頼れるUHDブルーレイプレーヤーとして人気を集めたパナソニックDP-UB9000(Japan Limited)が生産完了となったのが、いまから約3年前のこと。以降、リーヴォンのUBR-X200がアナログ音声出力を備えた最後の砦となったわけだが、これも昨年、生産が打ち切られ、市場から姿を消してしまった。
事実上、通常のオーディオシステムにアナログ音声で接続できるビデオディスクプレーヤーは存在せず、史上最高レベルのAV的なクォリティを約束しているUHDブルーレイの再生には、HDMI入力を備えたシステムが不可欠となってしまった。
時代の流れといってしまえばそれまでだが、アナログ接続で音声が再生できるUHDブルーレイプレーヤーは、オーディオユーザーが映像付きのパッケージソフトやBDオーディオ、SACDマルチチャンネルやDVDオーディオなどの高品位サラウンドメディアを楽しむうえでも必要不可欠で重要な存在である。
「良質なアナログ音声出力を備えた本格的なUHDブルーレイプレーヤーが欲しい」
そんなAV、オーディオファンの熱い声に応えて登場したのが、ここで紹介するMAGNETAR(マグネター)のUDP800とUDP900の2モデルだ。
MAGNETAR
UDP800
オープン価格(実勢価格29万7,000円前後)
UDP900
オープン価格(実勢価格55万円前後)
【共通】
●再生メディア:CD、SACD、DVDビデオ、DVDオーディオ、BD、ブルーレイ3D、UHDブルーレイ、ほか
●バランス出力HOT=2番ピン
【UDP800】
●接続端子:アナログ2ch音声出力2系統(バランス、アンバランス)、デジタル音声出力2系統(同軸、光)、HDMI出力2端子(映像/音声対応×1、音声専用×1)、USB端子2系統(Type A×2)、LAN1系統
●寸法/質量:W430×H90×D312mm/約8kg
【UDP900】
●接続端子:アナログ2ch音声出力2系統(バランス、アンバランス)、アナログ7.1ch音声出力1系統(アンバランス)、デジタル音声出力2系統(同軸、光)、HDMI出力2端子(映像/音声対応×1、音声専用×1)、USB端子3系統(Type A×2 、Type B)、LAN1系統
●寸法/質量:W445×H123×D321mm/約15.5kg
●問合せ先:MAGNETAR Japan
MAGNETARは2021年に発足したばかりの新興のブランドで、本社ならびに生産拠点は中国・深圳市にある。同社が所属するグループ会社は、日本を含む世界各国のメーカーから依頼を受けて、生産するOEM事業が主力で、特にカーオーディオ関連の製品、部品の生産を手がけているという。
カーオーディオの場合、通常の家庭用機器に比べると、温度、湿度、土埃(ゴミ)などの使用環境への対応が厳しく問われる。その仕上がりの善し悪しが車自体の価値に直結するだけに、メーカーには高度な技術力とノウハウが求められることになるが、そこを主戦場としていることを鑑みても、メーカーとしての実力の高さが容易に想像できる。
7.1ch音声以外の基本機能はほぼ共通。いずれもクォリティ指向を徹底
さてUDP800とUDP900の機能面の主な違いは、アナログ音声出力のチャンネル数にある。2ch出力(RCA、XLR)仕様のUDP800に対して、上級機UDP900は2ch出力(RCA、XLR)とは別に独立した7.1ch出力(RCA)を備えている。
それ以外の基本的な機能は変わらず、価格とクォリティをバランスさせたスタンダードモデルUDP800と、物量を投じて画質/音質にこだわったUDP900という関係と見ていいだろう。
基本システムは両機種ともに台湾メディアテック製MT8581システムとし、ディスクドライブはソニー製481AAAレーザードライブを採用している。当然ながら、筐体や回路設計については異なるが、専用カバーで密閉されたドライブメカニズムを中心に、メインデジタル基板、電源回路、アナログ音声出力用オーディオ基板と、各回路を分離させて、振動/ノイズ対策を徹底させるという考え方は一緒だ。
上級機UDP900については、高剛性、低重心、制振性を追求したこだわりのシャーシ設計で、本体重量は15.5kgと超重量級だ。この重さには各回路を基板ごとに分離し、さらに金属カバーでシールドするという内部設計や、メイン基板用の高効率スイッチング電源とオーディオ回路用のリニア電源を分離した2系統の電源回路など、クォリティ指向の回路設計も少なからず関係している。ちなみにUDP800の本体重量は8kgと、こちらもこのクラスとしては相当重い。
UDP900の天板を開くと、ドライブを中心に整然と配置された回路基板が確認できるが、ここでひときわ存在感を示しているのが、アナログ2ch出力音声用の基板だ。優にアナログ7.1ch出力音声用基板の倍はありそうな基板面積で、高価な音響用コンデンサーや抵抗が贅沢に配置されているのが確認できる。
2ch出力用DACは、ESSテクノロジーのハイグレードチップES9038PROを投入している(7.1ch出力用にはES9028PROを採用)。出力端子についても完全に独立させた配置で、フルバランス伝送が可能なXLR出力と削り出しのRCA出力を用意している。
ディスプレイに接続してGUIを表示させると、なにやら見慣れたフォントと画面デザインが表れ、日本語表記も洗練されている。これはMAGNETARの輸入代理店を務めるエミライが実質的に担ってきたオッポデジタルでの経験を活かして磨き上げたものだ。その意味での安心感も高い。
MAGNETAR
UDP800
比較的薄型ボディとなるUDP800は、A/Vセパレート出力可能な2系統のHDMI端子はもちろん、アナログバランス2ch音声出力端子も装備。ハイグレードなホームシアター環境のほか、アナログ・ステレオオーディオシステムにビデオソースを加える際にも最適だ
UDP900
高さ12cmを超えるマッシブなボディが際立つ上級機UDP900。強力な電源や強靭なシャーシなど豊富な物量が投入されているためか、かなりの重量級ビデオプレーヤーだ。ESSテクノロジー製高品位DACチップES9038PROを投じた2chアナログ出力のほかに、ES9028PROを用いた7.1chアンバランス音声出力も搭載している
UDP900の内部分解図。回路要素ごとにエリアを分割、金属カバーでシールドを施し、相互干渉を徹底的に防ぐ。シャーシ自体は、スチル鋼板とアルミニウム合金を適材適所で組み合わせて、しかも振動対策が入念に施されている。本体向かって左側に配置された電源部はトロイダルトランスを金属シールドケースにエポキシ樹脂で充填し、振動等の影響を抑えたリニア電源仕様。中央前方のドライブメカニズムも完全に密閉された構造で、高速かつ安定した正確な読み取りを目指す。右側はアナログ2ch用音声基板、ドライブの後方はアナログ7.1ch用音声基板となっている
正攻法の仕上がりのUDP800。2chの音も勢いがあり魅力的だ
今回の取材は、HiVi編集部と相談のうえ、より入念な取材をすべく自宅シアター(山中湖ラボ)で実施、コントロールAVセンターはユーザーが多いと思われる国産モデル(マランツAV10)を用いることにした(それ以外の機種などの詳細は下の製品写真キャプションを参照)。
では早速、UDP800から見ていこう。日頃から見慣れているUHDブルーレイの映画『ジョーカー』を再生してみたが、輪郭がキリッと締まり、ノイズが細かく、ディテイルの描写も悪くない。ダイナミックレンジは中庸。コントラスト感、色彩表現ともに、オーバーにならず、素材の持ち味を素直に引き出す絵づくりも好印象だ。
HDMIセパレート接続で聴くサウンドはスクリーンに自然に定位するセリフと、その奥に前に拡がる効果音、音楽のバランスがいい。ラグタイムピアノの響きは、明るく、軽快。車の走行音、クラクションも明瞭度が高く、窮屈な感じもない。
アナログ2ch接続(XLR)でCD再生も試してみたが、引き締まった音像をくっきりと描き出す爽快なサウンドで、溌剌とした小気味のよさが持ち味。足元をしっかりと見据えながら、入力された信号に的確に反応する俊敏さを備え、しかも音そのものに勢いがある。奇をてらうことのない正攻法の仕上がりと見た。
取材は藤原さんのご自宅シアター、山中湖ラボで行なった。主な使用機材は以下の通り。プロジェクター:JVC DLA-Z1、スクリーン:キクチ グレースマット100、コントロールAVセンター:マランツAV10、パワーアンプ:マークレビンソンNo332L、インテグラリサーチRDA-7×2、スピーカーシステム:ウエストレイクBBSM-15、BBSM-10VNF、リンAV5140、ALR/ジョーダンEntry3M、マグナットOMEGA530
感動と興奮をもたらすUDP900の非凡な実力
続いて上級機となるUDP900。ディスクドライブはUDP800と変わらないとのことだが、筐体の剛性、振動対策の違いなのか、ディスク挿入時の動作音は低く、ディスクの回転音についても、気にならないほど静かだ。
さて画質だが、『ジョーカー』の再生では見た目の解像感、尖鋭感はUDP800とそれほど変わらない。ただ映像の基礎体力とも言えるコントラストに余裕があるためか、全体のフォーカスが鮮明で、微細な情報も把握しやすい。
ホアキン・フェニックス演じる傷心のアーサーが3人の証券マンに絡まれ、思わず発砲してしまうチャプター4。薄暗い地下鉄内での出来事で、階調的にもS/N的にも相当に厳しい場面だが、ノイズのざわつきは気にならず、不安な表情でアーサーに目配せする女性の表情までしっかりと映し出してみせた。
音はワイドレンジで、しかも低域が分厚い。地下鉄の激しい走行音のなか、事件は勃発するが、左右に次々にすれ違う列車の動きをしっかりと描き分けながら、列車内でのセリフは聴き取りづらくはならず、弦楽ストリングスと重低音の効果音も浸透力がある。この押し出しの強さ、安定感は、贅を尽くした筐体設計の賜物と見て間違いないだろう。
そのままSACDマルチ収録の『リスト/反田恭平』から「ラ・カンパネラ」を再生。全体に刺激を抑えた穏やかな聴かせ方で、空間の拡がりも滑らかだ。静けさ、見通しの良さ、表現の緻密さと、絶対的な情報量の余裕を感じさせ、聴き手をやさしく覆い包むような、肌合いの良さが実に心地いい。
HDMI接続で十分満足のいくクォリティ感だが、アナログ接続(XLR)に変えると、その感動はいっそう高まる。AV10にマルチチャンネル入力がないため、ステレオ再生でのチェックとなったが、これが実に堂々とした落ち着きのある響きで、音の勢いや鮮度、空間の描き分けと、随所で本格プレーヤーとしての非凡さを感じさせる。
特に中低域の分解能の高さには目を見張るものがあり、強靱、かつ晴れやかなサウンドが躍動する。微小信号の解像、空間の静けさ、ピアニシモの描写と、単体の高級オーディオプレーヤーに通じる表現力と言っていいだろう。
設定メニューは、美しいフォントによる日本語表示となっている。マニアックなシアター環境で使う際には、設定画面のわかりやすさや優れたレスポンスが大切だが、そうした点もしっかりと考慮されており、ユーザーマインドを理解した製品づくりが感じられる
ついつい興奮して紙幅をオーバーしてしまったが、画質、音質については、UDP800、UDP900ともに及第点をクリアー。特に上級機のUDP900については、これまで登場した高級ビデオプレーヤーを超えていると感じる部分も多く、もう1度、時間をかけてじっくりと使いこなしてみたいと感じた。
ビデオディスク、サラウンド音声収録のオーディオディスクの潜在能力を積極的に引き出し、映画や音楽を最高レベルの品質で楽しませてくれる本格UHDブルーレイプレーヤーの登場。大いに歓迎したい。
本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』