“ホームシアターが唯一の趣味”と語る片山右京さん。そんな右京さんがゆっくりくつろげる空間を作ろう! という潮さんのおせっかい(?)からスタートした本連載。前回は150インチの4K/8K大画面が導入できることと、その画質の高さを確認した。第二回のスピーカー編では、150インチに相応しい製品として潮さんが推薦してくれた、KEFスピーカーの実力を右京さんに体験いただくことにした。右京さんと一緒にお邪魔したのは、地下鉄・表参道駅にほど近い「KEF Music Gallery Tokyo」だ。(StereoSoundONLINE編集部)
片山右京さんの「KEFMusic Gallery Tokyo」訪問動画はこちら ↓ ↓
プロジェクター導入に関するテストランから約1ヵ月、相変わらず忙しく動き回る右京さんだが、無理を言ってスケジュールを空けてもらい、次期スピーカーの候補であるKEFの試聴に付き合ってもらった。右京さんのホームシアター構築計画の締め切りは特に定めていなかったが、そろそろ本腰を入れないと延び延びになる予感がしたので、半ば強引に日取りを決めたのである。
お付き合いただいたのは、昨年12月に東京・青山にオープンした「KEF Music Gallery Tokyo」。お目当てのスピーカーを試聴する前に、KEF JAPAN コマーシャルディレクターの福島真澄さんに、ここの開設経緯と、各展示スペースについて説明してもらった。その詳細はStereo Sound ONLINE YouTubeチャンネルで詳しく紹介しているので、併せてお楽しみいただきたい。
イヤホンからワイヤレス&ハイエンドスピーカーまで、
気になるオーディオをすべて体験できる夢の空間「KEF Music Gallery Tokyo 」
B1Fの試聴室「The Ultimate Experience Room」に設えてある「MUON」というKEFのフラッグシップのスピーカーを試聴した後、中2Fの「The Wireless High-Fidelity Lounge」に移動する。すると液晶テレビの両サイドに設置されたワイヤレススピーカー「LS60 Wireless」の前で右京さんの足が止まった。「このスピーカーならうちの70インチテレビの横にも合いますね」とのこと。
右京さんはかねてから自宅のテレビの内蔵スピーカーの音にも不満を抱いていたようで、「スリムなスピーカーでテレビの横にもピッタリだし、アンプを内蔵しているからシステムもシンプル。しかもHDMIケーブルでつなぐだけでテレビと連動するから、使い勝手もいいんですよ」と解説したら、ますます身を乗り出して聴き入ってしまった。
今日の目的はこのスピーカーじゃないんですが……と先を急ごうとしたのだけど、右京さんはLS60 Wirelessのサウンドに魅入られてしまったようなので、しばらく試聴することに。サブウーファーなしでも充分すぎるくらいの低音を再生するし、何と言ってもアナウンスやヴォーカルの声がいい。まさかの展開だったが、右京さんはすぐにでもLS60 Wirelessを導入しそうな勢いで、ぼくの方が怯んでしまった。
薄型テレビとLS60 Wirelessの組み合わせに右京さんも虜?
天井埋め込みスピーカーのサウンドも体験いただきました
ようやく3Fの「The Extreme Theatre」に到着。常設スピーカーのReferenceシリーズ(壁埋め込み)でドルビーアトモスを体験してもらう。
視聴ディスクとして持参したUHDブルーレイ『グレイテスト・ショーマン』の冒頭シーンと、チャプター11、ジェニー・リンド(演じるのはレベッカ・ファーガソン)がニューヨークの舞台で聴衆を前にして歌うシーンを観た。
驚いたことに右京さんは、ここで歌われる「ネヴァー・イナフ」が大好きだという。どこが好きなの? と尋ねると、「“どんなに与えられても満ち足りない”って、今のぼくの気分だから。自転車チームのJCL TEAM UKYOの成績も同じですね。潮さんもオーディオに賭ける心は同じじゃないですか? 満ち足りたらそこで終わってしまいますよね」と笑顔で答えてくれた。
ウーム、なんとも含蓄のある言葉に感心しきりだったが、実はまだ続きがある。劇中のレベッカ・ファーガソンの歌はアフレコで、本当に歌っているのは歌手のローレン・オルレッドだということを右京さんは知っていた。なんともはや、右京さんの意外な映画オタクぶりに驚かされた次第である。
「この音はいいですね」と、Referenceシリーズで組んだマルチチャンネル・システムにいたく感動した様子。「もう500回以上視聴したシーンだけど、音がよくなるというのはこういうことなんだということがわかりました。これ欲しいなぁ」とポツリ。やばい試聴の順番を間違ったかも、と密かに焦ってしまった。
究極のホームシアター空間で、KEFスピーカーの実力を体験
2chもドルビーアトモスも、こんなに心地よく楽しめるんですね
気を取り直して本日の本命、Rシリーズとのご対面である。その前になぜぼくが今回KEFのスピーカーを選んだのか、どうしてRシリーズを推薦したのかについて触れておきたい。
まず、幾多あるスピーカーの中からKEFを選んだ理由は、オリジナルの同軸型ユニット、Uni-Qドライバーが採用されているからだ。KEFの創設者レイモンド・クックは、ネオジム・マグネットの誕生に触発され、1988年に初代のUni-Qを完成させている。以来同社の顔としてこのユニットは進化し続け、Rシリーズには第12世代Uni-Qが組み込まれている。
スピーカーの理想である点音源を追求したUni-Qは、ネオジム・マグネットを巧みに使いこなすことで、トゥイーターとミッドレンジの一体化を実現した。さらに中央のトゥイーターに設けられた放射状のフィン(タンジェリン・ウェーブガイド)やミッドレンジのサラウンド(エッジ)の形状、磁気回路の改良を重ねてきた。
そして第12世代では、MAT技術(Metamaterial Absorption Technology)と呼ぶ迷路のようなプレートを加えてトゥイーターで発生する背圧ノイズを効果的に吸収することに成功したのである。その結果、中高域のS/Nが向上し、トランスペアレンシーに富んだサウンドを獲得している。
今回の目玉! 「R11 Meta」の音を聴く。500回以上聴いてきた曲のイメージが一新された
また今回Rシリーズを推したのは、Referenceシリーズより鳴らしやすく、AVアンプに対する汎用性が高いから。Rシリーズは「R2 Meta」から「R11Meta」まで、7モデルがラインナップされているが、右京シアターでは、L/R用に「R11 Meta」、センタースピーカーに「R6 Meta」を使ったマルチチャンネルシステムに展開する計画である。
サラウンド用は既に天吊りされているJBLのスピーカーを流用するとして、その他にアトモス用のトップスピーカーも考えなくてはならないが、幸いなことにKEFには天井埋め込み用モデルもラインナップされているので、その中から選ぶことですっきりとしたシアター空間を作ることが出来るはずだ。
接続の関係で今回はRシリーズを使ったマルチチャンネル視聴は叶わなかったが、2ch再生でも音の感じと能力は掴めるので、さっそくCDによる試聴に入った。ウルトラアートレコードの『情家みえ/エトレーヌ』から、何曲か聴いてもらう。
「ヴォーカルがとてもいいですね。ふくよかで厚みのある音が心地いい」と右京さん。Uni-Qと4基のウーファーを搭載したR11 Metaならではのフォーカス感とゆとりのある表現力は、オーディオ再生でも、映画音響を含めたマルチチャンネル再生でも威力を発揮してくれることだろう。
「じゃあこれにする?」と畳みかけるぼくの言葉に、右京さんは、「さっき聴いたReferenceシリーズの音が耳に残っているんですよ。困ったな」。半ばしめしめとほくそ笑むぼくの心を知ってか知らずか、そんな嬉しい言葉が返ってきた。
“知らない幸せ、知る不幸……” ぼくはオーディオのイベントでよくこの言葉を口にする。額面通りなら、知らない方が安寧な生活を営めるということだが、ことオーディオに関しては、皆にそうなって欲しくないことから、この話をする。右京さんとて同じこと。今のままの状況に安住することなく、高みを目指してほしいから、“知らない幸せ”ではなく、“知る不幸”を極めて欲しいのである。
先ほど視聴した「ネヴァー・イナフ」のシーン(歌詞)ではないが、右京さんも後戻りできないところまでやってきたのかもしれない。「これ欲しいなぁ」と漏らしたひと言、ぼくはしっかり覚えていますよ。当初の目論見とは違うけど、スピーカーはReferenceシリーズにしちゃいますか? どうする右京さん。