第96回アカデミー賞視覚効果賞をアジア映画として初めて受賞したことでも話題を集めた『ゴジラ-1.0』。そのパッケージソフトが去る5月1日に発売された。今回はUHDブルーレイ、ブルーレイ、DVDの合計6バージョンで発売される(コラム参照)。
熱心なファンの多い『ゴジラ』シリーズの最新作品として、本作のパッケージメディアはどれほどのクォリティや充実度を備えているのだろうか? 今回は山崎 貴監督を始めとする『ゴジラ-1.0』を生み出したスタッフの皆さんに集まっていただき、最新ホームシアターでその実力を体験してもらった。(StereoSound ONLINE編集部・泉 哲也)
参加メンバー
●監督:山崎 貴さん ●VFXディレクター:渋谷紀世子さん ●カラリスト:石山将弘さん
●録音:竹内久史さん ●音響効果:井上奈津子さん
●インタビュアー:伊尾喜大祐さん
――今日は皆様お忙しい中、弊社視聴室までおいでいただきありがとうございます。また、『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞視覚効果賞受賞、おめでとうございます。
山崎 ありがとうございます!
竹内 そうなったらいいなと話したことはありましたが、まさに言霊でしたね。
――その『ゴジラ-1.0』がいよいよパッケージ化されるということで、StereoSound ONLINE読者の中にも楽しみにしている方は多いと思います。そこで今日は『ゴジラ-1.0』を生み出した皆さんと一緒に、最新ホームシアターでUHDブルーレイを体験いただき、感想をうかがいたいと思っています。また、ゴジラファン&パッケージ愛好家代表であり、アニメ版『GODZILLA』三部作のブルーレイも制作された伊尾喜大祐さんにも参加いただきました。
伊尾喜 よろしくお願いします。夢のようなメンバーで、緊張しています(笑)。ちなみに、今日はわが家のコレクションから、『ゴジラ-1.0』や『シン・ゴジラ』などのフィギュアを10体ほど連れてきました。
山崎 凄いですね。しかもTシャツが東宝チャンピオンまつりの柄というところが流石です(笑)。
――伊尾喜さんと同じようにわくわくして『ゴジラ-1.0』のパッケージを待っている人は多いと思います。そんなファンに向けて、皆さんからの突っ込んだ情報をお届けできると嬉しいです。
山崎 はい、よろしくお願いします。
全バージョンを収めた、UHDブルーレイの贅沢さに注目。こだわりのディスク仕様も必見!
『ゴジラ-1.0』Blu-ray豪華版 4K Ultra HD Blu-ray 同梱4枚組(4K Ultra HDBlu-ray 1枚+Blu-ray3枚) ¥12,100(税込)
『ゴジラ-1.0』Blu-ray豪華版 3枚組 ¥9,900(税込)
『ゴジラ-1.0』 Blu-ray2枚組 ¥6,050(税込)
『ゴジラ-1.0』 DVD3枚組 ¥4,950(税込)
『ゴジラ-1.0/C』 Blu-ray ¥4,400(税込)
『ゴジラ-1.0/C』 DVD ¥3,300(税込)
今回発売された『ゴジラ-1.0』のパッケージはモノクロ版の『ゴジラ-1.0/C』を含めて合計6種類。中でも「UHDブルーレイ同梱4枚組」ボックスはディスク以外にも豪華ブックレットや劇中の海神作戦の詳細を記した資料集も同梱されるなど、ファンにも嬉しい内容となっている。
加えてここに収められたUHDブルーレイは2時間5分の作品で片面3層100Gバイトディスクを採用し、映像+音声の平均ビットレートが60〜70Mbpsにも達しそうな贅沢な仕様(編集部調べ)となっている。もちろんドルビービジョン&ドルビーアトモスが使われており、ホームシアターで最高のパフォーマンスが楽しめるようになっている。
音声信号については、UHDブルーレイ、ブルーレイとも、本編はドルビーアトモスとドルビーTrueHDの5.1chと2.0chの3種類を、さらにバリアフリー用日本語音声ガイドもドルビーTrueHD 2.0chで収録している。
――今日は2種類のホームシアターを準備しましたので、さっそく視聴をスタートしたいと思います。最初はMiniLEDバックライト搭載液晶テレビのTVS REGZA「65Z970M」と2chスピーカーのシステムです。
『ゴジラ-1.0』のUHDブルーレイはHDR(ハイダイナミックレンジ)方式のドルビービジョンと立体音響のドルビーアトモスで収録されていますが、家庭用プロジェクターでドルビービジョンに対応している製品はまだ少ないのです。そこでまず、65Z970Mでドルビービジョンの実力を体験いただきます。音は、ドルビーアトモス音声をデノンのAVアンプ「AVC-A1H」で2chにダウンミックスしました。さて、視聴箇所はどこにしましょう?
石山 冒頭の大戸島をお願いします。ドルビービジョンで、暗がりでのゴジラの襲撃がどう見えるのか気になります。
山崎 あと、銀座上陸シーンも見てみたいですね。あの街並がUHDブルーレイでどんな風に再現されるのか楽しみです。
――では、チャプター1の冒頭からゴジラが出現して基地を破壊するまでと、チャプター6の銀座上陸から熱線を吐くまでを再生します。65Z970Mの映像モードは「ドルビービジョン・ダーク」です。
山崎 実は『ゴジラ-1.0』のUHDブルーレイをちゃんとしたホームシアターシステムで見るのは初めてなんです。こんなにクリアーに見えるとは、ちょっと驚きですね。
石山 前回はACES(Academy Color Encoding System=様々なデバイスで使用できるカラーマネジメントおよび画像交換システム)マスターから家庭用のパッケージに変換するとこんな風になりますというデモを、スタジオで確認いただいたんですよね。
伊尾喜 そうだったんですね。しかし本当に絵も音も素晴らしいですよね。事前にこのディスクの仕様を確認させてもらいましたが、映像ビットレートも60〜70Mbpsほどありましたし、音声ビットレートも多い時は6Mbpsほど割り当てられていて、とても贅沢なのに驚きました。
――約2時間の作品で3層100Gバイトのディスクを使っているなんて、外国映画でもなかなか見かけません。このあたりについては、山崎監督や皆さんから希望されたんですか?
山崎 僕自身は海外出張などで不在がちだったので、細かい仕様については担当スタッフにお任せしていました。みんな信頼できる人ばかりですから。
竹内 音は、ぎりぎりまで攻めてみました(笑)。セリフはちゃんと聴こえるようにしなくてはいけませんし、効果音や音楽も映画館と同じように再現したいとなると、ビットレートもぎりぎりのところまで入れ込みたくなるんです。
――『ゴジラ-1.0』という作品だから贅沢が許された、ということでしょうね。ちなみに山崎監督は本作の劇場公開時に、いわゆるラージフォーマットは全部制覇したいと話されていましたが、これは劇場体験の価値を高めたかったということでしょうか?
山崎 僕の希望というよりは、制作を進めていくうちにそういう空気になっていったんです。僕だけがそんなことを言っても、多分現場は動いてくれないんですが(笑)、今回は次第にそういう流れになっていきました。ドルビーシネマについても、せっかくACESを使っているし、マスターの情報量としては充分ありましたので、やってみたいと思っていました。
――ACESは白組の作品ではずっと使われているとのことでした。
山崎 そうですね。現場からの提案もあって、最近はそうなっています。
石山 HDR映像なら、ハイライトで白組さんのCGの最大値を活かした状態で再現できるので、表現域としてもちゃんとピークが確保できます。僕自身も、典子が電車の中でぶら下がるシーンを初めて見せてもらった時は、背景や窓の外の銀座の街並がこんなに見えているんだ、こんなにちゃんと情報量があるんだと驚いたのです。
SDRだと、ピークがクリップされてあそこまでは見えないんですが、HDRではすごくクリアーに抜けてくるので、カメラワークにさらに迫力が出てきて面白いなぁという感覚がありました。
――その違いは、映像のディテイル感、立体感などにも効いてくるものなのでしょうか?
石山 ひと言でいえば、HDRの映像は見た目に近くなります。特に太陽光があたった時に、一番強いハイライトの表現もリアルに出てきますので、質感と奥行がちゃんと再現できていると思います。
山崎 波のきらめき、波頭の粒感も凄かったなぁ。きらっと光る表現とかは、なかなかあんな風には見えませんよ。
石山 そうですね、あの表現にはHDRがめちゃめちゃ効いていますね。
渋谷 あのような表現はどうしてもペタッとしがちだけど、立体感がしっかり出てました。
山崎 あと、画面上下の黒帯がちゃんと沈んでいるのがよかったですね。普通はもう少し黒が浮いているんだけど、ちゃんと黒いままなのが嬉しい。
――65Z970MはMini LEDバックライト搭載モデルなので、従来製品よりも高いコントラストが実現できています。今おっしゃっていただいた黒帯部分もほとんど光らせないですんでいます。
山崎 Mini LEDというのは、どういうデバイスですか?
――光源に使っているLEDのサイズがこれまでより小さいので、“Mini”と呼んでいます。これにより画面の後ろに並んでいるLED光源の数が増えて、分割エリアも細かくなり、絵柄に応じたバックライト制御がより緻密にできます。
山崎 なるほど、液晶テレビもこんなに進化していたんですね。
石山 このコントラスト感は、劇場とも別物だなっていう気はします。黒がこれだけ締まってハイライトも伸びているので、UHDブルーレイというフォーマットならではの面白さがあります。映像の力強さに対して、誰が見ても分かりやすさがあるなと感じたんです。これなら家庭でも充分楽しんでもらえるんじゃないかな。
山崎 大戸島のシーンで、火のオレンジ色が凄いですよね。ちゃんと現場で暗い中にいて、眩しいという感じになります。作品世界が広がっているような印象ですね。あと金属の表現がいい。吉岡くん(野田役の吉岡秀隆さん)の眼鏡の縁が凄いなぁと思っていたんです。
渋谷 きらん、きらんと光るところがいいですね。
石山 こういった再現が可能になると空気感も出てくるし、それだけで表現力が増してきます。
渋谷 自分の目で見たリアルな材質感が、しっかり画面で表現できているというのはなかなか体験できないから嬉しいですね。
山崎 CGにも情報はたくさんあったんだというのが、改めてわかりました(笑)。作っている時はどんどんデータが重たくなって、ストレージを圧迫するのでたいへんなんですけど、こんな風に見えるなら、ちゃんとやってておいてよかった。
渋谷 そこを端折ってしまうと、後で困ることになりますからね(笑)。今日UHDブルーレイで見せてもらって、CGも作り込んでおいてよかったと思いました。あと、室内の演技シーンなどでは窓の外がペタっとしがちで、本当は情報があるんだけど見えていないということもあります。でも今日の映像ではそこにもちゃんと情報が存在してるから、伸びやかで奥行を感じる画として見えるのがいいなって思いました。
山崎 窓の外の「現代の風景」がばれているんじゃないかと思って、ドキドキしてしまいます。撮影時に、窓の外は飛んじゃうから大丈夫だろうと話していたのに、今日見たらちゃんとディテイルがあるなぁ、階調があるなぁって。
――劇場用のドルビーシネマは、UHDブルーレイよりは輝度のピークは低いはずです。それをUHDブルーレイに収める際に苦労したことはあったのでしょうか?
石山 ACESの計算式がありますので、基本的にはそれに従っています。マスターからBT.2020/1000nitsの色域に変換して、そこでプレビューして山崎さんにご覧いただきました。その時はハイライトの表現が凄いねっていうお話をいただいたので、そのまま行けるところは作業を進めましょうということになりました。
ですので、ロケシーンのハイライトも特に叩く(抑える)ことはせず、見た目として映像のハイが伸びたぶん迫力が出るものは、そのまま取り入れていったという感じです。配信系のHDR作品では、ハイライトを丸くしてSDRに近づけたいというオーダーもありますが、今回は特に目につくピークがあった時に調整したくらいです。
山崎 配信系ではピークを抑えるんだ。それはなぜなんでしょうね?
石山 よく言われるのは、生っぽすぎるということですね。リアリティが逆に映画の邪魔になっちゃうというか。
山崎 なるほど、ビデオっぽく感じられるということかな。
石山 それも考え方次第でしょう。『ゴジラ-1.0』で大事なのは体験で、音を含めての映像体験というところを大事にしてきました。映像ではハイライトまでしっかり出ていた方が空気感も再現できるし、リアリティが出てくるんです。その部分はHDRじゃないと見えてこない、体感できないと思います。
そこについては、柴崎さん(撮影の柴崎幸三さん)と一緒に、面白いと思ったところ、ここはいいねっていうところを活かしながら、さらにハイライトを伸ばせる部分や、黒を締めてよくなるところを再調整していきました。このフォーマットの中で、一番いいレンジを活かしたHDRの画作りを進めていったのです。
――ドルビービジョンでは、どれくらいのピーク輝度を設定したのでしょう?
石山 作業したモニターは1000nitsですが、そもそも撮影した素材自体も眩しいところで600nitsとか700nitsくらいでした。UHDブルーレイでも、爆発シーンや抜けのハイライトを含めて700nitsから750nitsぐらいで切っています。
伊尾喜 今日のシステムでは、山崎監督や石山さんが狙ったイメージは再現できていましたか?
石山 さきほど別物のように感じたと申し上げましたが、そんな印象はありました。これは悪い意味じゃなく、海神作戦を説明する会議室のシーン(チャプター7)などがわかりやすいと思うんですが、窓の外の再現や日差しの感じなどがUHDブルーレイだと見た目のままというか、映画館だったらこういう見え方はしないと思うんです。その違いが “別物” と感じた要因かもしれません。
山崎 確かに違いはあるけれど、これはこれでひとつの作品だと思います。スクリーンではなかなか見られない、発光体ならではの魅力があるんです。
渋谷 映画と違った新しい体験という感じがしました。映画館で本作を見た人だからこそ分かってくる楽しさというか、ついつい見ちゃう面白さを感じます(笑)。
竹内 そうなんです、ついつい見入っちゃいますね。
伊尾喜 橘が敷島を訪ねてくるシーンも、家の中が劇場よりかなり暗いですよね。グッと沈めている感じがします。
山崎 劇場がどうだったかわかんなくなっちゃった(笑)。
渋谷 暗部情報もこんなにあったんだと思いました。奥のテーブル周りとか、劇場ではこんなに見えていなかったですよね。
石山 このまま海神作戦のくだりを見せてもらえますか。
――チャプター11の作戦開始からラストシーンまでを再生しました。石山さんはどのあたりをチェックされたのでしょう?
石山 ゴジラが熱線を吐いて、爆発の反射が船に当たるところなどです。制作時に柴崎さんがこのシーンを見て “おぉ” って言ってたんですよ(笑)。映画作品では、映像を見た時に “おぉ” とか “すげぇ” ってなるのが大事だと思っているんですが、この映像なら子供達もぽかんと口を開けて見てくれるんじゃないかな。
山崎 熱線がちゃんと光ってるよね。青いけど、ぎらっと眩しい光だった。
渋谷 画面の奥に向かって光が進んでいく感じがいっそう明瞭になりました。
――熱線を吐く前にゴジラの背びれが飛び出すのは山崎監督のアイデアだそうですが、そのあたりはイメージ通りでしたでしょうか?
山崎 いい感じですね。ちゃんと内側から光っている、やばいエネルギーがでちゃってる、という感じがします。
伊尾喜 ラストの「首の痣」も、やっとじっくり観察できました(笑)。
山崎 最初はこのシーンに音を付けていたんですよね。でもやりすぎかも、と思って外しました。
伊尾喜 それは貴重な裏話ですね(笑)。ちなみに、一回沈んで、再浮上してきた時のゴジラの皮膚の描写、目が飛び出しているところなども描き込みが細かかったですね。
山崎 UHDブルーレイは画質も4Kにアップコンバートされているから、よけいにディテイルがはっきり見えているかもしれません。こうなると本当にCGをちゃんと作りこんでおかないと駄目ですね。
――劇場上映時のマスターは4Kだったのですか?
石山 ドルビーシネマ版や通常上映は2Kマスターで、劇場のプロジェクターで4K変換しています。4Kマスターを作ったのはIMAX版だけです。
――ということは、UHDブルーレイ用に新たに4K変換を行ったわけですね。その作業も石山さんが担当されたのですか?
石山 弊社のテクニカルチームが作業しました。ただ今回は、もともとの素材に情報がある中に、さらに情報量のあるCGを加えています。また黒がしっかり締まっている分、ハイライトも効いてくる。それら色々な相乗効果があって、4K変換したらこういう絵が実現できたということだと思います。
――CGのポリゴン数もかなり増やしたそうですが、そこで苦労したことはあったのでしょうか。
山崎 今回はCG制作時に環境を照らす光源について、HDR-I(イメージ)という機能を使っています。これを導入したことで、屋外にゴジラが本当にいて撮影しているような映像に仕上がっています。
渋谷 ACESでちゃんと作っておいてよかったなって思いますね。今までの取り組みが『ゴジラ-1.0』に活きてきた。
伊尾喜 ラストで震電がゴジラに向かって突撃していきますが、その直前に遠くで機体がキラッと光るのが印象的でした。劇場ではここまで目立たなかったですね。
山崎 あそこは阿部さん(エグゼクティブ・プロデューサーの阿部秀司さん)のこだわりなんです。“遠くで光ってから飛んでくるんだよ” って言ってました。そこも含めて光源位置をちゃんと計算するという作り方を、全編で行っています。これまでCG制作のシーンでは光源の位置や強さまで再現しきれていなかったのですが、HDR-Iでは太陽のぎらっとした光まで表現できていると思います。
――続いて、65Z970Mで『ゴジラ-1.0/C』のブルーレイをご覧いただきます。こちらはSDR収録ですので、65Z970Mは「映画プロ」モードにセットします。
伊尾喜 『ゴジラ-1.0/C 』の劇場用マスターはどのカラースペースで仕上げられているんでしょうか?
石山 劇場版マスターは色域がP3で色温度がD65(6500K)、DVDなどの2次利用は色域Rec709でガンマ2.4にトランスフォームしました 。
直視型+2chの視聴システム
●4K液晶テレビ:レグザ 65Z970M
●UHDブルーレイレコーダー:パナソニック DMR-ZR1
●AVアンプ:デノン AVC-A1H
●スピーカーシステム:モニターオーディオ PL300II
ドルビービジョン収録のUHDブルーレイの実力を確認するべく、4K液晶テレビ「65Z970M」を準備した。独自の映像エンジン「レグザエンジンZRα」とMini LEDバックライト搭載4K液晶パネルの組み合わせで、緻密でコントラスト感に優れた映像を楽しむことができた。
――ということは、『ゴジラ-1.0/C』は単純にモノクロ変換したのではなく、グレーディングをやりなおしたと。
石山 まったく別物として作り直した感じですね。
――映画館で『ゴジラ-1.0/C』を拝見しましたが、コントラストの高さが印象的で、ディテイルも際立ってきたような印象もありました。モノクロの表現として工夫された点はあったんですか?
石山 最初の打ち合わせで山崎さんから出たヒントとして、“ライカのモノクローム” というキーワードがありました。さらに、光と影の世界というか、見えるところは見えていいんですけど、落とすところは落としちゃっていいということでした。
それがヒントになり、画作りの際にはビネットを使って周辺輝度を強めに落としていきました。その上で人物が通る時などに輝度が落ちすぎちゃったなと感じたら、画面全体はそのままで、暗いと感じた部分だけ輝度を戻すというやり方を採用しています。
――ビネットとはどういう処理なのでしょうか?
石山 画面周辺の輝度を抑える処理と考えてください。一番雰囲気のある落とし方を狙って、その中で落ちすぎたところは補正しながら、雰囲気を変えずに作品全体をまとめています。カラー版よりはハイライトの感じが強調できますので、ディテイル感や肌の質感などは情報を出していったという感じです。
山崎 僕自身はライカの名作写真にあるような、キチッとした硬めの絵の印象、独得の空気感を再現できればと考えていました。どのシーンで止めても、スチール写真のように見えたらいいなという気持ちだったのですが、そのイメージはちゃんと再現されていると思います。
石山 テレビは映画館と違って発光体なので、黒のコントラスト感を含めて情報が出てきます。ブルーレイのマスターでは、その中での見え方というところにも注意しました。今日のコントラスト再現は、すごくハマりがいいなって思って見ていました。
山崎 そうそう、これHDRじゃないのって気がした(笑)。電球の光などを見ると違うんだけど、そんな錯覚をしそうになります。
石山 コントラスト感を高く維持することと、人肌のハイライトの艶にこだわってみたのですが、それがいい感じにハマっていました。現代のモノクロというか、そういう感じに落とし込めているといいですね。
山崎 映像をもっと汚したり、昔風のコントラストの中に収めて古いフィルムみたいにするという方法もあったでしょうが、それは面白くないなと思ったんです。『ゴジラ-1.0』は現代の作品ですから、今のモノクロで撮ったらどうなるか、といったやり方を狙ってもらいました。
渋谷 岡谷市役所旧庁舎の作戦会議のシーン、質感もいいですよね(チャプター7)。写っている建物や役者さんの衣装などがすべて当時の物なので、カットとして落ち着きがあって本当に素敵でした。もともと『ゴジラ-1.0』が持ってた時代感が、しっかりモノクロ映像に反映されていると思います。
山崎 登場人物みんなが当時の服を着てこんな風に写っていると、得もいわれぬ時代感がでてきますね。どことなく、“初めて見た” 感じもする。
渋谷 ブルーレイで見てみたら、『ゴジラ-1.0/C』がものすごく新鮮でした! モノクロなのにフレッシュなんだなと感じたんです。
伊尾喜 『ゴジラ-1.0/C』は “映画を見ている感じ” になりますね。ドルビービジョン版はすごく生々しかったので、そこが違いかもしれません。何より『ゴジラ-1.0/C』は絵の透明感がすごい。山崎監督がおっしゃったライカのレンズの透明感というものが、納得できる仕上がりだと思います。
石山 僕もリアルタムでモノクロ作品を見てきた世代ではありませんが、今回改めて作業をしてみて、めちゃめちゃ面白かったですね。なんなら今後は一回映像をモノクロにして、素材の持っている質感を見極めた上でカラー作業に入っていくとかもやってみたいですね。
――ところで、『ゴジラ-1.0/C』のサウンドはカラー版と同じなのでしょうか?
竹内 井上さんと一緒に、フロント3ch版にしませんかといった提案もしてみたのですが、このままの方がいいんじゃないかということになりました(笑)。モノーラルはやりすぎかもしれませんが、お芝居部分でもうちょっとセンターに寄せてみてもいいのかなと考えたのです。今考えたら、ディスク用にモノーラル版を作ってもよかったかな。
井上 やってたら、いい特典になったかもしれませんね。
※5月13日公開予定の後編に続く
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