伝統を体現する同軸型フルレンジユニット「デュアルコンセントリック」を搭載し、英国タンノイの最高峰プレステージシリーズはゴールドリファレンス(GR)仕様に進化して現代的な音楽再生を追求する。そこに、10インチ口径の名ユニット「Ⅲ LZ」の音楽性の再現を謳う最新システムが加わった。(管球王国編集部)

Stirling Ⅲ LZ Special Editionに至るタンノイ/デュアルコンセントリックの進化

シングルマグネットの合理的な磁気回路設計で1947年に“モニターブラック”が誕生。同軸コンプレッションドライバーの設計にはハイレベルの精密な加工技術が求められた

 英国タンノイのデュアルコンセントリックは、高域ホーンがウーファーの振動板形状も利用している巧妙な設計である。開口が広いためカットオフ周波数が低くなり、無理のないクロスオーバーが実現できるのだ。ここでは同社の歴史資料を参考にしながら、最新の進化形デュアルコンセントリックを搭載した「スターリングⅢLZスペシャルエディション」まで辿り着いてみよう。

画像1: タンノイ「Stirling Ⅲ LZ Special Edition」は同軸型らしい音像定位の明確さと、現代的な音調。敏感な高域と低域の量感を聴かせる傑作スピーカーだ

TANNOY
タンノイ Stirling Ⅲ LZ Special Edition
¥1,800,000(ペア)

●型式:同軸2ウェイ・バスレフ型●使用ユニット:ウーファー・25cm同軸型(トゥイーター・5.2cmドーム+ホーン)●クロスオーバー周波数:1.1kHz●感度:93dB/2.83V/m●インピーダンス:8Ω●寸法/重量:W397×H855×D368mm/33.2kg●備考:専用ウッドワックス付属●問合せ先:ティアック(株)AVお客様相談室☎0570(000)701

10インチ口径同軸ユニットであるタンノイⅢ LZは、デュアルコンセントリック「モニターレッド」期の1961年に誕生。その音楽表現の再現を目指したフロア型システムのStirlingが、1983年に登場している(※)。現代のStirling/GR(GR=ゴールドリファレンス)のスペシャルエディションである本機は、Ⅲ LZの系譜を鮮明に打ち出す最新モデル。搭載する10インチGRデュアルコンセントリックは、上位機の15インチ・ユニットの設計を引き継ぐ。トゥイーター部はアルミマグネシウム合金ドーム振動板採用のコンプレッションドライバー。ウーファー部とトゥイーター部の磁気回路は貫通型の強力なアルニコマグネット(ALCOMAX-Ⅲ)を共有する。新規設計のウォールナット無垢材/突板仕上げのエンクロージュアは内部ブレーシングで剛性を高め、豊かな低域再現と優れた空間再現性を目指したDPSバスレフポートを採用する。フロントバッフル下部にロックアップ式の高域レベルコントロールを装備。フロントのグリルは1960年代を彷彿させるテクスチュアの「オートミールクロス」が使われている。(管球王国編集部)※登場時はブックシェルフ型

 最初のデュアルコンセントリックは、いまから77年前の1947年に誕生。技術長ロニー・ラッカムの設計による、15インチ口径のモニターブラック(通称)がそれである。ウーファーを貫通するコンプレッションドライバーの設計には、ハイレベルの精密な加工技術が求められた。筒状の鋳鉄製磁石の手前側にウーファー用の磁気ギャップが置かれ、奥側には高域用のそれが与えられた、合理的なシングルマグネットの磁気回路である。

 改良されたモニターシルバーは、6年後の1953年に登場。タンノイを代表するコーナーホーンの大型機「オートグラフ」に初搭載されたデュアルコンセントリックだ。モニターシルバーでは、1957年に12インチ口径が追加されている。従来の15インチ口径では家庭用として大き過ぎるという声が寄せられた結果ではないかと思うのだが、タンノイは歴史的に小型ユニットを得意としていないスピーカーメーカーだった。

名声を不動にしたモニターレッド。10インチ口径のⅢLZには新時代の電気特性が与えられた

 スターリングⅢLZスペシャルエディションと同サイズの25センチ口径デュアルコンセントリックの始祖は、モニターレッドの時代まで待たなければならない。タンノイの評判を不動のものにしたモニターレッドが誕生したのは1958年である。そのときは15インチ口径と12インチ口径の2種類のみで、10インチ口径のⅢLZは、それから3年後の1961年に加わっている。

 その10インチ口径だけは、異なる電気特性が与えられていた。ウーファーのボイスコイルが2.8Ω(約3=Ⅲ)という低い(Low=L)インピーダンス(量記号=Z)だったのだ。これがⅢLZの意味だと私は理解している。時代は半導体アンプが登場し始めた頃。15Ω以上の負荷で真空管アンプに適合するインピーダンスマッチング用トランスが付属したとあるから、専用のクロスオーバーBOXに組み込まれていたのだろう。

デュアルコンセントリックがモニターゴールドに進化した1967年には10インチ径Monitor Gold Ⅲ LZ Ⅱも登場。写真はⅢ LZ Ⅱ搭載システムのⅢ LZ in Cabinet。Ⅲ LZ Ⅱはインピーダンス値8Ωへの変更やクロスオーバー周波数見直しなど前作からの進化を遂げ、ネットワークに「ロールオフ」と「エナジー」の高域レベルコントロール機能を装備した。

 先を急ごう。タンノイのデュアルコンセントリックは進化を続け、1967年にはモニターゴールドが登場。そして、1974年にはHPD(ハイパフォーマンスデュアル)が開発された。個人的には、このHPDが歴代のデュアルコンセントリックのなかで最も洗練されていたと思っている。大ヒットしたタンノイのABCシリーズ(アーデン、バークレイ、チェビオット、デヴォン、イートン)や、英国LOCKWOODが自社製エンクロージュアに納めたスタジオ用モニタースピーカーを発売するなど、HPDはクロスオーバーBOXの改良を伴いながら、同軸型としての完成度を高めていった。

 しかし、シングルマグネット&デュアル磁気ギャップのデュアルコンセントリックは、HPDでいったん終焉。アルニコ磁石の重要な磁気素材であるコバルトはアフリカで多く産出されるが、政情不安や内戦で供給がおぼつかなくなった。スピーカーメーカー各社は、フェライト磁石に切り換えたのである。

強磁性ALCOMAXⅢを採用。リジッドに装着される新設計ユニット。現代的で、じゅうぶんなレンジ感

 スターリングⅢLZスペシャルエディションに搭載されたデュアルコンセントリックは、最高峰のプレステージ用として開発されたもの。構造を忠実に継承しながら、すべてが新規設計なのである。アルニコ磁石の中でも強磁性のALCOMAXⅢを奢り、本格的なコンプレッション方式の52ミリ口径ダイアフラムを後方に備えている。この25センチ口径はケンジントンSEが初搭載機だが、フレームの固定穴は4個だった。スターリングⅢLZスペシャルエディションと上位機ケンジントンGRのそれでは固定穴が10個に増えて、リジッドな装着を実現している。

 同軸型らしい音像定位の明確さと、じゅうぶんなレンジ感を伴った音が、スターリングⅢLZスペシャルエディションの持ち味である。アナログ盤再生からハイレゾ再生まで、現代的な音調で聴かせてくれるし、高音域は初動感度の高さを窺わせる敏感さを持ち合わせている。低音域の量感もじゅうぶん確保している、傑作スピーカーなのである。

画像2: タンノイ「Stirling Ⅲ LZ Special Edition」は同軸型らしい音像定位の明確さと、現代的な音調。敏感な高域と低域の量感を聴かせる傑作スピーカーだ

Stirling Ⅲ LZ Special Editionの10インチ・デュアルコンセントリック構造図

磁気回路部は大型アルニコマグネットをウーファー部とトゥイーター部で共有。トゥイーターホーンの延長として機能するウーファーコーンは軽量/高剛性を追求したクルトミューラー製マルチファイバーペーパー採用。ツインロール状ハードエッジはフェノール樹脂を含浸して耐久性が高められる。トゥイーター部はアルミマグネシウム合金の逆ドーム型ダイアフラム採用で、エッジはマイラーフィルム製。ホーンのネック部に位相補正用の19個のスロートが設けられ、下の写真のように、乱反射を低減させるために磨き込まれたホーンの奥に、その開口を見ることができる。その下は1976年に登場した15インチ・デュアルコンセントリックHPD385Aの断面。HPD385は1974年登場で、ロールエッジを採用したコーン紙裏面には補強リブを貼付、耐熱性ボイスコイルの採用など、広帯域化といっそうのハイパワー駆動を実現した。

画像3: タンノイ「Stirling Ⅲ LZ Special Edition」は同軸型らしい音像定位の明確さと、現代的な音調。敏感な高域と低域の量感を聴かせる傑作スピーカーだ
画像4: タンノイ「Stirling Ⅲ LZ Special Edition」は同軸型らしい音像定位の明確さと、現代的な音調。敏感な高域と低域の量感を聴かせる傑作スピーカーだ

この記事が読める別冊ステレオサウンド「ヴィンテージ大口径フルレンジ」のご購入はコチラ!

This article is a sponsored article by
''.