計2系統を搭載。

 

 

優れたプリメインアンプで得られる音楽再生は何物とも比べる必要がない、素晴らしい体験をもたらす

 プリメインアンプというジャンルは、いつのまにかセパレートアンプの下に見られるようになってしまった。しかし私は違うと思う。優れたプリメインアンプを適切なスピーカーと組み合せたときに得られる音楽再生は、何物とも比べる必要がない、素晴らしい体験をもたらすことを私は知っているからだ。ヒエラルキーでオーディオを考えるのはつまらないではないか。

 現在のラックスマンのプリメインアンプは、同社がZ世代と呼ぶ3モデルで構成される。いずれも最新の増幅回路技術LIFESを活用し、フォノイコライザーとトーンコントロールを装備、さらには大型メーターを搭載するなど、耳も目も指も喜ばせてくれる製品群で、どのモデルもパワー感があり、スピーカーを伸び伸びとドライブしてくれる。

 新シリーズで私が素晴らしいと思うのが、価格の差が単純なヒエラルキーになっておらず、それぞれがそれぞれのキャラクターで音楽を楽しませてくれるところ。最上級機の509Zの磨き抜かれた落ち着いた味わい、スタンダードとなる505Zの弾ける楽しさ、どちらもいい。そして、真ん中のモデルであるL507Zには、前二者の良いところどりをしたような優れたバランス感覚を感じさせ、2021年の登場以来、私は変らずベストバイで三つ星を献上してきた。

 この文章を読まれて、509Zと507Zのどっちがいいんだハッキリしろと思われる方がいらっしゃるかもしれないが、どちらも(505Z含め)素晴らしいプリメインアンプです、としか答えようがない。

 毎年秋になると、その年の新製品を集中的に試聴する機会に恵まれる。製品ジャンルも価格も無差別に聴いて回る。その場の出音だけでなくポテンシャルを推しはかりつつ試聴を続けるのが常だが、それはそれとして、2021年秋、もっとも音楽を楽しませてくれる再生をやってのけた新製品は、ラックスマンのL507Zであった。あのときのアナログレコードのサウンドは、数多のモンスターアンプに引けを取らない、ヒエラルキーを超越する素晴らしいものだった。それはプリメインアンプの存在意義をあらためて確信させた素敵な時間として、私の記憶に深く刻まれたのだった。

 

3機種がラインナップするLIFES搭載プリメインアンプ

画像6: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

L509Z ¥900,000(税抜)

 

画像8: ラックスマン『L507Z』 【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

L505Z ¥350,000(税抜)

L509Z(2022年12月発売)、そしてL505Zが2023年12月に加わり、ラックスマンのトランジスター増幅の現行プリメインアンプは3機種となり、そのすべてがLIFESを採用するAB級機となった。最上級のL509Zはプリ部とパワー部の双方にLIFESを採用するのが特徴であり、出力段の構成は3段ダーリントンによる4パラレル・プッシュプル。出力は120W+120W(8Ω)、240W+240W(4Ω)だ。L507Zと同様に、パワーアンプ部にLIFESを採用するL505Zは、3段ダーリントン・パラレル・プッシュプル構成により、100W+100W(8Ω)、150W+150W(4Ω)の出力となっている。音量調節機構は、L509ZがLECUAの6世代目となる最新仕様のLECUA-EXを搭載するいっぽう、L505Zは前モデルL505uXⅡ(2017年発売。生産終了)から引き継ぐ形で高純度電子制御アッテネーターのLECUAを搭載している。

 

 

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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載

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